長崎の新グルメ“雲仙天うに”海と漁業を救うビジネス誕生秘話
- 2023年06月07日
5月、長崎県雲仙市に新しいご当地グルメが誕生しました。その名も 雲仙天(あま)うに
海藻ではなく「野菜」をエサとして蓄養されたウニで、甘くて生臭くないと評判を呼んでいます。
このウニの商品化までには、たび重なる失敗と、それでも諦めない漁師たちの熱い思いがありました―
磯焼けを起こすウニ 蓄養で漁業活性化へ
私たちが初めてウニ蓄養の現場を訪れたのは、去年10月。地域のお悩み解決を目指すコーナー じげ×サポで、雲仙市の京泊漁港を取材した時のことです。
この漁港では、かねてから 磯焼け に悩まされてきました。磯焼けとは生き物を育む海藻がなくなることで、漁業に大きな影響を与えます。
以前は、磯焼けの原因のひとつであるムラサキウニを捕獲して駆除していましたが、漁協の井上組合長は「捨てるのはもったいない」と蓄養に乗り出しました。
ウニが蓄養できれば、ビジネスになって高齢の漁師や若者も働く場ができる
しかし、新しい取り組みは失敗続き。3か月あまりで、1万個以上が死んで殻だけになってしまいました。
生き残ったウニも、あまり身が入っていません。井上組合長は「専門家のアドバイスがほしい」と、じげ×サポに相談を持ちかけました。
キャベツでウニを育てる!? 養殖のパイオニアが長崎へ
そこでスタッフは、ある研究者を長崎に招きました。 ウニ養殖のパイオニア と呼ばれる神奈川県水産技術センターの主任研究員・臼井一茂さんです。
臼井さんは2017年、全国で初めて野菜だけでウニを育てることに成功。今では、各地の漁業者などから相談を受けたり指導を行ったりしています。
京泊漁港を訪れて、蓄養のやり方を確認した臼井さん。まず気になったのは、エサの与え方でした。
京泊漁港でも野菜でウニを育てていますが、3日前に与えた白菜が食べられず残っていました。
臼井さんがアドバイスしたのは…
キャベツを細く切って与えて下さい。するとトゲで餌をとらえて、口元に運んで食べます
他にも、エサをやる時に「陸にあげる時間を最小限」にすることや、カゴの底に「密集しないよう足場を作る」ことを助言しました。
ウニの旬を前に漁港を訪ねると…
5か月後。ムラサキウニの旬を間近にひかえた京泊漁港を訪ねました。ちょうどエサやりをしていたカゴをのぞくと…
臼井さんの教えどおり、キャベツを「細く切って」与えていました。
また、カゴの中に入れた緑のコンテナで「足場」をつくることで、ウニが密集せず健康に育つように。
ウニの身も、以前と比べて大きくなっていました。旬を迎える頃には、十分出荷できるサイズだといいます。
雲仙のウニ 北海道や豊洲市場で通用するか?
出荷に向けて、井上組合長は県内外の水産業者や小売店の代表などを集めた試食会を開きました。
キャベツで育てたウニを食べた北海道の水産業者は…
甘みが強くてクリーミー。後味も嫌みが残らず、渋みもない
参加者の中には、“東京の台所”と呼ばれる豊洲市場にコネクションがあるという人も。
これは甘い!臭みもなくて若者や東京のマーケットで売れる
井上組合長は、参加者の感想をもとにブランド名を 雲仙天(あま)うに に決めました。「あまい」ウニで「天下」をとるという意味が込められているそうです。
雲仙天うにが全国で食べられれば、長崎県や雲仙市の活性化になる。うまく行くよう頑張りますよ
じげ×サポが半年にわたってサポートしたウニ蓄養は、無事成功しました。