防潮堤に巨大な壁画! どんな思いで制作?

石巻市雄勝町で東日本大震災後、海岸に整備された防潮堤に
雄勝の景色や漁師の姿を描いた巨大な壁画が完成しました。
壁画は大きいもので高さ7.5メートル、幅は50メートル以上。

どういう思いで制作されたのか。
石巻支局の藤家亜里紗記者が取材しました。


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完成したのは雄勝にある浜のさまざまな表情を描いた風景画(上)と朝焼けのなか
海に出る漁師の姿を描いた作品(下)の2枚です。

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11月末に開かれたお披露目式には、壁画を一目見ようと
雄勝の住民など多くの人が集まり、その大きさに驚いていました。

(訪れた人)
「こんな大がかりだと思わなくて感動した」 
「すごいですね、 元気をもらいます」

この壁画制作プロジェクトは、石巻市の一般社団法人「SEAWALL CLUB」が震災後に整備された防潮堤で、見えなくなった海のある景色を取り戻そうと始めました。

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2枚の絵を描いたのは東京を中心に活動する芸術家の安井鷹之介さんです。
壁画の制作を依頼されて、2年前に雄勝を訪れた際、防潮堤を初めて目にし、その大きさに驚いたといいます。

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その後、安井さんは毎月のように雄勝を訪れて各地の風景を記録したり、地元の人が行う漁に参加したりして雄勝の日常の暮らしぶりを観察してきました。
当初、安井さんは防潮堤で見えなくなった海を描くことで失われた雄勝の風景を取り戻そうと考えていましたが、地域の人とふれ合ううちにその思いは変わっていきました。

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(安井さん)
「地元住民の方から『起きてしまったことは取り戻せないし、あの時に戻れないと聞いてハッとしました。だからこの街のいいところをたくさん描いていこうと決めました」

雄勝で出会った美しい風景や人の姿を絵に取り入れようと決めた安井さんは早朝から日が沈むまでペンキを塗り重ねながら創作を続けました。

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風景を描いた作品の真ん中には、3本の松が描かれていますが、このモデルになったのは雄勝町名振地区にある津波に耐えた松でした。

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安井さんはこの松を描いている際、震災後に雄勝を離れた住民と出会い、次のような会話をしたと振り返っています。

(安井さん)
「描いているのは名振地区の松とは言っていませんでしたがその方はこの絵を見て『懐かしい』と涙を流していました。絵にはこんな力があるのかと気づかされました」

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震災後に整備された巨大な防潮堤に複雑な思いを抱いていたという地元の人も、壁画を通じて防潮堤に対する印象が変わったといいます。

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「小さいころから海が目の前にあったので、防潮堤ができて全然違う風景になりましたが、絵が描かれたことでやわらかい印象を持てました」

安井さんは雄勝の防潮堤をキャンバスにこれからも新たな作品を描いていきたいと考えています。

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(安井さん)
「人が憩うことのできる場所になればいいなと思っています。
 絵を通して多くの人がこの場所に関わってくれるとうれしいです」

【取材:藤家亜里紗 記者】

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