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“大停電”台風から3年 地域で何を備える?

  • 2022年09月09日

最大64万戸が停電に見舞われた2019年9月の台風15号。停電は長いところで2週間以上続き、8人が熱中症など停電の影響で亡くなりました。
しかし、県内には当時、いち早く電力を復旧できた地域がいくつかありました。取材した3つの現場から見えてきた「備え」のキーワードは、「エネルギーの自立」でした。

(千葉放送局・大岡靖幸、岡本基良、坂本譲)

停電から5時間で復旧!

まず私たちが訪ねたのは、睦沢町にある道の駅です。
3ヘクタール近くの広大な敷地に、温浴施設やレストランを備えた道の駅や、33戸の町営住宅などが建ち並んでいます。

3年前の台風15号では、睦沢町の町内でも数日間にわたって停電が発生しました。しかし、道の駅は停電からわずか5時間後には電力を復旧。地元の住民が携帯電話の充電をしたり、温水シャワーを無料で使ったりすることができました。

当時の道の駅の様子(写真提供:むつざわスマートウェルネスタウン)
当時の利用者

「そりゃあ、助かった。ありがたかったよ」

秘密は地元産「天然ガス」

なぜ、直後に電力の復旧ができたのか。秘密は、地面の下にありました。睦沢町を含む外房地域の一帯は、知る人ぞ知る、国内有数の天然ガスの産出地です。
この道の駅では、「地元産」天然ガスを利用した自家発電を備え、専用の電線を通して敷地内の町営住宅などにも電力を供給しています。

自立した電源で電力を作り出し、限られたエリア内で利用する「マイクログリッド」という仕組みです。さらに発電時に出る廃熱も再利用し、水を温めて温浴施設に利用しています。整備にはコストもかかりますが、国の補助金などを活用し、地域の資源を生かしながら災害時にエネルギーが「自立」するまちづくりを実現しました。

「むつざわスマートウェルネスタウン」
嶋野崇文 社長

「たまたま睦沢町では安定してガスを供給してもらえるので、うまく活用するまちづくりを行ったところ、災害時の拠点として活用できることが分かりました。地域にあるものを活用して、安定して電力が供給できるような仕組みが日本じゅうに広がれば、日本全体のエネルギーのためになると思います」

身近なものが命の支えに

続いて私たちが訪ねたのは、横芝光町の高齢者施設です。
3年前、周辺の地域では5日間にわたって停電に見舞われましたが、施設の運営に最低限必要な電力はまもなく復旧しました。
その時に活用されたのは、送迎用の電気自動車です。

この施設では、以前から送迎用の車を電気自動車にしていました。
東日本大震災の時にも停電を経験し、非常時のエネルギー供給源の必要性を実感したことから、ふだん使いもできる電気自動車を採用したということです。
当時、電気自動車からケーブルをつなぎ、必要最小限の施設の照明と、冷蔵庫や扇風機を動かすことができました。

「グループホーム光」
辻内通弘 代表

「利用者に脱水症状などを起こす人はおらず、入所者の命を守ることができたのは電気自動車のおかげだと思っています」

経験生かし「電力ボランティア」に

台風のあと、施設ではさらに2台の電気自動車と、車の電気を家庭用に変換する機械を追加で導入しました。停電時により多くの設備を使えるようにしたり、地域の人たちに活用してもらったりする目的です。
県が設けた「電力ボランティア」にも登録しました。
この制度は、電気自動車などを所有する企業や個人をあらかじめボランティアとして登録し、災害時に避難所などで電力を供給してもらおうというものです。台風15号での経験を生かし、電力供給に貢献したいとしています。

「グループホーム光」
辻内通弘 代表

「電気自動車はふだん使いはもちろん、困っている施設があれば移動して、車を蓄電池として使って施設内に電気を送ることができるので、災害時の電源として非常に有効だと思います。『動く蓄電池』として、これからもっと普及してほしいですね」

「黄金ペア」で避難所も備え

千葉市内の避難所にも、停電が起きる中で電力を保ったところがありました。
緑区の越智公民館には、6年ほど前から、蓄電池と太陽光パネルが設置されています。
このセット、「黄金ペア」とも呼ばれるものです。
コストがかからないものの不安定な太陽光発電と、充電と放電ができる蓄電池の組み合わせは、最も手軽にクリーンな電力を安定して供給できる設備とされています。

3年前、公民館は台風15号と19号の際に停電。
この際には「黄金ペア」が活躍し、近隣の住民の携帯電話の充電などで活用されました。

越智公民館
大林景子さん

「充電できますか?という電話の問合せは頻繁にありましたし、公民館で充電できるという噂が広まったのか、多くの方が充電に来られていました」

「黄金ペア」が設置されている千葉市の避難所は、3年前の時点では20か所未満でしたが、この経験を生かし千葉市は、3年間で避難所の7割近くにあたる182か所にも新設する方針を表明。今年度中には設置が完了する予定です。
設置にあたって課題だったのはコストです。しかし、千葉市は電力会社に施設の屋根を貸す形の「PPA」という仕組みを活用。電力会社に太陽光パネルを設置してもらい、国の補助金も活用することで、市として初期費用を負担することなく導入を実現しました。

千葉市環境保全課
秋山智博 担当課長

「無尽蔵にある太陽の光を活用し、自立した電源をそれぞれの施設で持つことによって、災害に強いまちづくりが実現できると思う」

「ボン!」蓄電池が突然停止

しかし、それは台風19号で停電しているさなかに起きました。
多くの避難者が身を寄せていた越智公民館で、夕方、突然「ボン!」という大きな音を立てて、蓄電池が停止したのです。館内は停電し、避難者はざわめきました。当時の対応を記録した文書には、「16時15分に太陽光蓄電量が30%を切り自動停止」と書かれています。

夕方になって太陽光が弱くなった時間帯。蓄電池の残量が不足したことが原因でした。「黄金ペア」は昼間に電気を貯めて夜間に使ってこそ効果を発揮します。しかし、避難所の運営に追われる中、蓄電池の運用に気を配っている余裕はなかったといいます。

越智公民館
大林景子さん

「多くの方がいらっしゃっていたので、その対応で蓄電池は見に行く余裕はなかったです。様子を見ることができていれば、状況を見て節電するなどして、もうちょっと蓄電池が長もちしたのかなと思います」

千葉市は、こうした教訓を踏まえて、設備の使い方を記したマニュアルを普及させるなどして、災害時に活用できるよう習熟を図りたいとしています。

千葉市環境保全課
秋山智博 担当課長

「事前の準備でも、緊急時の対応としても使えるようなマニュアルを整備して、内容を周知していかなければいけないと思っています」

重要性増す「エネルギーの自立」

台風をきっかけに広がりつつある「エネルギーの自立」の動き。地球環境戦略研究機関(IGES)の 藤野純一上席研究員は、災害対策に限らず、重要性を増していると話しています。

IGES
藤野純一
上席研究員

「昨今のウクライナ情勢を背景とした不安定なエネルギー情勢などで、地域でも、非常時でも平常時でも使えるエネルギー源を確保していくことが非常に重要です。これまで地域にとってエネルギーは、電力会社などが安定して供給してくれるものだったが、これからは地域で責任を持ってできることはやる『自助』の取り組みが必要になる。それが地域の人たちの生活を守り、ひいては国全体のエネルギー安全保障の上でも重要性が増していると思う」

取材後記

当時、私は千葉放送局で台風15号の取材をしていましたが、大きな鉄塔の倒壊や折り重なるように倒れた電柱や木など、信じられない光景の連続に言葉を失いました。また、残暑が厳しい中、停電でエアコンも使えない現状に、現在の電力供給体制のもろさを痛感しました。今回の取材は「災害時に強い」電力のあり方を当時の経験から模索するものですが、3つの例のいずれも「普段から」使えるところがポイントだと感じました。(大岡靖幸)

長年、大手電力会社任せになってきた電力供給は、原発事故や電力自由化、昨今の燃料価格の高騰などの社会情勢の変化で、少しずつ身近なテーマとなってきました。しかし、いまも各自治体にエネルギーの担当部署がないところも多く、全国ではエネルギーを地域課題として捉える機運は十分に高まっていません。大停電に見舞われた千葉県は、その点で課題感を強く持っている地域が多いことに改めて気づきました。今回取材した以外の地域でも、「エネルギーの自立」の構想は多くあります。今後も丹念に追っていきたいと思います。(岡本基良)

台風による大規模停電で命が奪われた事例もありました。この教訓から停電時の電力供給は絶えず課題として挙げられ、「エネルギーの自立」が一つの解決策として注目を集めつつあります。導入にはコスト面などの課題もあると思いますが、災害時の強みがある画期的なシステムなのは間違いありません。国などの補助金などで敷居を低くし、より普及が進んでほしいと感じました。(坂本譲)

  • 大岡靖幸

    千葉放送局 記者

    大岡靖幸

    1998年入局。台風15号の停電経験を踏まえ、自宅用にポータブル蓄電池を購入しました。定期的に充電して停電に備えていますが、幸いなことにまだ出番はありません。  

  • 岡本基良

    千葉放送局 記者

    岡本基良

    2009年入局。これまでにスマートグリッド、FIT制度、電力自由化などを取材。「脱炭素時代のエネルギー」に関する取材はライフワークです。

  • 坂本譲

    千葉放送局 記者

    坂本譲

    2020年入局。これまで台風15号ゴルフ場鉄柱倒壊問題、放置空き家問題などを取材。まだマイカーは持っていませんが、取材を通じて電気自動車の購入も検討したいと思いました。

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