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柏市議会 議員のハラスメントどう防ぐ? 条例で研修会開催 今後の課題は 千葉

  • 2023年09月26日

「意に沿わない対応をどう喝された」「彼氏がいるのか聞かれた」

千葉県の柏市議会では、議員による市職員へのハラスメント行為が調査で明らかになりました。

新たにハラスメント防止の条例を制定し、全議員が出席する研修会を開くなど、対策が進められています。しかし、実効性のある対策を打ち出せるのか、課題も見えてきています。

ハラスメント防止をめぐる柏市議会の動きについて、詳しくお伝えします。

(千葉放送局 東葛支局記者・間瀬有麻奈)

職員157人「ハラスメント受けた」

柏市議会がことし4月、市職員を対象に行った調査の結果は、衝撃を持って受け止められました。

議員からハラスメント行為を受けたことがあるか尋ねたところ、1827人から回答があり、このうち157人が「受けたことがある」とし、316人がハラスメントを「見たことがある」と回答しました。

具体的なハラスメント行為については、複数選択で次の回答がありました。

「ささいなミスを大声で叱責・必要以上に長時間の叱責・意に沿わない対応に恫喝」:169人

▼「彼氏や彼女がいるのかと聞かれる・早く結婚しろと言われるなどで苦痛を感じる」:154人

▼「プライベートの話を職場などで大きな声で話をされ、苦痛を感じる」:105人

▼「プライベートの話を執拗に聞かれることにより、苦痛を感じる」:100人

▼「性的な言葉を言われる・周囲で性的なことを話している」:73人

ハラスメントを受けた際の対応について尋ねたところ、「何もしなかった」という回答が252人で最も多くなりました。その理由として、次のことが挙げられました。

「相談しても解決しないと思った」:177人

▼「業務に支障が出ると思った」:127人

▼「我慢した方がいいと思った」:79人

▼「職場での立場が悪くなりそう」:48人

職員に話を聞くと…。

柏市の職員

「議員が上の立場」という態度を取られることがよくあります。こちらが声を上げたとしても、「どうにもならない」と諦めています。

 「ハラスメント防止条例」制定

事態を重く見た柏市議会。超党派の議員でつくる検討会で、ハラスメントの防止を目的とした条例案をまとめ、ことし6月、賛成多数で可決・成立しました。

条例の主な内容は、次の通りです。

▼議員によるハラスメント行為が疑われたときは、議員みずからが誠実に疑惑の解明にあたって責任を明確にすること

▼議員は、ほかの議員によるハラスメントが疑われる行為があると知った場合、その議員に直接指摘するよう努めなければならない

▼議長は、事実関係を把握してハラスメント行為を確認した場合、その議員の氏名を公表する

▼議長は、ハラスメントに関する相談窓口を設置する

▼議長は、議員を対象とした研修会を実施する

条例の実効性 “課題”も

条例が制定されて4か月近く。条例を元に、ハラスメント行為を防ごうという動きが実際に始まっています。

9月22日、議会の一室に議長や副議長など議員4人と、議会事務局の職員が集まって意見を交わしました。

円谷議長は、危機感をもって対策にあたる必要があるとの考えを示しました。

円谷憲人 議長

ことし6月にハラスメント対策の条例案を採決した際、34人中5人の反対が出て全会一致となりませんでした。

8月の市議会議員選挙で当選した新たな議員もいるので、全員がハラスメントに対する共通認識を持ち、条例を実効性のあるものにしなければならないと思います。

松本寛道 副議長

条例の制定は全国的にあまり例のないことで、どうしても手探りになることもあると思います。

目的はハラスメント防止であって、条例制定ではないので、継続的に取り組む必要があると思います。

また、議会事務局には、条例に基づいて職員からのハラスメントに関する「相談窓口」が設けられましたが、これまで職員からの相談は寄せられていないということです。

阿比留義顯 議員

情報の秘密を守れないと相談しづらいはずです。どうしたら秘密が守られる枠組みになるのか検討していかないといけません。

議会事務局長

相談を受ける職員にも専門性が必要だと感じています。どこまで関わっていいのかなど、頼れるような専門家をしっかりと育てていきたいです。

全議員で「研修会」開催

9月26日には本会議に続いて、条例に基づく「研修会」が初めて開かれ、36人の全議員が出席しました。

講師を務めたのは、地方議会などでコンプライアンスの研修を行っている「公務員研修協会」の高嶋直人 代表理事です。

「公務員研修協会」高嶋直人 代表理事

議員と市の職員は、政治活動を行う点は違うものの、同じ地方公務員だと認識するべきなのに、間違って認識している人がいます。議員と市の職員との関係には、ある程度の緊張感は必要ですが、ともに行政を担うパートナーとしての関係性を築くことが大切です。

質疑では、出席した議員から、さまざまな質問が出されました。

市議

パワハラ行為の定義に含まれる「優越的な関係」は、議員どうしだと、どのように考えられるのでしょうか。大きな会派の議員と、小さな会派の議員に対する関係などが該当するかと思いました。

高嶋代表理事

職務上の上下関係だけでは判断できません。人と人の関係性の話で、年齢の上下、多数派か少数派かなど、どちらが優越的な立場なのかは総合的に判断しないといけません。

市議

ハラスメント行為の相談窓口は、組織の内部と外部、どちらにある方がいいのでしょうか。

高嶋代表理事

内部と外部にそれぞれ設けて、両方の意見を突き合わせて判断する形や、第三者の有識者を含めた委員会を内部に設置する方法もあります。

最後に高嶋代表理事は次のように述べ、議員たちに、さらに取り組みを進めるよう求めました。

高嶋専務理事

柏市議会の条例は、自分たちを厳しく縛るもので、全国の中でも特に進んだものです。

全国をリードする前例として、ぜひ対策を進めていただきたい。

出席した議員に、研修会の受け止めを聞きました。

新人議員

議員になると、偉くなったと勘違いしてしまいがちなのですが、どちらが偉いとかではなく、柏市をよくするため、議員も職員もお互い切磋琢磨していくことが大切だと認識を改めました。

新人議員

これまでもハラスメントには気をつけていたつもりですが、研修を受けて、議員にはより高い倫理観を求められていると認識できました。

市の職員との関係においては、緊張感とハラスメントの境界線を意識して対応する必要があると感じました。

条例案作成に関わった議員

研修によって、議員36人全員が、ハラスメントに対して共通の認識を持てたはずです。

議員と職員が、互いを尊重する関係性を構築するための基礎ができたと思います。

広がる「ハラスメント防止条例」

柏市議会のように、議員によるハラスメント行為を防ごうという動きは、全国に広がりつつあります。

地方行政について調査や研究を行っている「地方自治研究機構」によりますと、議員によるハラスメントを防止する条例を設けている自治体は、次の26市区町村と2府県に上るということです。

北海道恵庭市、北海道愛別町、青森県五戸町、青森県七戸町、宮城県蔵王町、埼玉県川越市、埼玉県東松山市、東京都世田谷区、東京都狛江市、東京都利島村、千葉県柏市、神奈川県大和市、岐阜県本巣市、三重県四日市市、大阪府池田市、大阪府忠岡町、兵庫県洲本市、徳島県吉野川市、徳島県松茂市、福岡県中間市、福岡県築上町、熊本県人吉市、熊本県あさぎり町、宮崎県えびの市、宮崎県三股町、鹿児島県曽於市、福岡県、大阪府

このうち、大阪府や千葉県柏市、神奈川県大和市など9自治体では、ことしに入ってから条例が施行されました。

各地で条例を制定する動きが広がる中、柏市議会では「条例制定が目的ではない」として、対策の実効性を確保するための模索が続いています。

研修会でも、うなずきながらメモを取るなど、熱心に講演を聞く議員がいた一方で、議員によって態度にはばらつきもありました。

市民から信頼される議会へ。今後、どのような対策が進むのか、引き続きお伝えしていきます。

  • 間瀬有麻奈

    千葉放送局 東葛支局

    間瀬有麻奈

    東葛地域を担当し、柏市議会を継続取材中。 取材を通して議会の存在を身近に感じています。

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