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至れり尽くせりのサポート!有機栽培の綾町に農業学校

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  • 2023年04月28日

環境面や肥料価格の高騰で、注目されつつある有機農業。
綾町では、50年前から先進的に取り組んできました。
しかし今、町から農家が減りつつあるという課題を抱えています。
そこで、全国でも珍しい、有機農業を体系的に学べる農業学校を開校することに。
学校作りが問題解決に繋がるワケや、至れり尽くせりのサポートの詳細を取材しました。

(取材:アナウンサー 堀井優太)

生産から流通まで教える。新・農業学校誕生

今年6月に開校予定の「綾オーガニックスクール」。
町や農協を中心とした組織・綾町自然生態系農業推進会議が設立し、
町内の合同会社に運営を委託しています。

この学校、一言で言うならば…
綾町で伝わる有機農業を、生産から流通まで、全てバックアップしてもらいながら教われる農業学校。

個人で農業を始めると、販売先を確保するところから一人で始めなければなりませんが、スクール生には、綾町の農家が販売先まで確保します。

マーケティングについても、取引先のスーパーなどからバイヤーを講師として呼び、学ぶことができるんです。
週6日、2年間。実践的で手厚い分、定員は3組と少数。
農薬を用いるいわゆる慣行農業とは違い、有機農業を体系的に教えてくれる組織というのは全国規模で見ても「中々ない」そうです。
 

設立の背景にあるのが、有機農業の難しさ。
・手間がかかり ・収穫量が少なく ・売り先が限られる
ハードルが高いと言われているにも関わらず、
知識・経験が共有される場が少ないという問題がありました。

綾町が抱える また別の問題

さらに、綾町には他の問題も。

こちらは、綾町でとれた野菜や果物を販売する「綾てづくりほんものセンター」です。

取材していたのは月曜日の朝9時過ぎ。
平日の朝にも関わらず、次々とお客さんが訪れ、野菜を手に取っていきます。

大人気の綾町の野菜。問題など何もないように見えますが・・・

実は、野菜を提供する農家が減っているという問題に直面していました。

綾町の農家の数は、平成29年度は369人だったのが、令和4年度は236人に。
わずか5年で3分の2に減りました。
高齢化により、農業を続けられなくなった人が増えていることが主な原因です。
安定して野菜を提供するために今の状況のままではよくないと、綾手づくりほんものセンターの小笠原寿治店長は感じていたと話します。

小笠原寿治店長

充実した品ぞろえを保つためには、
多くの品目を作ってくれる農家が不可欠です。
そのためには、例えばこれから本格的に農業を始めようという若い人など、
綾町に根付いてくれる農家に来てほしいです!

問題解決の鍵となるか

こうした問題を解決するために必要なのが、新規就農する上でのハードルを下げ、徹底的なサポートを行うこと。
綾オーガニックスクールでは様々な工夫を凝らしています。

農業は、まず土地を探すところから始めなければなりませんが、
学校は生徒にはじめから十分な土地を確保してあります。
それは、耕作放棄地。
元々は良い土壌だったにも関わらず、後継者がいなくなりやむなく放棄されてしまったところもあるそうです。
宮崎大学の元農学博士教授などから土づくりについて専門的な指導も受けながら、畑をよみがえらせます。
耕作放棄地の活用もでき、新規就農者にとってもありがたい。まさにWIN-WINの関係です。

農業を始める上で高いハードルとなるのは、資金。
例えば、トラクターは新品で購入すると、馬力にもよりますが平均して300~400万円します。
ほかにも、畑を耕す際に使う管理機など、10万程度かかるものなど、一から農具を全て揃えるとなると莫大なお金です。
ですが、それも、料金を払えばレンタル可能。

上記のトラクターは、除草する機械もついているものだと1日9600円。

耕すときに使うこちらの管理機は、1日3000円。
「トラクターのような大きいものは借りられても、細かな農具まで貸し出しするところは中々ない」といいます。
 

移住者の方向けに、新規就農者向けの家も用意。
家を探したり、建てたりする必要はありません。

単身者向け住宅と家族向け住宅がある

また、学費はかかるものの、新規就農者への県の支援制度により資金をもらうことができ、負担を減らすことが出来ます。

 

講師である農家の方々には、様々なバックグラウンドが。
脱サラして農家・県外から移住・母の代から綾町で有機栽培…
多様なメンバーが揃っているため、悩みや不安をサポートすることもできるといいます。

諦めてしまう人を生み出したくない…
松井さんの学校にかける熱意

相当分厚いバックアップですが、一体なぜそこまでして農業学校を立ち上げたいのか。
設立の中心人物で、運営会社の代表・松井道生さんに聞きました。
 

ドイツ農相(左)が視察に訪れた際には、
自らの農園で綾の自然生態系農業をアピール。
綾オーガニックスクールについても触れていました。

松井さん、なんでオーガニックスクールを立ち上げようとしたんですか?

松井道生さん

綾町で農業をしてくれる人を増やしたかったからです。
今まで、有機農業をするため綾町に来てくれた人はいたんですが、
どうしても長期的な就農には結びつかなかったんです。

なぜ結びつかなかったんでしょうか。

松井道生さん

自分たちだけでほ場をみつけても、日当たりが悪く、水はけの悪い土地しか空いていません。
そこで2,3年は頑張るけど、良いものは中々出来ない。直売所だけだと利益も少ない…
それで有機農業をあきらめ帰ってしまう人を何人も見てきました。
実際、有機農業は中々農法が確立されていない難しい農業です。このままだと綾町に悪い印象がついてしまうと思いました。
農業学校を新規就農者をバックアップする窓口のようなものにしたいんです。

ここまでサポートが分厚いのには、そういう背景があったんですね…。
学校にはどんな人に来てほしいですか?

松井道生さん

とにかく、”ほんものの野菜作り”を学びたい人に来てほしいですね!
年齢やバックグラウンドにはこだわりはありません。
そして、もちろん綾町に定住してくれたら一番ですが、最初から「人生賭ける」ではなく、まずは軽い気持ちできてほしいです。
イヤイヤで始めても好きになる魅力があるのが農業だと思います。

ホリイユウタが聞いて感じた(あとがき)

今回松井さんにお話を聞いた中で印象に残っているのが、
「この取り組みは綾町にとどまらず他の場所にも広めていきたいと思っているんです。
綾町を活性化させて、オーガニックスクールのやり方をもっと届けたい」
という言葉です。

未来を、それも綾町のみならず、もっと広い視野で見つめる。
綾町のノウハウを広めていきたいという松井さんの強い想いが、言葉、そしてキラキラと輝く目から伝わってきました。

農林水産省が掲げている「みどりの食料システム戦略」では、2050年までに有機農業の面積の割合を25%に拡大することを目指しています。
今回の綾町の取り組みが、その一つのカギになるかもしれないと感じました。

  • 堀井優太

    宮崎局・アナウンサー

    堀井優太

    冷蔵庫にトマトは欠かせません。

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