花粉症の専門医に聞く 受診の目安 市販薬と処方薬の違いなど重症化を防ぐポイント
花粉症患者の増加が止まりません。
最新データの有病率は42.5%(※)。花粉症の専門家で医師の岡野光博さんは「今の医療では花粉症になること自体を防ぐのは難しい」と言います。
そこで大切になってくるのは早期に治療を開始して重症化を防ぐこと。どれくらいの症状が出たら受診した方がよいのか。医師が処方する薬と市販薬では何が違うの?など素朴な疑問を岡野さんに尋ねました。
※日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会 2019年のデータより
(クローズアップ現代取材班)
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受診の目安は1日平均6回以上のくしゃみ
―どれくらいの症状が出たら受診や治療を開始した方がよいのでしょうか?
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岡野さん
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鼻アレルギー診療ガイドライン掲載の「アレルギー性鼻炎の症状分類表」(図1)を使って、まずは自分の症状の程度を把握してみることが有効だと思います。この表では、連続したくしゃみは1回と数えます。また、くしゃみと鼻をかむ回数は合計ではなく、それぞれ別に数えます。つまり、くしゃみの回数が1日平均5回、鼻をかむ回数も1日平均5回の場合は軽症に該当します。1日平均の期間が明確になっていないのは雨の日などは花粉の量が少なく症状が落ち着くためですが、晴れて花粉が一定量飛散したと考えられる日の2~3日間で考えればよいと思います。
この表で中等症に該当したら、私は受診をお勧めします。つまり、くしゃみや鼻をかむ回数ならば1日平均6回以上、鼻づまりの程度ならば「鼻づまりの程度が強いと感じ、口呼吸が1日のうちにときどきある」の症状になったときです。
重症化しやすい人の特徴 ドライアイの人や喫煙者は要注意!?
―花粉症が重症化しやすい人の特徴はありますか?
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岡野さん
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順天堂大学の猪俣武範准教授が代表を務めた調査では、花粉症が重症化した人たちには以下のような傾向がありました。
花粉症が重症化しやすい人の傾向
●若年者
●女性(男性の1.3倍)
●ドライアイの診断歴
●トマトアレルギー
●喫煙習慣
●ペット飼育
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岡野さん
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これらは重症化した人たちを分析した「傾向」であり、若年者や女性、ドライアイの人が重症化しやすいという結論に直結する訳ではありません。
ただトマトアレルギーに関しては、トマトのアレルゲン(たんぱく質)は、スギ・ヒノキ花粉のアレルゲンと似た構造を持ちます。交差反応性といって、いわば免疫機能が勘違いをしてアレルギー反応を起こすことがあります。
なぜ重症化を防ぐことが大切なのか
―そもそもですが花粉症の重症化を防ぐことは、なぜ大切なのでしょうか?
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岡野さん
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花粉症が重症化すると、すなわち激しい目のかゆみ、息苦しいほどの鼻づまり、止まらないくしゃみなどの症状になってしまうと、仕事や勉強はもちろん、日常生活に大きな支障が出てきます。私たちが行った調査では、花粉症が重症化したときのQOL(生活の質)は骨折や糖尿病に罹患したときよりも下がることが分かっています。
花粉症の症状が出始めたごく初期では、鼻粘膜にまだ炎症が進んでいないため、適切な治療を行えば粘膜の炎症を止め、早く正常化させることができます。逆に重症化してからでは、薬が効きづらくなります。治療には、体への負担が大きい強い作用の薬が必要になったり、正常化させるまでに長い期間や多くの費用がかかってしまいます。すなわち重症化させないために早期の治療開始が望ましいのです。
子どもの花粉症が急増中! 原因は遺伝!?鼻腔が狭く重症化しやすいので要注意
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岡野さん
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疫学調査では、子どもの花粉症が急増しています。5歳~9歳の有病率は1998年に7.5%でしたが、2019年には30.1%。この20年間で4倍になっていて、これだけ増加したのはこの年齢階層だけです。
子どもは鼻腔が狭く、ちょっとした鼻粘膜の腫れでも口呼吸になってしまい、重症化しやすいので注意が必要です。低年齢化も進んでいて、私が診察したケースでは2歳前後の子もいました。春に鼻水がたくさん出ていたので、鼻水を調べると好酸球と言われる細胞がいて、採血した結果スギ花粉に対するIgE抗体が陽性でした。そのくらいの子だと症状を訴えることはしません。受診したときには、もう中耳炎になっていたというケースもあるので、子どもは特に早めの受診が必要だと思います。
―なぜ子どもの花粉症は急増しているのでしょうか?
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岡野さん
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花粉の飛散量が多くなって飛散期間も延びているというのが大きな要因だと思います。遺伝的な要素も無視できなく、両親が花粉症だと子どもにも花粉症が起きて、なおかつ若年齢化する傾向があるとも言われています。
また、世の中全体が「きれいになっている」ことも原因の一つと考えられています。雑菌に触れることで、自然免疫系はアレルギーを抑える方向で活発化しますが、今は抗菌、殺菌の時代です。それ自体は悪くないことですが、子どもの自然免疫を活発化させるために、ある程度は必要な雑菌に曝露する機会が減っているとも言われています。
クリニックを受診したらどんな治療が受けられるのか?
―クリニックを受診すると、どんな治療が受けられるのでしょうか?
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岡野さん
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多くの人が苦しむ鼻の症状に関する治療について話します。初期治療は薬物療法が一般的で、まずは「抗ヒスタミン薬」「鼻噴霧用ステロイド薬」「抗ロイコトリエン薬」のいずれか、あるいは複数が処方されると考えてよいと思います。それぞれの特徴とどんな症状に有効かを解説していきます。
「抗ヒスタミン薬」
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岡野さん
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花粉症は、花粉を異物として体外に排出しようとする免疫の過剰反応です。その過剰反応の際にヒスタミンという化学物質が分泌され、くしゃみや鼻水、鼻づまりといった症状を引き起こします。抗ヒスタミン薬は、そのヒスタミンの作用を抑える薬です。抗ヒスタミン薬を継続して服用すると、服用していない群と比べて、生活の質(QOL)が改善し、また抗ヒスタミン薬を2週間継続して服用した群は、仕事の能率の低下が軽減されたという報告があります。(※)
※大久保公裕 世界アレルギー機構会議 第18回アレルギー臨床免疫国際会議(2003年)にて発表 後藤 穣:Physicians Therapy Manual 12(3)Dec.2003
「鼻噴霧用ステロイド薬」
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岡野さん
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いわゆる点鼻薬です。副腎皮質ステロイドの作用によって鼻の粘膜の炎症を改善します。抗ヒスタミン薬のように、すぐに効果は出ないので、毎日継続して使用することが大事です。花粉症シーズンの初期から使用することで、重症化を遅らせて花粉飛散がピークの時の症状を軽減することができます。
私たちの臨床試験では、この薬が目の症状の改善にも効果があることが分かり、新しいガイドラインにも記載されました。鼻と目の間には神経反射があって、鼻の粘膜が刺激されることで、かゆみや充血、涙など目の症状が出てきます。この点鼻薬で鼻の粘膜の炎症を抑えることで目の症状が改善されることが明らかになったのです。ただし臨床試験では鼻の症状が重症化してしまうとこの薬を使っても目の症状が改善されることはありませんでした。やはり早め早めの治療が大切だと言えます。
「抗ロイコトリエン薬」
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岡野さん
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体内でアレルギー反応を引き起こす物質ロイコトリエンの働きを阻害する薬で、特に鼻づまりに効果的な薬です。気管支を拡張させる効果もあるため、ぜんそくが合併している患者にはぜんそくにも有効です。この薬は効果が出始めるまで1週間程度かかります。
市販薬と処方薬の違い
―抗ヒスタミン薬などはドラッグストアでも手に入ります。市販されている薬と医師に処方してもらう薬は何が違うのでしょうか?
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岡野さん
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抗ヒスタミン薬に限らず一般論として、市販薬は気軽に購入できることから安全面を考慮し、有効成分の量を少なくしていたり、眠気などの副作用を抑えるカフェインなどの成分を配合しているものがあります。しかし最近では病院で処方されていた薬が市販薬として販売されていたり、処方薬と同量の成分を含むものも増えてきています。
一方で花粉症は風邪と似た症状のため、花粉の飛散が始まったあとに初めて症状が出た際は受診することをお勧めします。既に症状がつらく、市販薬を購入し服用している場合でも1週間程度経っても改善されない場合はやはり受診した方がよいと思います。
―点鼻薬や抗ロイコトリエン薬はいかがでしょうか?
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岡野さん
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市販の点鼻薬では、特に連用に注意が必要です。血管を収縮させる効果があるものが多いため、点鼻すると直ちに鼻づまりを改善し、効果を実感できる反面、過度に使用すると、かえって鼻づまりを起こすことがあります。抗ロイコトリエン薬は現在のところ、医師の処方箋がなければ購入できません。
毎年ツライ人は飛散前から服薬を
―既に花粉症で毎年ツライ人は、いつ頃から対策を開始した方が良いでしょうか?
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岡野さん
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症状が出る前から薬の服用を開始することで症状が軽減されることがわかっています。
ガイドラインでは本格飛散が始まる、1週間前ころが服薬の目安とされていて、毎年、私が患者さんにお伝えするときはバレンタインデーのころ、2月中旬と言っています。
初期治療の際に用いられる薬ならば無症状のうちから服薬を始めてもほぼ問題ありません。心配な方は受診して、医師が処方した薬を飲むのが安心だと思います。
治療をする際に注意すべきこと
―花粉症の治療で注意すべきことは何でしょう?
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岡野さん
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症状が軽い日でもきちんと服薬を継続することです。ある調査では、アレルギー性鼻炎患者の7割が薬をきちんと飲んでいなかったという結果が出ました。花粉の飛散が少ない雨の日や気温が低い日が続き症状が落ち着くと、つい「薬を飲まなくてもいいのでは・・・」と思ってしまうかもしれません。薬を服用しない日が増えると急激に花粉が増えたときに悪化したり、症状が悪化してから再び服用を始めても、以前より効果が出ないことがあります。
繰り返しになりますが、残念ながら今の医療では花粉症になること自体を防ぐことはできません。また重症化した花粉症は骨折や糖尿病よりもQOLが低くなります。今年から日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会では、2030年までに花粉症の重症化をなくすことを目指す「花粉症重症化ゼロ作戦」というキャンペーンを始めました。公式サイトもありますので、ぜひご覧下さい。そして何より早め早めの治療や対策に臨んでいただければと思います。
―貴重なお話ありがとうございました。
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