イスラエル住民とパレスチナ系住民 ともに作るオリーブオイル 仙台の女性が広める!

イスラエルやパレスチナではオリーブが特産、ということをご存じでしょうか?
そのオリーブを使い、世界的コンクールで何度も入賞するほど良質なオリーブオイルを作っている工場が、イスラエルのガリラヤという地域にあります。
そこは、イスラエルのユダヤ系住民とアラブ系(パレスチナ系)住民が共同で運営し、
「民族も男女も、すべての違いは関係ない。共に理解して仕事をし、良質な製品を作り続けること」を理念として掲げています。
それに共感し、20年以上、オリーブオイルなどの製品をその工場から「フェアトレード」(企業の買いたたきなどを排除して途上国の生産者を守るため、生産者と消費者が対等な立場となり、製品への正当な対価を支払う考え方)で日本に輸入し、販売している女性が仙台市にいます。

取材を進めるなかで「知ってもらうこと、関心を持ってもらうことだけでも、現地の方にとっては“自分たちは世界とつながっている 一人ではないんだ“ と希望になるのだ」という言葉に触れました。
本当に小さなことだけど、宮城からでもできることもきっとある。そう願いながら取材しました。

(記事の最後に、11月15日に『てれまさ』で放送した動画があります)

 

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(仙台市青葉区の古本カフェ 店内)

取材のきっかけとなったのは、仙台市青葉区、NHK仙台放送局の近くにある古本カフェ。
その一角に、イスラエル・ガリラヤ地方の工場で作られたオリーブオイルや、
パレスチナのイドナ地方で作られた刺繍製品などが置かれていました。
店内では、このオリーブオイルを使ったピザトーストを、ランチセットで頂くこともできます。

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オリーブオイルはサラサラしていてとても軽いのに、しっかりした風味があり、
ヨーロッパや日本のコンクールで多数入賞するなど高く評価されています。
このオリーブオイルを作っている工場「ガリラヤのシンディアナ」は、イスラエルのユダヤ系住民と、アラブ系(パレスチナ系)住民が共同で設立し、いまも協力して運営する非営利の生産者団体です。

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(皆川万葉さん)

製品を現地から輸入・販売しているのが、仙台市若林区にある会社です。
代表の皆川万葉(みながわ・まよ)さんは、大学時代にパレスチナに関心を持ち、現地に留学するなどして、30年近く交流を続けてきました。
「“争いの地”という先入観があったけれど、訪れてみると、洗濯をしたり買い物に行ったり、私たちと同じような日常の暮らしがあった。だからこそ、パレスチナ地域の人々の普通の暮らしを伝えたいと思った」と言います。

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(皆川さんが顧客向けに作っている冊子『ぜいとぅ~ん』より)

交流を続けるなかで多くの生産者とも出会い、品質はもとより、オリーブオイルを作る工場の理念にも共感。25年前に会社を設立して、フェアトレードで輸入を始めました。一般的なスーパーなどで売られているオリーブオイルよりも高額ですが、いまでは東京から沖縄まで全国約150の店舗で扱われているほか、問い合わせや注文が増えていると言います。
「古くから作ってきた製品、しかも高品質な製品が海外で売れる。売れるということは認められるということ。それは現地の生産者にとってなによりも励みになる」と皆川さんは言います。

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取材した11月上旬のこの日、皆川さんはイスラエル・ガリラヤ地方にある現地工場の担当者とオンラインで話しました。
相手は工場に併設しているビジターセンター(製品の紹介や関連ワークショップなどを行う来訪者用施設)の責任者・ナディアさん。アラブ系(パレスチナ系)の女性で、この工場の理念を伝える役割を担っています。
今の情勢を受け、ビジターセンターを閉めたりオリーブの収穫遅れが懸念されたりするなど
事業に影響が出ているということですが、今のところ、関係者に人的被害は出ていないと言います。

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(『ガリラヤのシンディアナ』 ナディアさん)

皆川さんが「大変な状況が続いている。疲れてない?」と心配の声をかけると、
ナディアさんは「大変だけれど、今こそ頑張り時。生産者を守り、希望をつなぐためにも生産は続けている」と答えていました。
また、毎年11月に行っている「オリーブの収穫祭」を、今年も行うべく準備を進めているとも話していました。

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そして、皆川さんの「なにか私たち、日本の人たちにメッセージはある?」との問いに、ナディアさんはこう答えました。
「皆さんが関心を持ってくれていること、心配や共感してくれていることに感謝したい。それは私たちにとってとても大事なことで、私たちは1人じゃないという希望と支えになっているのだと知ってほしい」

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皆川さんによると、今回の情勢悪化に限らず以前から、現地の生産者たちは「世界から見捨てられているのではないか」と感じることが少なくないのだそうです。
そのため、日本での反響を現地に伝えると、いつも生産者からは
「自分たちの生み出す製品が日本でも売られている、使ってくれる人がいる。そして思いをはせてくれる人がいる。それはとても誇らしいことで、世界とつながっている証だ」と、喜びの声が届くと言います。

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(左上:通信『ぜいとぅ~ん』右上:現地で働く人々を紹介した皆川さんの著書
中央下:現地生産者の様子を記したリーフレット)

だからこそ、皆川さんも、製品を輸入し販売するだけでなく、現地の様子を伝えることを大切にしています。
これまでに何度も現地を訪れたときの様子を冊子や本にまとめたり、購入者向けに“通信”として送ったりしています。
ナディアさんとの会話の最後にも「きょうの話をまとめて、日本で伝えるね」と約束していました。

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現地工場で作られた製品は、仙台のみならず、南三陸町や登米市、松島町、大河原町にも、扱う店舗があります。

皆川さんのもとには、いま製品の問い合わせとともに生産者を心配する声が届いていると言います。
遠くに感じる中東の地ですが、その文化に触れ、製品を手に取って思いをはせる。
それだけでも現地の人の希望につながる。
宮城からでもできることはあると、取材を通して感じました。

リポートの動画はこちら↓