近年、各地で大雨による川の氾濫が発生。
特に川の水が集まる中流域や下流域の低地では氾濫が起きやすくなっています。
住宅が密集する下流域では堤防をかさ上げするなどの対策も進められていますが、これだけでは防ぎきれません。
そうした中、注目されているのは上流部にある水田です。田んぼに水をためて洪水を防ぐ「田んぼダム」という取り組みを取材しました。
(千葉放送局記者・木原規衣)
2級河川「一宮川」の中流域にある千葉県茂原市。
9月8日の記録的な大雨で氾濫が発生し、広い範囲が浸水しました。
徐々に地盤が沈下している地域もあり、過去に繰り返し水害を受けてきたことから、県や流域の自治体では堤防のかさ上げや遊水池の整備などで川があふれないよう対策してきました。
堤防の整備とあわせて進めてきたのが、川に流れ込む雨水の量を減らす取り組みです。田んぼに一時的に水をためる「田んぼダム」もその1つです。
「田んぼダム」は、上流の田んぼに仕切り板などを設置し、田んぼに降った雨水を時間をかけてゆっくり排水することで、水路や川の水位の上昇を抑え、あふれる水の量や範囲を抑制するというものです。
茂原市内でも9年前から田んぼダムに取り組んできました。しかし、今回の大雨では効果は限定的で、浸水被害を防ぎきることはできませんでした。
中流域にある茂原市で田んぼダムに取り組む農家の渡邉幹夫さんは、どうすれば被害を軽減出来るのか頭を悩ませています。
今回の大雨の前にも仕切り板を設置しましたが、周辺の道路まで冠水していました。あれほどの大雨だととてもとても太刀打ちできない。なるべく協力してくれる農家の人を増やしていかないといけない。
課題は、効果が期待できる上流域で取り組む田んぼが少ないことです。
茂原市で田んぼダムに取り組んでいるのは47ヘクタールと、そのほとんどが過去にも浸水を経験した中流域にあります。
雨のたびに田んぼの排水量を調整する手間がかかるうえ、上流域では浸水リスクが低いため農家の理解を得られにくいといいます。
板の操作が農家の負担になっているという意見を聞いています。
いかに協力してくれる農家を増やすのか。
米の生産量が全国一の新潟県では先進的な取り組みをしている地域があります。
新潟県見附市では田んぼダムに取り組む農家に、8年前の平成27年から調整管1本につき500円の協力金を支払っています。ボランティアではなく、協力する農家にインセンティブを与える仕組みです。
さらに、排水量を自動で調整し、農家が操作をしなくても田んぼに水をためられる設備を開発。
そうした仕組みによって、農家の協力率は95%に向上しました。
農家さん自身にも何かメリットはないといけないということで、この仕組みを作りました。農家さんの不安や負担をどれだけなくせるかが鍵だと思います。
千葉県内でもできるだけ簡単な方法で取り組みを広げようとしている地域があります。
白子町で活用されているのはL字型の管。
田植えの時期に水をためるため、ふだんから使っているものです。
水を深さ10センチ程度までためることができ、新たに設備を設置する必要もないため、町のほとんどの田んぼに広がっています。
田植えの時に使う管を活用します。
大雨が来るぞ、という時にも設置して、田んぼに水をためるようにします。
農家にとっては、簡単な方が広がりやすい。
専門家のシミュレーションによると、流域のすべての農地が田んぼダムに取り組めば、床上浸水する地域の面積を6割程度減らすことができるという試算も出ています。
流域治水に詳しい新潟大学農学部の吉川夏樹教授は、取り組みの主体となる農家が協力しやすい仕組みを作ることが必要だと指摘します。
あらゆる関係者がみんなで取り組むことによって、流域全体から出てくるピークの流量を減らしていこうということですから、やれば得する仕組みをきちんと構築していくということが田んぼダムの普及においては一番重要です。