スポーツ

2023年12月19日 (火)

全国高校駅伝 取材記 神村学園女子(鹿児島)~"駅伝が1番大事" 先輩の遺志を継いで走る~

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全国高校駅伝に出場する鹿児島の神村学園。
ことしエースとして走るケニア人留学生のカリバ・カロライン選手は、コロナ禍で来日が遅れ、入学当初につまずきました。
そんな彼女を支えたのが、教育係として面倒を見てくれた先輩です。
カリバ選手は、天国から見守る先輩が残したことばを胸に走ります。

 “過去最強チーム”のエース

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(笑顔のバイレ・シンシアさん)

ことし4月、神村学園のケニア人留学生として全国高校駅伝を走ったランナーがこの世を去りました。
彼女の名前は、バイレ・シンシアさん。
3年前(2020年)、神村学園の有川哲蔵監督が“過去最強のチーム”と評価した代のエースでした。
前の年の全国高校駅伝では2区を任され、ダイナミックな走りから生まれるスピードで13人抜き。
翌年、3年生となったバイレさんはアンカーを任されましたが、途中で足を痛めて失速。
それでも、仲間がつないだたすきをゴールまで運びきって準優勝しました。

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(有川哲蔵監督)

レース後、彼女が人目につかないように涙を流していた姿が忘れられません。
学校に練習を取材しに行くと、表情豊かに流ちょうな日本語で受け答えする姿も印象的でした。
有川監督は、バイレさんの走りに引っ張られ、チームメートの選手たちも強くなっていったと話します。

【有川哲蔵監督】
「シンシアは高校1年のときに優勝を経験し、高校駅伝で優勝するにあたって日本人を強くしようという思いになりました。
とにかくチームメートを強くして、チームで強くならないと駅伝で優勝できないと」。

 

出遅れた後輩のため 1年残って教育係に

そのバイレさんが教育係として、目をかけてきたのがカリバ・カロライン選手でした。
ことしの神村学園で唯一の3年生でエースです。
キャプテンも務めるカリバ選手は、今大会では最終5区、アンカーとしての起用が想定されています。

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カリバ選手は、入学前からケニアで神村学園のユニフォームを着て練習するほど、日本に来ることを心待ちにしていました。
しかし、新型コロナの影響で入国が7か月遅れ、2020年11月にようやく入学。
入学当初のカリバ選手は、チームにも学校にもなじめませんでした。
さらに来日が遅れたことで必要な単位がとれず、留年することになったのです。

【カリバ・カロライン選手】
「めっちゃ大変でした。日本語、全然わからなかったです」。

【有川哲蔵監督】
「最初、カロラインは『私はケニア人なんで日本語を覚えない』とか『日本食は食べない』とか言って、意地っ張りなところがありました。表情もツンとしていて、勝ち気のある性格でしたね。
カロラインは日本人には勝てるだろうという気持ちで来たと思うのですが、当時のチームは強くて練習で日本人にも負けて、本人は悔しい思いもしたと思います」。

 

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(2021年のバイレさんとカリバ選手)

バイレさんは、同じケニア出身の後輩で出遅れたカリバ選手の心のよりどころとなりました。
卒業後は、日立女子陸上競技部に入ったバイレさん。
実業団に所属しながらカリバ選手の教育係として、神村学園に1年残ることになりました。
バイレさんは、来日が遅れたカリバ選手に対し、日本語の通訳をしたり、食事の面倒をみたりするように。
もちろん、練習も一緒にしました。

日本語の上達とともに競技でも

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バイレさんのおかげで、カリバ選手は日本語も上達し、学校やチームにもとけ込むめるようになりました。
そんなカリバ選手は、しだいに競技の面でも成果をあげていきます。
ことしの全国高校総体では、1500メートルと3000メートルの2冠を2年連続で達成。
ことし、留学生を含めた高校記録を塗り替えました。
チームの練習でも、日本人選手たちのペースメーカーとして引っ張り、レベルの底上げにつながっています。
カリバ選手は、有川監督が歴代で“最速で最強”というまでの選手へと成長を遂げたのです。

【有川哲蔵監督】
「シンシアが1年残って、カロラインの通訳も含めて、いろんな生活の面倒を見てくれたというのは彼女にとっても大きかったと思います。本当にカロラインは、シンシアのチームメートを強くしようという気持ちを継いでいて、なおかつ自分も強いということが今まで見た選手のなかで抜群に優れています」。

 

後輩へ残したビデオメッセージ

一方、バイレさんは去年5月に体調を崩し、悪性の腫瘍が見つかり闘病を続けてきました。
「20歳も迎えることができないかもしれない」。
当初、医師からそう言われていたと有川監督はいいます。
亡くなる前日の4月13日。有川監督はバイレさんが入院していた病院を訪れました。
その際、バイレさんはカリバ選手に向けてビデオメッセージを残していました。

【バイレ・シンシアさん】
「カロ、県(大会)頑張って、九州(大会)も頑張って、県駅伝も頑張ってください。
駅伝、駅伝が一番大事。そこまで気をつけてけがしないで。バイバイ、頑張って」。

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病床から白い歯を見せ、笑顔で手を振るバイレさん。
このビデオメッセージが、後輩留学生のカリバ選手に残した最後のことばとなりました。
その次の日、バイレさんは息を引き取りました。

 

“1番になりたいです”

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冬の京都を高校生ランナーが駆け抜ける全国高校駅伝が今月24日行われます。
神村学園はことしも全国トップの予選タイムで、8年連続の出場を決めました。
「京都では自分の目標は5区、区間賞を取りたいです。1番になりたいです」とカリバ選手。
有川監督もカリバ選手の走りに特別な期待を寄せています。

【有川哲蔵監督】
「シンシアが残してくれたカロラインがいまこうやって強くなってくれています。
カロラインには、5区の区間記録更新というのを目標にやってもらいたい。
それがカロラインとシンシアが神村でやってきたことの集大成じゃないかなと僕自身はそう思っています」

 

バイレさんは、高校最後の大会でチームの優勝と区間記録の更新を成し遂げることができませんでした。
天国にいる先輩にいい報告ができるように。カリバ選手は先輩の遺志を継いで、高校最後の都大路を駆け抜けます。

 

(取材:鹿児島局・松尾誠悟記者)

 

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