【出演者】
松村邦洋さん
堀口茉純さん
川久保秀一さん


2024年2月4日(日)放送の<DJ日本史>、テーマは「名前の裏に、ドラマあり!」。人、一人一人に付けられた名前。そこには名付け親の特別な思いがこもっていただけでなく、時には、熱い願いがその人の運命を変えてしまったことだってありました。歴史上の偉人の名付け、その知られざる裏事情とは?

明治後期から昭和の初めにかけて感染症の研究で世界に知られた医学者、野口英世(のぐちひでよ)
彼は、元は「英世」という名前ではなく「清作(せいさく)」という名前でした。ところが21歳のとき改名します。きっかけは、当時広く読まれていた1冊のベストセラー小説。そこには一体、何が書かれていたのでしょうか?


その小説とは、近代日本文学の成立に貢献した作家坪内逍遥(つぼうちしょうよう)の作品「当世書生気質(とうせいしょせいかたぎ)」。話は、明治初めの東京を舞台に一人の学生と芸者の恋の行方を描いたもの。このロマンスを軸に当時の学生、つまり書生たちの日常を描いた作品でした。

この作品に、脇役としてある青年が出てきます。この人物に、野口英世=当時の野口清作は驚きました。
その登場人物は年の頃二十二、三の田舎から出てきた医学生で、大の遊び好きの放とう者。そのくせ、要領だけは抜群。親にはまじめな息子と思わせ、あるときなどは仮病を使って大金をせしめる始末。
そして何よりドキッとしたのが、小ずるいこの学生の名がなんと「野々口精作」。

ただそれは小説の中のこと、放っておけと思われるかもしれません。しかし、野口には後ろめたい気持ちがありました。実は野口自身も友人という友人から金を借りつくし、遊郭で豪遊。その金も返そうとしません。つまり小説の中の人物は、自分とそっくりだったのです。
「こ、これは大変だ!」

思いあぐねた野口は、小学校時代からの恩師に相談します。そして名前を変えることを決断。
するとその恩師は「英世」という名前を提案して、こう言いました。
「英雄の英に世界の世で『英世』。つまり、医者の英雄になって世界に役立つ仕事をしろ、ということだ。立派過ぎる名前だが、名前負けせぬようやっていけるか?」

こうして野口清作は「野口英世」となりました。
野口英世が研究を究めるためアメリカに旅立つのはその翌々年、1900年のこと。その後は、「ノグチは一体いつ眠るのか?」と周囲が驚く熱心さで研究に取り組んでいったのでした。

DJ日本史「名前の裏に、ドラマあり!」①