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新潟水俣病訴訟で判決 原告26人を新潟水俣病と認定

提訴から10年 原告は高齢化進む
  • 2024年04月18日

 

4大公害病のひとつ、新潟水俣病と認定されなかったり特別措置法による救済策でも対象から外れたりした県内などの47人が賠償を求めた裁判で、新潟地方裁判所はこのうち26人を新潟水俣病と認め、原因企業に賠償を命じる判決を言い渡しました。一方、国に対する訴えは退けました。(新潟放送局 取材班)

集団訴訟の判決は全国3件目 分かれる司法判断

阿賀野市などに住む47人が手足のしびれなどの特有の症状があるのに新潟水俣病に認定されていないなどとして、国と原因企業に1人当たり880万円の損害賠償を求めている裁判。

判決を前に原告団は横断幕を掲げながら新潟地方裁判所の前を歩いた後、なかに入っていきました。

判決が注目される中、裁判所には傍聴を希望する多くの人が訪れました。

きょうの裁判で新潟地方裁判所の島村典男裁判長は「症状の内容や発症した時期、汚染された川魚をどれほど食べたかなど、個別具体的に判断すべきだ」などとしたうえで「症状の内容などから、有機水銀が原因でり患している可能性が高いと認められる」として、原告47人のうち26人については新潟水俣病と認めました。

賠償を求める期限を20年と定めた「除斥期間」については「原告の症状は提訴の20年以上前に生じていて期間をすでに過ぎていたが、差別や偏見のために賠償請求する権利を行使することは困難だった」と指摘し、適用しないという判断を示しました。その上で、原因企業に1人あたり400万円を支払うよう命じました。

一方、国の責任については「有機水銀が排出されていることや周辺住民に健康被害が出ることについて国は、具体的に認識し予見できたとはいえない」と指摘し、原告側の訴えを退けました。

住んでいた「地域」や「年代」で対象を区切った特別措置法の基準外でも水俣病と認められるかどうかなどが争われた同様の集団訴訟の判決は3件目です。

▼2023年、大阪地方裁判所は、原告全員を水俣病と認め国などに賠償を命じた一方、
▼2024年3月、熊本地方裁判所は原告の訴えを退けていて、司法判断が分かれる形となっています。

一方、今回の新潟での裁判はおよそ10年間、審理が続き、提訴からこれまでに原告のうち31人が亡くなっているほか平均年齢は75歳と高齢化が進んでいます。

判決のあと原告団は会見を開き、皆川栄一団長は受け止めについて次のように話しました。

原告団 皆川団長
私たちは全員救済ということを最初から訴えてきたわけですけども、残念ながら19名、認められることができなかったということで残念であります。いままで何回も裁判で闘ってきた国の責任というものは、また今回も国に負けたのかと思うと本当に悔し涙が出ます。

また新潟弁護団の中村周而弁護団長は今後の対応についてこう述べました。

中村弁護団長
きょうの判決結果を踏まえて、原告団で、控訴する方向で議論を進めてほしいと思う。判決は、解決に向けて政策の転換を進める意味で大きな意味はある。

一方、今回の判決について水俣病に関する補償や施策などを担当する環境省は「環境省としては、今後とも、公害による健康被害への補償に関する法律の丁寧な運用を積み重ねていくとともに、地域の医療・福祉の充実、地域の再生・融和・振興に取り組んでいく」とコメントしています。

また原因企業の昭和電工、現在のレゾナック・ホールディングスは「判決内容を確認し、今後の対応を検討します」とするコメントを発表しました

”「正義・公平」の理念に反する” 除斥期間は適用せず

裁判所は、判決でどのような判断を示したのでしょうか。

今回の裁判の主な争点は次の3つでした。
①原告が水俣病と認められるか。
②水俣病と認定された場合、除斥期間の適用がどうなるか
③規制をしなかった国の責任について。

争点①原告が新潟水俣病と認定されるか

まず1つめの原告が水俣病と認められるかどうかについて。
原告は「1978年(昭和53年)の県の安全宣言まで汚染はあり、阿賀野川流域に住んでいた住民は川魚を多く食べていたと考えられる」などと主張していました。
これに対し、国は「1966年以降、水俣病を発症しうるほどのメチル水銀による汚染はなく、行政指導や新聞報道から1965年6月以降、魚介類が多く食べられたとは想定できない」などと主張していました。

この点について判決で裁判所は、安全宣言が出された1978年までの間、阿賀野川の川魚を多く食べた人もいたと判断しています。そのうえで、症状の内容や経過などから有機水銀によって、り患した蓋然性が高いとみられるとして、原告47人のうち26人を水俣病と認定しました。

争点②除斥期間は適用されるか

続いて2つめの争点は、除斥期間の適用。
除斥期間とは、損害賠償を求めることができる期限を20年と定めた旧民法の規定です。
つまり「20年を過ぎると損害賠償を請求する権利はなくなる」ということになります。

除斥期間について原告は「そもそも適用すべきではない」としていました。
また仮に適用される場合でも「医師から診断を受けたときから数えるべきだ」と主張していて、除斥期間は過ぎていないと主張していました。

これに対し国は「症状を発症した時点から数えるべきだ」と主張し、除斥期間は過ぎていると主張していました。

この除斥期間について裁判所は、水俣病と認定された26人は、いずれも提訴の20年以上前から症状が出ていて、除斥期間は過ぎているとしました。一方で「原告らは、水俣病にり患している可能性を認識できていなかったり、差別や偏見があったりしたために、原因企業へ請求できなかった。こうした事情のなか、除斥期間を適用することは『正義・公平』の理念に反する」と指摘し、除斥期間は適用しないという判断を示しました。

争点③国の責任は

そして3つめの争点。
水俣病の原因となったメチル水銀の規制をしなかった国の責任について。

原告らは、最初に熊本で水俣病が確認されてから、新潟で確認されるまでの間に、工場の排水規制などを行うべきだったと主張していました。

一方、国は、新潟県内で公式確認されるまでは具体的に認識はしておらず、公式確認されたときにはすでに工場の操業は停止(昭和40年1月)していた」と主張していました。

裁判所はこれについて「原告が主張する時期までの間に、工場で有機水銀を排出しているという事実や、周辺住民に健康被害が生じることについて、国は具体的に予見することができたとは言えない」などとして原告の国に対する訴えをいずれも退けました。


同様の訴訟は大阪や熊本でも起こされていて、これまで司法判断が分かれる形となっています。
大阪や熊本では今後、高裁で審理されていくことになります。一方で今回の新潟の裁判でも、
これまでに31人の原告が亡くなったほか平均年齢75歳となっています。

原告たちが早期の全面解決を強く求めるなか、今後の一連の裁判で国や原因企業の責任について、どのような司法判断が出されていくのか、引き続き注目して取材していきたいと思います。

 

  • 鈴椋子

    新潟放送局 記者

    鈴椋子

    2020年入局。大阪局での勤務を経て、ことしから新潟局。県警キャップとして事件・事故、司法などを取材。

  • 今井桃代

    新潟放送局 記者

    今井桃代

    2022年入局。新潟局が初任地。事件・事故や司法、クマ対策などを取材。

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