【髙木優吾】富士通レッドウェーブ・町田瑠唯選手~流れを変える圧倒的な存在感~

東京オリンピックで歴史的な銀メダルを獲得し、
日本中を沸かせた女子バスケットボール日本代表。
躍進の立役者となったのが、司令塔の町田瑠唯(まちだ・るい)選手だ。
来月からアメリカの女子プロバスケットボール・WNBAへと挑戦する町田選手。
そんな彼女が世界に飛び立つ前、日本最後の戦いが佳境を迎えている。

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女子バスケットボール・Wリーグ。
町田が主将を務める富士通は15年ぶりの優勝を目指し、
レギュラーシーズン上位8チームによるプレーオフを戦っている。

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先日プレーオフ、クォーターファイナルではトヨタ紡織と対戦。
現地で取材していた私は、
町田選手の「試合の流れを変える圧倒的な存在感」を目の当たりにした。

《序盤から優位に立った富士通》

レギュラーシーズン5位の富士通の相手は、4位のトヨタ紡織。
プレーオフはトーナメント方式で、この試合は負けたら終わりの一発勝負の戦いとなる。
この試合はバスケットボールの魅力が詰まった好ゲームとなった。
富士通は第1Qの序盤から激しいディフェンスを見せ、ミスを誘ったあとの速攻が次々と決まり、試合の流れをつかむ。町田選手が起点となり、富士通らしい攻撃が随所に見られた。特に町田選手のパス技術は群を抜いていた。パスの多くがノールック、しかもドリブルのリズムを変え、相手に反応させないようなテンポからパスを供給する。リーグで5年連続アシスト王に輝いた実力の高さをいかんなく発揮した。前半は40-31と富士通リードで終えた。

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《劣勢になった富士通。最終第4Qへ》

第3Qの立ち上がりはトヨタ紡織ペース。ゾーンディフェンスから、東京オリンピック日本代表の東藤選手が3連続得点で迫ると、第3Qの中盤で逆転。トヨタ紡織が試合をひっくり返した。トヨタ紡織はその後も得点を重ね、55-48とリードを奪って第3Qを終える。対する富士通は町田選手を第3Qの終わりで一旦ベンチに下げ、最終の第4Qへと備えた。下がったベンチに目をうつすと、最前列で前のめりに戦況を見つめる町田選手がいた。「いつでもいける」と言わんばかりの雰囲気に、会場で試合を見ていた私は「第4Qでどんなプレーを見せてくれるのか」とワクワクしたほどだ。

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《試合の流れを一変させた町田選手のプレー》

富士通のベンチワークはこの日も早く、第4Qが始まって2分が経過しないところで町田選手を投入する。ここからが町田選手の真骨頂だった。コートに入ってからわずか20秒。ディフェンスを引きつけてパスを送ると、オコエ選手の3Pシュートが決まる。その直後には、町田選手自らがスティールして速攻を見せ、2点差。最後にはパスで味方をコントロールしてフリーを作り、宮澤選手の3Pシュートで逆転した。町田選手が入ってから5分経たないうちに富士通は見事に逆転を果たしたのだ。チームが劣勢に立たされても、「町田選手がいれば大丈夫」「町田選手ならば何とかしてくれる」といった雰囲気を肌で感じとることができた。何より、会場に来たファンの人たちの視線が町田選手に注がれているのを強く感じた瞬間だった。試合はそのままリードを保った富士通が71-61で勝利。セミファイナル進出を決めた。

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《ベンチで休んでいる時に気づいた修正点》

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試合後、町田選手は「チームはヘッドコーチの指示にこだわりすぎていて、自分たちの流れを作りきれていなかった。ベンチで休んでいる時に、自分たちのフロー(流れ)を大事にオフェンスのリズムで攻められるようにゲームをコントロールした」と話していた。冷静に試合の状況を分析できる司令塔としての能力の高さを示すコメントだった。
セミファイナルは、レギュラーシーズン首位のENEOSが相手。同じポジションで共に東京オリンピックを戦った宮崎早織選手とのマッチアップにも注目だ。町田選手はWリーグ終了後、WNBAのワシントン・ミスティクスに合流し、5~9月でプレー。WNBAのシーズン終了後には、ふたたび富士通に戻る予定だ。日本で町田選手のプレーが見られるのはあと数試合。世界に羽ばたく町田選手のプレーを目に焼き付けたい。