障害者週間関連 “みんなの選挙”杉田デスクが語る! ある盲ろうの女性のメッセージ

23/12/12まで

けさの“聞きたい”

放送日:2023/12/05

#インタビュー

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23/12/12まで

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「けさの聞きたい」。今週は障害者週間で、各地で、障害者福祉への理解や障害のある人の社会参加を支援する催しが開かれています。今日は、このコーナーにもたびたび出演しているNHK「みんなの選挙」プロジェクトの杉田淳(まこと)デスクと「誰もが参加できる選挙」を手がかりに、“共生社会”、共に生きる社会を目指すために何が必要なのか、考えます。(聞き手・野村正育キャスター)

【出演者】
杉田淳(NHK「みんなの選挙」プロジェクト デスク)

ある盲ろう女性との出会い

――杉田さん、おはようございます。よろしくお願いします。

杉田:
おはようございます。よろしくお願いします。

――杉田さんは、20代で発症した緑内症が進行して、現在は重度の弱視で、中途の視覚障害者ということですが、先日、ラジオ番組の収録で出会った重度障害者の方の記憶が印象に残っているということですが…。

杉田:
そうですね、ラジオ第2の『視覚障害ナビ・ラジオ』という番組で、障害者の投票する権利について考えるというテーマで対談したんですが、その対談相手が福田暁子(ふくだ・あきこ)さんという46歳の、とてもパワフルな女性でした。福田さんは幼い頃から弱視で、18年ほど前から聴覚障害が加わって、今は盲ろうということなんです。

視覚障害ナビ・ラジオ

ラジオ第2
毎週日曜 午前7時30分~8時00分ほか

詳しくはこちら

『視覚障害ナビ・ラジオ』収録風景

――盲ろう? つまり、盲と、ろう。視覚障害と聴覚障害があるということですか?

杉田:
そうですね。全く見えない、全く聞こえない、ということではないということなんですが、ほとんど見えない、ほとんど聞こえないという状態だということなんですね。

さらに、進行性の難病もあって、人工呼吸器や電動車いすを使った生活なんですが、東京都内で自立生活をしています。福田さんは、アメリカの大学院で学んだ経験もあって、英語も堪能、国際的にも活躍されており、かつては、世界盲ろう者連盟の事務局長も務めていらっしゃったということなんです。

全国盲ろう者協会評議員・世界盲ろう者連盟 元事務局長 福田暁子さん

「障害を武器に…」

――まずは、福田さんのこのメッセージをお聴きください。


障害があってもなくても誰もが排除されない社会づくりという意味では、障害っていうのは武器にして、“私たちを排除するなら、みんな排除されますよ”ぐらいの感じで、そこから何かが生まれてくるんだと信じて、強く投票に向かいたいとは思いますけどね。


杉田:
実は、福田さん。7年前から、東京都の武蔵野市で、障害者のための模擬選挙を実施するなどの活動をしてきました。そんな活動の中から出てきた信念、思いのこもった言葉だと思います。

“触手話”というコミュニケーション

――杉田さんが言う、とてもパワフル! というのは分かったような気がしますけれども、それにしても福田さんは、盲ろうですよね。目が見えない、音が聞こえない。では、収録時はどうやってコミュニケーションをとったんですか?

杉田:
福田さんは、自分の言葉で話すことはできますので、問題は相手の言葉をどう聞くかということになります。そこで使っているのが“触手話(しょくしゅわ)”というコミュニケーションの方法なんです。

――“触手話”。漢字で書くと、触れる手話ですね。

杉田:
そうですね。福田さんの傍らには、介助者の方がいらっしゃって、相手の言葉をその介助者の方がまず、手話で通訳するんですね。福田さんはそれを手で触って意味を読み取るということなんです。まさに手で触る手話。“触手話”です。私、この“触手話”のやり取りを初めて体験したんですけれども、あまりのよどみのなさとかですね、大変、驚きました。

“触手話”の様子

まずは、候補者に会いに行く!

――今回、杉田さんと福田さんが出演した『視覚障害 ナビ・ラジオ』のテーマは、障害者の投票する権利。福田さん自身は選挙や投票というのはどのようにされているんですか?

杉田:
福田さんは、毎回、選挙には欠かさず行っているということなんですけれども、その様子を聞きますとね。もう、のめり込んでいるっていう方が適切じゃないかと思うぐらいなんですね。それで、彼女が、特に熱を込めて話してくれたのが“投票先を選ぶための情報をどうやって得るか”ということなんです。

視覚障害の人のためには、ですね。「点字版の選挙公報」というものが用意されることが多いんです。けれどもなかなか、それは制作にも時間がかかりますので、福田さんはですね、それが自宅に届くのを待たずにですね、直接、候補者に会いに行くことがあるというんですよね。福田さんです。


特に市議会議員とか、地方選挙だと、地元の駅とか街頭でしゃべっているので、予定とかも聞いてつかまえに行って、向こうが言っていることが聞き取れないので、割と一方的に、わーって言って、ちゃんと聞いているかなっていうので。その先が見えるようであれば、投票する人の中の候補にいれていって。


――うわっ、積極的ですね。候補者の方に会いに行く! まるで突撃取材のようですね。

杉田:
そうですね、五感で感じとろうっていうか、相手がどう受けとめているかを必死に、全力で感じ取ろうとしているという風に感じますよね。

情報精査し、自分で決める! 投票する!

――その後、福田さんは投票する人を決めるためには、どうやって決めるんですか?

杉田:
そうですね。その候補者に会った印象だけで決めるわけではないということなんですね。注意深く、リスクも感じながら、次のステップに進むということなんです。


候補が絞れれば、その人に関しての情報を周りに聞いたり、インターネットで探したりすればいいので。自然に情報が入ってこない中で情報を得る作業って非常に難しくて、逆に、他人に操作されやすいっていう大きな問題もあるんですよね。それはもうよくないと思うんですけど。自分で決めた人にやっぱり入れたいっていうのは譲れないかなって、そこは頑張ります。


――「自分の1票で何が変わるのか、よく分からないから選挙に行かない」という声を聞くこともあるんですが、福田さんは、本当に自分の権利を行使するということについて深く考えていますよね。

「文句を言う権利」

杉田:
そうはいってもですね、福田さんも先ほどお話ししたように進行性の難病もありますので、体調によって、天候によって、投票に行きたくない、頑張れないなというような気持ちになることもあるそうです。
それでもやっぱり頑張ろうと思うのには、こんな思いがあるからだと話しています。


私が、選挙に行くモチベーションって、もうすっごく単純、本当、シンプルで、状況に対して文句を言う権利を得たいっていうだけですね。投票に行かなければ、自分の環境が悪くなっても言えないですよね。だから私は、これをこうあるべきだっていうのを伝えたい、発信したい時に、私は投票をしたので言いますっていうのが言いたいからです。もう投票もしないで文句を言う人たちに腹が立つからですね。文句を言う権利を得たと、そのために行きますね。


――文句を言う権利を得るために投票に行く、自分が思うことを考えることは、はっきりと表明するということですね。

杉田:
そうですね。私は、見えないという部分についてはですね。ある程度、自分も理解でき、共有できるところがあるんですけれども、そこに聞こえないということが加わる世界っていうのがどういうものかっていうのは想像しきれないところはあるんです。

ただ、この福田さんの“文句を言う権利”という言葉を聞いてですね。福田さんには、社会や世の中に伝えたいことがきっとたくさんあるんだろうなっていう風に感じましたね。

――このあと、共生社会の実現のために福田さんの活動が問いかけているものは何かを考えていきます。

みんなの「模擬投票」

――まず、福田さんは、自身の持つ選挙の思いをみんなで共有して社会に発信しようとされています。具体的にはどのような活動をされているんですか。

杉田:
東京武蔵野市の自立支援協議会のメンバーの一人として、障害のある人のための模擬投票というのをこれまで3回実施しているんですね。模擬投票って、結構、いろんなところでやっているんですけれども、障害のある人たちを対象に行っている模擬投票は結構、珍しいという風に思っています。

――その模擬投票の成果について福田さんはこう話しています。


模擬投票があれば、本番ではないからこうしたらいいよとか、ああしたらいいよとか、知っている事業所の人とか地域の人が立会人として投票所内で見ていますので、口出ししちゃいけない、にこやかなまま見守っているから、安心した空気の中で投票っていう作業をすることができて…。感動したのは、自分の息子(知的障害の子どもさん)が、もう大きくなっている息子、選挙の投票とか無縁だと思っていた重度の障害のある自分の息子が、一人で会場のスタッフのサポートで投票をしているのを見たとき、親御さんも感動されて。「あ、できるんだな」って、その様子だけでもうなんか感動されていて。


杉田:
今のお話の中の「重度障害のある子ども」というのは、知的障害の子どもさんなんですが、模擬選挙という舞台を使って本人が慣れることができるだけでなく、周囲でサポートする人たち、選挙管理委員会の人たちもどんな支援が必要か、どんなことにつまずいてしまう可能性があるかを学んだと思うんですね。
共生社会のために、という掛け声はなくても、自然に、共に生きる関係性が醸成されている感じがしました。

本番の投票では…

――その模擬選挙での経験は、本物の選挙で投票する時に、効果・成果はどうだったんでしょうか?

杉田:
福田さんが最も印象的だと話したのは、ある中途失明の人の話です。その方は、失明してから点字を覚えたんですが、自分が覚えた点字で投票をしたいと福田さんたちの模擬投票を体験しました。
さて、実際はどうなったのか? 福田さんは直接、聞いてみました。


衆議院選挙だったかな。そのときに、「行った? 行きました?」って聞いたら、「点字投票してきた」って言ったから、やったねと思って。点字投票をやりたいために投票所に行ったっていう。そういうのもきっかけでいいと思うんですよね。実際、知的障害のある人が投票に行くことに対していろいろ言われることはあります、わかっていれているのか? とか。でもその人の1票だから、その人が行使して、その人が暮らしに対してなにか意見を言うことができるようになるんであれば、すごく大切な行為だと思うんですよね。自分の暮らしを良くしていく関わり方はいろんなやり方があると思うんですけども、選挙っていうのがその一つ、投票っていうのがその一つっていうのが、どっかにあればいいなってすごく思いますね。


小さな声を上げる意味…

――杉田さん、今日は選挙や投票のことを考えてきましたけれども、障害者の方の話を聞いていると、選挙、やっぱり社会参加の1歩に通じていますよね。

杉田:
そうですね、私もそう感じます。福田さんは「文句を言う権利」というふうに言っていましたけれども、やっぱり、声を上げないと気づいてもらえないっていうことって多いと思うんですね。

私も日常生活で感じることがあります。私、今、街なかを歩く時にですね、“白杖”って白いつえをついて歩いているんですけれども、これって、結構、やっぱりためらいがあったり、葛藤があったりするんですけれども、でも、それを持って歩いていると、道に迷っているような様子をですね、発見して、見知らぬ人が、「大丈夫ですか」、「何かサポートしましょうか」ってこう、声をかけてくれたりする。そういったことに、本当にありがたさを感じたりします。

障害がなくてもですね、今の時代は、生き苦しさを感じて、声を上げたくてもあげられないっていう人も大勢いらっしゃるんじゃないかという風に思いますけれども、そういった人たちが、声を上げられる、そして、それをみんなで支え合うっていうようなですね。そういうようなことが、共生っていう社会につながっていくんじゃないかなという風に感じました。私は、報道の仕事を通じてですね、声を届けるという役割をしっかり果たしていきたいという風に思っています。

――「けさの聞きたい」は、NHK「みんなの選挙」プロジェクトの杉田淳デスクとお伝えしました。


――リスナーの方からたくさんの声が寄せられました。

セレンさん。
「私も、弱視の中途障害者です。とても、元気をいただきました。毎回、投票は行っていますが、もっと真剣に候補者を見極めたいです」
なのはなさいたさん。
「健常者もこのくらいの気持ちで投票して欲しいです。投票は、文句を言う手段ですからね」

今週の『Nらじ』でも、障害のある人たちの政治参加への壁というのをテーマとしたシリーズを放送しています。月曜日から金曜日です。きのうの放送については「聴き逃し配信」で聞いていただけます。

Nらじ

ラジオ第1
毎週月曜~金曜 午後6時

詳しくはこちら

<関連リンク>

障害のある人の投票する権利と選挙の「壁」を考える | NHK ハートネット(2023.11.20)

詳しくはこちら

今月のトピックス~特集・障害者の投票する権利を考える~ | NHK 視覚障害ナビ・ラジオ(2023.10.29)

詳しくはこちら


【放送】
2023/12/05 「マイあさ!」

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