"私とみんなの楽園"に... 宮城 登米 73歳が作った個人ギャラリー
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ことし9月、登米市内で開かれていた絵画の愛好家が描いた美術展の取材中、私はある1枚の絵に目がとまりました。鳴子峡の紅葉を描いたこちらの油絵です。愛好家が描いたとは思えないほど作品の完成度が高く、どんな人が描いたのか気になり、取材に伺いました。
絵を出品したのは、登米市に住む73歳の石川喜生子さん。60歳を過ぎてから趣味で陶芸をはじめ、陶芸を続けるうちに絵付けを極めたいと8年前から油絵も始めました。
油絵の作品をいくつか見せてもらいましたが、雪が残った鳥海山や、満開のさくらが咲き誇る大河原町の河川敷。描かれた題材は夫の喜一さんと旅行先で出会った風景でした。
喜一さんは2年前、病気で亡くなりました。ろくろや油絵の画材といった、趣味の創作に必要な道具は何でも買いそろえてくれるなど、石川さんの創作に協力的で、とても優しい夫だったといいます。
(石川さん) 「陶芸の工房も夫の手作りです。何でも理解してくれて、やりたいことを黙って見守ってくれた人でした。いろんなところにも連れて行ってもらいました。写真を見ると思い出されてじーんときます」 |
石川さんは、喜一さんと生前にある約束をしていました。それは趣味を続けて10年以上が経過し、増え続けた作品たちをみんなに見てもらう機会を作りたい、というものでした。
しかし、夫を亡くした石川さんは、悲嘆に暮れる日々が続き、しばらく何もする気が起きなかったといいます。そんなとき、励まし背中を押ししてくれたのが、同じ趣味の仲間たちでした。
(石川さん) 「しばらくは立ち直れずに自宅にこもっていた私を、陶芸やコーラスの仲間たちが元気づけてくれて、いろいろな所に連れ出してくれました。彼女たちに感謝しています」 |
その頃、以前使っていた自宅が空き家となり、石川さんは、友人たちと一緒に、夫と約束した作品の発表の場を作ることにしました。
(石川さん) 「せっかく作った作品を展示したり、発表したりする場があまりないので、自分で作りました。いつも見られる場所があってもいいと思います」 |
そして完成し個人ギャラリー、展示スペースには陶芸作品や絵画が所狭しと並べられ、
オープン初日は多くの友人や趣味仲間がお祝いに訪れました。
(70代男性) 「すべて石川さんが作った作品でその数に驚きました。感動しました」 |
ギャラリーの名前は「喫茶去」。「きっさこ」と読みます。禅のことばで「お茶を召し上がれ」
という意味で、人が集う場にしたいという思いを込めました。
ギャラリーでは陶芸や油絵などの教室も行っているほか、ときどきお茶会なども開いています。
(50代女性) 「こういう場所ができてとってもありがたいです。みんなの絵が見るのもとても楽しいです。ここは誰でもウェルカムです」 |
石川さんは、同じ趣味をもつ仲間同士が気軽に立ち寄って、楽しいひとときを過ごせる場にしたいと考えています。
(石川さん) 「一緒に作品を創作したり、展示して談笑したり、元気で健康でいる間は、みんなで楽しみを共有したいです。この場を私とみんなの楽園したいと思っています」 |
決して無理をせず、シニア世代が気軽に立ち寄ってひとときを過ごす。
実はそういう場は意外と少ないのではないでしょうか。
取材した石川さんはじめ、趣味仲間の皆さんの明るい笑顔が印象的で、63歳の私も
新しい趣味を始めたいと思いました。
(取材:大崎支局 黒澤常幸記者)