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「らんまん」万太郎も愛した苔の世界 服部植物研究所

大型連休 親子連れにもオススメ!
  • 2023年04月28日

“日本の植物学の父” 牧野富太郎博士の人生をモデルにした連続テレビ小説「らんまん」。ご覧になっていますか?実は宮崎県には、牧野博士とさまざまな縁があるコケ(蘚苔類)専門の研究機関があります。コケの奥深い世界、そして研究所の楽しみ方をご紹介します!
(アナウンサー・土橋大記)

飫肥城下町 国の文化財「服部植物研究所」 

城下町の風情が漂う宮崎県日南市飫肥(おび)。

東九州自動車道が清武南~日南北郷間が開通、日南線も全線復旧しアクセスしやすくなったこの町にある、コケ専門の研究所「服部植物研究所」を訪ねました。

駅から歩くこと約10分。欧風のたたずまいを感じる木造の建物が目に入ってきました。国の有形文化財にも指定されています。ピンクのペンキで塗られた木の扉をそっと開けると・・・

そこはまさにコケのワールド!

大小さまざまなシャーレに色鮮やかなコケが育てられています。

この研究所は誰でも自由に入館することが出来ます。この日は、長崎と東京から訪れた人が研究所員から説明を聞いていました。

東京から訪れた方
長崎からの来訪者
昔の顕微鏡、実験器具にワクワク

世界に類を見ない苔類の専門研究機関

服部植物研究所は、昭和21年に植物学者の服部新佐(はっとり・しんすけ)博士が創設したコケ植物(蘚苔類)の民間研究機関です。こうしたコケを専門にした研究所は、世界唯一ともいわれています。
研究者の鄭天雄(てい・てんゆう)博士と広報の南寿早苗(なす・さなえ)さんに案内していただきました。

コケへの愛が止まらない 鄭天雄博士(左)南寿早苗さん(右)

現在、鄭さんを中心にアジア・オセアニアのゼニゴケ類の研究が進められています。

ゼニゴケ

ゼニゴケは沖縄を除く日本全国でよくみられるコケです。分類についての研究をしているとのことですが、専門的なことは横に置き、鄭さんにゼニゴケの魅力を伺いました。
 

何といっても、立体感があるところが魅力です。
実は、この青々とした姿が見られる期間は長くはありません。
大型連休のいまがちょうど見頃なので、ぜひ見学においでください。

ゼニゴケ

研究所のメンバーは「オスとメスがいるんですよ。結婚してくれたらいいですね」と、まるで人のように愛情のこもった話を聞かせてくださいました。

服部新佐博士とは

この研究所を創設した服部新佐博士(1915~1992)は、飫肥杉として知られる林業で財を成した服部家に生まれました。

幼少期の服部新佐
飫肥の杉山

杉の研究をするために東京帝国大学(現東京大学)理学部へと進みましたが、そこでコケに出会い人生が変わります。植物の中でも、特に蘚苔類や地衣類にみせられ、研究に生涯を捧げました。私費を投入してこの研究所も設けたといいます。

研究活動中の服部新佐

服部植物研究所の南寿早苗さんは「飫肥は多くの種類のコケが生息する場所です。こうした豊かな自然に触れて育ったことが潜在的に研究の動機につながっていたのではないか」と話します。

飫肥の水路に生えるコケ

牧野富太郎との接点

ところで東京帝国大学理学部出身といえば、「らんまん」の主人公槙野万太郎のモデル牧野富太郎博士(1862~1957)と同窓生、服部は牧野のおよそ50年下の後輩にあたります。実は牧野富太郎が創刊した雑誌にも服部はたびたび論文を寄稿しており、影響を受けていたとみられます。研究所には有名な「牧野日本植物図鑑」の初版本が残されていました。

今も現役で使われている初版本
コケの図も掲載
カラーページ

この本は手書きの図版が多用されていて、その後服部が出した日本初のコケの図鑑にも、そのスタイルが見て取れます。
本には、歴代の研究員の書き込みが残っていました。「オビ町に産す」「都井岬」など宮崎の地名です。牧野と同じく植物に魅せられた人々の足跡を見て、情熱に思いをはせました。

明治時代の牧野富太郎の図録も

研究所では「牧野日本植物図鑑」の実物を来館者が手に取って見ることが出来ます貴重なものですが、手にしてこそ感じ取れるものがあると考えているからです。さらに古い牧野富太郎執筆の本も残されています。

明治44年12月東京帝国大学から出版された「大日本植物志」です。タブロイド判程度のサイズでカラーページもあります。さきほどの「牧野日本植物図鑑」のもとになったものではないかということです。

服部もこうした出版物などに刺激されたとみられ、南寿早苗さんは「研究論文の書き方や資料の整理法も東大の形式で、牧野さんがいたからこそ、宮崎でコケの研究を進めることが出来たはずだ」と話します。

 服部植物研究所刊行の雑誌(過去100冊以上の論文集が発刊されている)

52万点のコケの標本コレクション

南寿さんが研究所の別館に案内してくれました(要事前予約)。たくさんの引き出しが付いたキャビネットが並んでいます。標本庫です。

引き出しを開けると、たくさんの古い茶封筒のようなものがずらり。これが標本です。一見、雑な保管に見えますが、この方法が虫がつかず、カビが生えにくい、コケの保管に最も適したものだそうです。

封筒を開けてもらいました。時代を経て採取されたコケとの対面。なんだか感動します。
そのコレクションは約52万点。国内はおろか海外でも類をみない規模です。

枝についた状態で保管されているコケの標本
試験管に入った標本も

コケの標本は、数十年前のものでも水をつけると元の形状に戻る特徴があり、研究には欠かせません。ちなみに残念ながら多くの標本はすでに死んでいて、緑の姿によみがえらせることはできないそうです。

貴重なタイプ標本

撮影させてもらった封筒の中にTYPESという文字が記されているものがありました。
貴重な「タイプ標本」と呼ばれるものです。

写真右上に記されたTYPESの文字

「タイプ標本」は、植物種の基準となるもので、世界に1点しかありません。種を鑑定するため、比較するときなどに必ず使うもので、いまも世界中の研究者にも提供されています。ここには約400種が保管されているということです。牧野富太郎自身が採取したタイプ標本が残されている可能性があるということです。

ナンジャモンジャゴケ

ところで、研究所の看板的存在となっているが「ナンジャモンジャゴケ」です。ヘンテコな名前ですね。
その名前の由来です。
昭和27年の秋に「コケ類らしいので見てほしい」と、北アルプスの岩隙で採った植物が届いたそうです。さっそく服部博士は調べましたが、生殖器官がなく、これまで知られていたコケ類の概念からはかけはなれていました。決め手が見つからなず「少なくとも蘚類ではなかろうとのことで、一応ナンジャモンジャゴケと仮称して標本庫に入れてしまった」という逸話が残っているのです。

ナンジャモンジャゴケのタイプ標本

後年、服部博士は、このナンジャモンジャゴケについて「コケ分類学上、今世紀最大のヒットであるが未知の部分が大きい。恐らく雄株は絶滅してしまったものと思われる。もし発見の可能性があるとすればヒマラヤあたりであろうか」と記しています。

南寿さんによると、実際、最近ヒマラヤで類似の種類が見つかりましたが、いまだ謎が多いコケだといいます。 

マキノゴケ

さらに今月(2023年4月)から新たなコケの展示が始まりました。その名もマキノゴケ(学名Makinoa crispata)。牧野富太郎博士の功績にささげる形で名づけられました。
「らんまん」の放送にあわせて、研究所のメンバーで市内に探しに行ったところ、見つかったとのこと。全国的にみられるコケだそうですよ。
マキノゴケは水分を必要とするので、湿度が高く、直射日光が当たらない場所に生えていることが多く、滝や小川の近くに生えている可能性があります。生息していそうな場所を探索みるのも楽しいかもしれません。

遊んで学べる研究所 連休中も見学可能

ここまでお読みいただくと、服部植物研究所が非常にオープンな姿勢をとっていることをお感じになったと思います。

実際、この研究所には、子どもたちも多く訪れます。

小学生が学校にはないような立派な顕微鏡を自由に触って、心行くまでコケを観察する姿も見られるとか。

様々な種類のコケのスタンプも置かれていて、小さな子も楽しめそうです。

最近では日南高校の生徒が、研究者の指導を受け、市内の虚空蔵島(こくぞうじま)のコケを調査・研究に取り組んでいます。牧野から服部へ、そして現代の研究者から高校生へ、植物研究のバトンが手渡されているのですね。

テラリウム作り・町あるき体験も

ほかにも、研究所では見学者向けの体験プログラムも用意しています。その1つ、いま流行の透明ガラスの中でコケを育てるテラリウムづくりが体験もできます(有料)。ガラスの中のコケは、光の加減で、様々な表情を見せていました。

ミニチュア人形を飾り付けた作品も

また飫肥城下町保存会が実施している「食べあるき、町あるき」というプログラム(有料)にも参加していて、その引き換え品として写真のカードを用意しているということです。

子どもから大人まで楽しめる城下町の研究所。大型連休や夏休みのお出かけにおすすめです。知的好奇心が満たされること間違いなし。みなさんも訪れてはいかがでしょうか。

服部植物研究所
開館時間  10:00 ~ 16:00 ※8月10日はコケの日には例年催しが開かれています。
休館日   年末年始 お盆期間
入館料   無料
問い合わせ 0987-25-0110

交通:JR日南線飫肥駅から徒歩10分。車の場合、東九州自動車道日南東郷インターチェンジから約15分。

  • 土橋大記

    宮崎放送局コンテンツセンター アナウンサー

    土橋大記

    ナンジャモンジャゴケを取材して、初任地山形に「ナンジャモンジャの木」という巨木があったのを思い出しました。そういえば、冷風が噴き出す「ジャガラモガラ」という風穴もありました。

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