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千葉 印旛沼 巨大な沼の防災対策 大雨災害から3年で対策進む

  • 2022年10月27日

千葉県北西部に位置する「印旛沼」。流れ込む川を含めた流域の面積は、千葉県全体のおよそ10%を占めます。
3年前の豪雨では、この沼の周辺でも被害が広がりました。
沼の水位を抑えるにはどうすればいいのか、関係者の理解を得ながら対策を進める現場を取材しました。

(千葉放送局成田支局 櫻井慎太郎)

印旛沼

千葉県北西部に位置する印旛沼です。
豊富な水は漁業や周辺の農地に活用されるほか、水道水として千葉市などに住むおよそ300万人に供給されています。

京葉工業地域

また東京湾に面した工業地域にも工業用水を送り、製鉄業など60余りの事業所で利用されています。

3年前の印旛沼周辺での被害

3年前の10月25日に千葉県を襲った豪雨では、印旛沼の周辺でも被害が広がりました。
沼の水位は、過去最も高くなり、沼に流れ込む鹿島川と支流の高崎川が行き場をなくしてあふれました。

少なくともおよそ50棟の住宅が浸水し、国道などの基幹道路も数日間にわたって冠水しました。
車ごと流されたとみられる男性1人も亡くなっています。

当時、川からあふれた水の排水にあたった消防団員の杉浦さんに話を聞きました。
沼の水位が下がらず、対応に苦労したと言います。

佐倉市消防団
杉浦修一分団長

排水作業をしても、水がどこからか戻ってきてしまう状況でした。結局、先の印旛沼の水位が下がらなければ、水が流せないんです。

浮き彫りになった課題

被害が広がった要因の1つが、予測を超える大雨で、事前に水位を下げる対策がとれなかったことにあります。

酒直水門

沼の水が利根川に流れ出るところにある酒直水門では、大雨が予測される場合、沼の水位を管理する水資源機構が、この水門を開けて事前に水位を下げる「予備排水」を行います。

予備排水の仕組みです。利用する水の量を確保するため、ふだんは水位は一定に保たれています。

大雨の際は、予測雨量が「基準」を超えると水門を開いて水位を下げます。

排水には時間がかかるため、予測を踏まえた早めの対応が重要になります。

しかし3年前の豪雨では、予備排水が行われませんでした。
予測の総雨量は100ミリ程度で、水位を下げる基準となる150ミリを下回っていたのです。

実際の総雨量は予測の2倍となる205ミリにのぼり、水位は過去最も高くなってしまいました。

独立行政法人水資源機構 千葉用水総合管理所 海野正哉 管理課長

海野 管理課長「予備排水に実施する判断基準に至ってなかったということで行わなかった。予備排水を行えていれば、水位が低く抑えることができた」

予備排水の基準を下げることに

しかし、念のため予備排水を行えばよいというわけではありません。
万が一、水量が回復しない場合、水の利用に影響がでるおそれがあるからです。

このため予備排水は、どれぐらいの雨が予測されるときに行うのが適切か、現在もその基準を探っている最中なのです。

関係者の会議の様子(提供:独立行政法人水資源機構 千葉用水総合管理所)

そのうえでは、水を利用する関係者の理解が重要になります。
水資源機構と千葉県は3年前の豪雨を受け、そのときのデータを示し、こうしたときには段階的に水位を下げることなどを提案しました。

そして関係者の合意を得て、水害の翌年に基準を「総雨量150ミリ」から「100ミリ」に引き下げました。

その後も予備排水を実施する度に検証を行っています。

2021年6月のグラフ

こちらは、去年6月の梅雨前線による大雨の際の記録です。
予測の2倍を超える269ミリの雨が降りましたが、予備排水を実施したこともあり、はん濫注意水位を超えずに済みました。

しかし、ことし7月には、いわゆる「空振り」が起きました。
予測は100ミリを超えましたが、実際にはほとんど降りませんでした。
当初の予測よりも雨が少なくなる見通しとなった時点で排水を止め、その後ポンプで川の水をくみ上げて水量を回復できることが確認できました。

こうしたデータは定期的に水の利用者に伝え、予備排水への理解につなげています。

千葉市にある製鉄所です。
鉄を冷やすのに大量の水が欠かせず、1日あたりおよそ10万トンを取水していますが、データをもとにした説明を受けて理解を示しています。

JFEスチール東日本製鉄所
降旗勤エネルギー部長

印旛沼の水は製鉄所にとって非常に貴重な資源となっています。丁寧な資料をご提示いただいて合意に至りました。

水資源機構では、今後も関係者の理解を得ながら対応にあたりたいとしています。

千葉用水総合管理所 海野管理課長

ルールにのっとって適切に予備排水を行って、洪水排水を行うということが使命だと考えております。今後も実績を重ねていきたい。

取材後記

印旛沼では、流域の住民らも治水対策に協力しています。
その対策の1つがこちらの「浸透ます」です。

これは、雨水を地面にしみこませて、沼や川にすぐに水が流れないようにするものです。
予備排水は、沼に流れ込む水に備えるものですが、浸透ますは流れ込む水のスピードを抑えるというものです。
印旛沼流域では自治体や住民らが10年前から協力して設置を進めていて、去年3月末までに16万8000個余りが設置されています。
大規模な水害が増える中で、流域のあらゆる関係者が協力して対策にあたることが大切になっています。
被害を少しでも防ぐために、こうした取り組みが広がっていってほしいと思います。

  • 櫻井慎太郎

    千葉放送局成田支局

    櫻井慎太郎

    取材を通じて知った印旛沼の恵みの大きさに驚きました。なまずの天ぷらもおいしいです。  

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