子どもの命を守りたい 通園バス安全装置の最前線
- 2023年04月25日
2022年9月、静岡県の認定こども園で3歳の女の子が通園バスの中に取り残されて亡くなりました。 この事件を受け、国は2023年4月から全ての送迎バスに安全装置の設置を義務づけました。 しかし宮崎県によると4月1日時点で安全装置を設置できた幼稚園は1つにとどまっています。 進まない現状と、新たに装置の開発に乗り出した県内の企業を取材しました。
(てげビビ!キャスター・上田詩織)
在庫がない! 県内幼稚園の困惑
宮崎市佐土原にある園児数150人の「ひろせ幼稚園」です。今年2月、園長の大塚真美さんは、義務化されるまでに安全装置を設置しようと、県内で安全装置の販売を行っている業者に問い合わせました。
しかし返ってきたのは意外な返事。「在庫がなく間に合わない」と言われたといいます。
4月25日現在、ようやく発注をし、装置の到着を待っている状況です。
内閣府によると、安全装置の設置義務化の対象となる幼稚園などの送迎バスは全国で約4万4000台。国のガイドラインが示されたのは2022年12月で、メーカーはそこから開発や改良を進めたことなどから、需要に供給が追い付いていないということなのです。
ひろせ幼稚園では、当面は、園児が降りたあと、後部座席まで見回ってチェック表に記入する人によるチェックを徹底することにしています。
今すぐにでも装置を設置したい気持ちでいっぱいですが、在庫がない以上は120%の安全対策を継続していくしかない。
安全装置開発に挑む企業
安全装置の供給が追いつかない中、独自に子どもたちの安全を守りたいと装置の開発に乗り出した企業があります。宮崎市佐土原町にあるシステム開発会社です。
開発担当の岩切隆道(いわきりたかみち)さんです。
開発のきっかけは、子どもを持つ社員からの一言でした。「なんとか我々の持っているシステムで事故を未然に防げないでしょうか」と提案があったのです
岩切さんをはじめ開発メンバーの多くは子どもを持つ親で、開発魂に火が着きました。
もともと高齢者の見守りシステムをやっておりましたので、それを転用して幼稚園の見守りをしようというシステムの開発がスタートしました。
アイデアの元 “お年寄りの見守りシステム”
高齢化率が33.5%と、全国的に見ても高齢化が進む宮崎県。この企業はお年寄りの見守りシステムを開発し販売してきました。
装置は人の動きを感知するセンサーを応用しています。これをお年寄りがいつも生活している自宅のリビングなどに設置します。普段の暮らしをしていれば、1日に何回もセンサーの前を通るため装置が反応しますが、もし、起きているはずの日中に、センサーを横切らないと「異常」と判断してコールセンターの担当者に知らせるという仕組みです。
通園バスに応用
この高齢者見守りシステムをヒントに、園バスのシステムを開発できないか?開発者たちの試作機づくりが始まりました。そして静岡の事件から2か月、地元宮崎市佐土原町の光が丘幼稚園と共同で実証実験がスタートしました。
さっそく、実物を見せてもらいました。バスの最後部に小さな黒い箱がついています。これが人を感知するセンサーです。バスの車内全体を監視することが出来ます。
センサーの基準としては真下から水平方向に飛んでいます。縦5.6m、横3.5mでセンシング(計測)して、車内どこでも検知できる仕掛けです。
園児がバスを降りたあと、車内で動くものがあればセンサーが反応します。
この情報は直ちに職員室に置かれた端末へ発信。アラームが鳴り、先生に異常を知らせるのです。
人の目による確認を促す仕組みも
岩切さんたちは、さらにもう1つ安全策を考えました。到着後「ドライバーが車内を見回るのを忘れない」ようにする仕組みです。
まずバスのドライバーがエンジンを切ると、キーに付けた端末が「10分以内に見守り確認をお願いします」と音声で車内確認を促します。
この音声は特別な操作をしないと消せません。
バス車内の最後部に取り付けられたこのボタンを押す操作をするまで鳴りやまないのです。
ドライバーが必ず、園児が残っていないかを確認しながら一番後ろまで行くようにするための仕組みです。
宮崎の園に届けたい
現在、メーカーでは、装置が国の安全基準のガイドラインを満たしているか確認申請を行っています。岩切さんは一日でも早く、困っている園に届けたいと考えています。
子どもの命を守れるように頑張っていきたいと思っております。もちろん私も地元なのでまずは宮崎から全国にという形で進めていきたいです。