第10弾

視覚障害者マラソン × ましろ日

國分のぞみ役・中村アンさんインタビュー【前編】

“心が動いて、演技が変わりました”

子どもの頃から水泳に親しみ、高校・大学ではチアリーディングに打ち込むなど、もともとスポーツが大好きだという中村アンさん。視覚障害者ランナー・のぞみをどのように演じたのか、アフレコ後にお話を伺いました。

中村さんは、視覚障害者マラソンのことをご存知でしたか?

中村 ほぼ知りませんでした。アフレコ前に、実際のレース映像を見せていただいたのですが、とにかくすごかったです! 目が見えないのに、見える私なんかよりずっと速く、力強く走っていて……。生き生きとしていて、とても楽しそうで。気が付いたら、走る姿から勇気をもらい、どんどん興味が湧いてきました。

中村さんは今回、失明したばかりのマラソンランナー・國分のぞみを演じました。最初に台本を読んだとき、彼女にどんな印象を持ちましたか?

中村 そもそも、視覚障害者マラソンに挑戦すること自体がすごいし、かっこいいですよね。事故に遭って深く落ち込んだと思うんですけど、昔の自分を取り戻したい、なんならそれ以上の自分になりたい、という意識がすごく伝わってきました。いい意味で、勝ち気で負けず嫌いな子なのかもしれません。私も負けず嫌いなので、すっと役に入っていけました(笑)。でも、いちばん最初のセリフなんて、初対面の相手に「謝ってください」ですから。本当に印象的ですね。そこで勝気な性格っていう表現をしていて。私自身は初めて会った人に「謝ってください」とはなかなか言えないので、そこで彼女の強さをすごく感じて、魅力的だなって思いました。

のぞみの「謝ってください」というセリフは、中村さんの演技も含めて印象的でした。

中村 ありがとうございます。きっと、見えないからこその恐怖心があって、警戒心も強いんですよね。そこから言い合いになるお芝居は、ちょっと苦戦しました! 私は最初、早口でまくし立てていたんですが、それは「目が見えている口調」なんじゃないか、と気付いたんです。目が見えない、情報がない状態なら、怒っても比較的ゆっくりした話し方になると思って、調整させてもらいました。

目の見えない人がどんな感覚なのか、ゼロから想像する必要があったんですね。

中村 はい。見えないと、いろいろなことが分からなくて怖いはず……。でも、何が分からないと怖いのか、それがどういう怖さなのか、完全には理解できないので、表現が難しかったです。特に、走っているシーンがそう。伴走者の声と、伴走ロープ“きずな”の感触、地面や風の感触だけを頼りに、きっと常に気を張っている状態ですよね。そんな中で長い距離を走るのは、改めて、本当にすごいと感じました。

アニメでは、のぞみが視覚障害者になって初めて走る様子が描かれました。中村さんは、ストーリーのどこが印象に残りましたか?

中村 飛び出してきた猫を避けて転んで、中居さんが体を張ってかばってくれたシーンが特に好きです! こんなふうに命がけで助けてもらったら、信頼するしかないですよね。私は単純なので、恋が芽生えそうになりました(笑)。「言ってよ!」「さっきは言うなって言っただろうが!」っていう言い合いも、カップルのケンカみたいで好きです。ここで一気に距離が縮まったと感じました。
私の演技も、ここから少しよくなった気がします(笑)。不思議ですよね……。このシーンで私の心も動いたから、演技がしやすくなったんです。

のぞみと中居の距離が縮まると、中村さんと下山さんの息も合っていった?

中村 そうだと思います。下山さんはすごくプロフェッショナルな方で、お人柄も優しくて、たくさん助けていただきました。私は声の演技に慣れていないので、画面や台本を見ながら感情を入れるのが難しくて……握手するシーンで下山さんの手を見るとか、いろいろ試行錯誤していたんです。すると、下山さんがセリフの途中で目を合わせてくださるとか、私がやりやすいようにいろいろ導いてくださいました。

そう聞くと、視覚障害を持つランナーと伴走者に近いものを感じます。

中村 まさに! 私の中で声優さんってベールに包まれた存在だったんですけど、少しずつ下山さんのことが分かってきて、安心して頼っちゃいました。そういえばアフレコ前、下山さんの自己紹介が早口で、ちょっと中居さんっぽかったかも。ランナーと伴走者であり、のぞみと中居さんでもありました(笑)。

インタビュー【後編】に続きます