“指導死”を問い続ける中で ~不適切指導と不登校~

23/12/04まで

けさの“聞きたい”

放送日:2023/11/27

#インタビュー

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みなさんは「指導死(しどうし)」という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか? 学校の教員による不適切な指導がきっかけとなって子どもが自殺したとされるケースを遺族が問題提起のために“指導死”と呼んでいます。
NHKがこの“指導死”をめぐる問題を番組とWEB記事で紹介したところ、保護者の方々から「我が子も似たような指導を受けたことがある」という声が多くよせられました。
不適切な指導はなぜ起きるのか、背景には何があるのか、取材にあたっている社会番組部の藤田盛資(じょうすけ)ディレクターに聞きます。(聞き手・野村正育キャスター)

【出演者】
藤田:藤田盛資(NHK社会番組部 ディレクター)

15年前、ある遺族の訴えから

――藤田さん、よろしくお願いします。

藤田:
よろしくお願いします。

――この「不適切な指導が自殺につながった」とする“指導死”ですが、いつごろから言われるようになったんでしょうか。

藤田:
はい。15年ほど前からです。
中学生の息子を亡くしたある遺族が「先生からの指導後に自殺した」と訴えていたところ、同じ経験をしたという声が遺族のもとに多く寄せられ、特殊なケースではなくて、指導のあり方を見直すきっかけにしてほしいという願いを込めて、“指導死”と呼び始めたんだそうです。

この“指導死”とみられる件数については、遺族や専門家が、子どもが自殺したケースを報告書や裁判記録から調査したところ、平成以降、未遂も含めて少なくとも108件起きていたことがわかりました。

“指導死”に及ぶ不適切な指導とは?

――そんなに起きているんですか。自殺につながるほどの不適切な指導というのはどういうものなんですか?

藤田:
これは実際に自殺に至ったケースなんですけれども、男子中学生が、先生と生徒の一対一、密室で長時間の指導を受けて、その翌日も別件で複数の先生から指導を受けたところ、放課後にみずから死を選んだというケース。これはまた、別の男子中学生のケースなんですけれども、いじめの加害を疑われ、学校の担任の先生から指導を受けたあと、その日に事前の連絡なしに家庭訪問を受けて、この生徒さんと先生が直接お話しをされて、その後、みずから死を選んだケースなどがありました。

さまざまなご遺族を取材する中では、「ささいなことがきっかけで、ことばだけの指導で自分の子どもが命を落とすとは夢にも思わなかった」と話す方もいらっしゃって、何気ない指導が実は紙一重で、不安定な思春期の子どもを追い詰めてしまうこともあるのかと私は衝撃を受けました。

「#学校教育を考える」プロジェクトに寄せられた声

――藤田さん、そのウェブ上で“指導死”に関する記事を公開して、そこに多くの反響があったということですね。

藤田:
はい。「自殺にはいたらなかったが、わが子も先生からの指導後に不登校になった」という声が相次いだんです。実際に声を寄せてくれた一人一人に会って話を聞きました。
まず、関東地方で高校生の娘を育てる母親。この方は娘さんが小学1年生のころ、忘れ物が多くてたびたび先生に注意をされていたそうなんです。ある夏の日に体育の授業に使う体操服を忘れると、クラスメートと先生が校庭に授業に向かう中で、その娘さんは「ここにいなさい」ということで、クーラーをきられた教室に一人置き去りにされたということです。また好き嫌いが多く、給食を食べきれずにいると、先生から「全部食べなさい」ということで、休み時間、昼休みになっても食べさせられて、そのことを見たクラスメートが、食べ物を口に押し込んだことがいじめに発展して、その後不登校になってしまったと教えてくれました。
この女の子が当時書いていた日記を見せてもらったんですけれども、そこにはこう書いてありました。
「わたしには、学校がじごくのような日を、まいにち送っている。きょうは、自分から、はやく死にたいきぶんの1日だった」。小学1年生の女の子がこう書いたことに私はことばを失ってしまいました。

小学1年生のころの日記

また、九州地方の男子中学生の母親からもお話を伺ったんですけれども、この方、息子さんがいじめをしていると疑われて、放課後の理科室で3人の教師から問い詰められたそうです。その子には「自分も嫌がらせを受けている」という思いがあったそうなんですけれども、事情を説明する間もなく、「全部わかっているんだぞ」と先生からどなられたということです。この子は、学校不信になってしまって、翌日から不登校になり、結局、隣の自治体に家族で引っ越して、転校してようやくこの子は学校に通えるようになったということでした。

不適切指導がおきる背景

――これは、どうしてこうした指導になったんでしょうか、問題点はどこにあるんでしょうか。

藤田:
この点について専門家に聞くとそれぞれのケースに課題が見つかりました。
最初の小学1年生の女子児童のケースですと、実はこの子はですね、小学4年生のときに発達障害であることがわかったんです。

――あとでわかったわけですね。

藤田:
女の子が注意を受けていた忘れ物の多さというのは発達障害の特徴でもありまして、担任が1人で抱え込まずに、管理職ですとか、スクールカウンセラー、あるいは保護者とも相談していれば、早くに発見して支援することができたはずだということでした。
また、男子中学生のケースについては、もしいじめの疑いがある時は事実確認が重要なため、一度先入観を捨ててフラットに質問していくことが大事だということでした。にもかかわらず問題解決を急ぎすぎて、子どもの話を聞かなかったことに問題点があると指摘していました。

――藤田さん、この不適切な指導が児童や生徒に影響を及ぼす問題ですけれども、保護者の方だけではなくて、学校現場からも声が寄せられているようですね。

藤田:
学校現場の先生からは、「どんなに忙しくても子どもに対する人権意識が下がることは絶対にない」という声が寄せられました。一方で、あるスクールカウンセラーからは「不適切な指導を日々目の当たりにしている」という声も寄せられました。小学生の児童に女性の先生が、「なんだてめえ、このやろう」とかですね、「こんなこともわからないのか!」とどなる声を日常的に聞いているという訴えでした。このスクールカウンセラーの方は、なぜ同僚の先生がそのような態度をとるのか、疑問に感じていたそうなんですけれども、後にその怒鳴っていた先生が、重い病気を患っていたことがわかったそうなんです。
今、学校現場は「教員不足」といわれていまして、病気の先生の代わりも見つからないような状況で、その先生も身体のつらさをおして、なんとか授業をしていたということなんだそうです。

――私も小学校のPTAの役員をやったり、学校運営委員会の委員を経験して、いろいろな話を聞いた事があるんですけれども、その教員不足、これは現場の切実な声ですし、さらにその状況の中で、保護者からのいろいろな依頼があったり、要望に追われて学校現場は疲弊しているということも、不適切な指導を生む背景にありそうですよね。

国も実態把握に乗り出すが…

――これに対して、国はどういう対策を取っているんですか?

藤田:
まずこの“指導死”についてなんですけれども、国は実態の把握に乗り出しています。
文部科学省は毎年、小中高校生の自殺の件数などを調査しているんですが、ことし公表分から「教職員による体罰、不適切指導」という項目を新たに設けました。昨年度自殺した小中高校生は411人なんですが、そのうち「教職員による体罰、不適切指導」に該当するのは2人でした。

また、国は学校の先生の生徒指導についての手引書、これは「生徒指導提要」と呼ばれているものなんですけれども、これを去年12年ぶりに改訂しまして、不適切な指導の例についても明示しています。
例えば、▼密室のような、子どもが不安や圧迫を感じる場所で指導することですとか、▼ほかの子どもに連帯責任を負わせることで必要以上に罪悪感を与える指導、そして、▼指導したあとにひとりにして適切なフォローをしないことなどを不適切な指導の例としています。
この項目の最後にはですね、「教職員による不適切な指導などが、不登校や自殺のきっかけになる場合もある」ということが記されています。

――どうでしょうか、こうした取り組みで不適切な指導というのは改善できるのでしょうか?

藤田:
はい。まずは、こうした指針が、学校現場にきちんと浸透することが必要だと思います。
その大切さを物語る、あるデータがあります。NPOが不登校の当事者、不登校の児童本人ですとか保護者に、「学校に行けなくなったきっかけ」について問うアンケートを今、進めているんですけれども、速報値で「先生との関係」が学校に行けなくなったきっかけだと答える方が3割以上を占めて1位だったんです。ここからも先生の指導を見直していくことの必要性がうかがえると思います。

親世代とは違う学校像

――確かに不登校というと、その児童生徒の側に理由を求めるような傾向があるかと思いますけれども、実はそうして調べてみると、視点が違うと。先生との関係というところを見なければいけないということはあるわけですね。改めて藤田さん、今回、取材を通していちばん感じることは何ですか?

藤田:
はい。専門家の方は「たとえ先生たちに余裕がないとしても、それが子どもを傷つけている理由にはならない」と指摘しています。一方で、取材の中ではですね、これは子どもたちの声なんですけれども、「先生が忙しすぎて、八つ当たりしてくるように感じている」というような話もありました。指導を見直していくためにも今の先生たちの過重な労働の状況は改善していく必要があるというふうに感じました。

これは別の専門家の意見なんですけれども、先生たちがですね、学校内だけの授業だけではなくて、学校の外で起きたトラブルの対応、子どもが何か非行を起こしたとか、そういったことも学校に連絡をして解決を求めてくるようなことが今の日本社会にあって、これは“学校依存社会” であるというふうに表現されていました。
私たちが何もかもを学校に求め過ぎていないか考えていく必要があるのかもしれません。また教員不足ですとか、増え続ける発達障害のある子どもへの対応、少子化による学校の統廃合など、さまざまな変化が現代の学校には起きています。親世代は自分たちと同じような学校生活を子どもがおくれるわけではない可能性を念頭に置く必要があるのかと感じました。
こうしたさまざまな課題がありつつも、先生たちの支えをえながら子どもたちが成長していく学校という場は、本当に大切な場所だというふうに思います。この学びをどう守っていけるのかこれからも取材を続けていきたいと思います。

――NHK社会番組部 藤田盛資ディレクターとお伝えしました。


――リスナーからたくさんの声が寄せられました。

うみがめママさん
「我が子、中2春から不登校です。担任の指導が苦しくなり、“このまま学校に行っていたら自殺しそうで怖いんだ”と嗚咽(おえつ)しました。すぐ休ませました。不登校になってから、中学に入ってからあった頭痛がなくなりました」

さぴえさん
「自分の小学生時代は、給食食べ終わるまで昼休みも食べさせられたとか、忘れ物をして叱られるとか、指導として当たり前だった。そういうふうに育った人が教員になって、自分が受けた指導方法からアップデートされてないんじゃないかな。」

やすこさん
「学校の現場 こんなにも変わったんですか?! “学校が地獄”胸に突き刺さる思い。」

ねるるこさん
「教員免許を持ってる人は授業だけやって、忘れ物とか生徒同士の人間関係のトラブルは、別の専門職員に投げる、とか? やっぱ無理かなあ」

きゃんさん
「先生に求められることが多すぎる。」

今回の藤田ディレクターの取材ですが、NHK「みんなでプラス」というサイトに寄せられた声からスタートしました。リスナーの皆さんも感想やご意見、そして、具体的な事例や、こうしたらよくなるのではないかという提言など、NHK「みんなでプラス」のサイトにお寄せください。

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【放送】
2023/11/27 「マイあさ!」

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