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なぜ?どうすれば? 非正規雇用2,100万人の悩み

物価高を受け、大手企業を中心に賃上げの動きが進む一方、パートや契約社員、派遣社員など非正規雇用で働く人たちの待遇改善について疑問視する声が上がっています。

総務省「労働力調査」(2022年度)によると、非正規雇用で働く人は全国に約2,100万人。労働者の約37%、そのうち7割が女性で、いまや日本で欠かせない労働力です。

非正規雇用で働く女性たちがどんな悩み・不満を感じているのか、解消するために何ができるか取材しました。

(「あさイチ」ディレクター 多々見 英里、リポーター 池間 昌人)

“賃金が上がらず苦しい…”

私たちは非正規雇用で働く女性たちにそれぞれが抱えている悩みについて、オンラインや対面で話を聞きました。その中で最も多かったのが、物価高の中で賃金が上がらず生活が苦しいという声でした。

非正規雇用で働く女性たちとのオンライン座談会の様子

10年間同じ職場でパート社員をしている はなさん(40代)は、長く勤務していても当初の時給が上がっていかないことが悩みだといいます。さらに、はなさんの時給はおよそ900円であるのに対し、人手不足の中で会社が最近雇ったパート社員は はなさんと同じ仕事をしているのに、時給1,100円だといいます。

はなさん(40代 パート社員 夫と2人暮らし)

「会社に対しての不信感しかなくて。物価が上がっているのに給料が上がっているわけでもないので、ほんとギリギリ、すごくしんどいです。テレビで『賃上げ』って言われているけれど、しょせんテレビの向こうの大企業の話だよねって」

もえさん(50代 派遣社員 夫・息子・娘がいる)

「毎日晩ごはん何にするか考えるのが本当にしんどくて。箱ティッシュは買えないのでやめて、(ティッシュの代わりに)トイレットペーパーを使っています。貯蓄はもう夢で、ここしばらくしてないですね。へそくりすらできないです」

くるみさん(50代 契約社員 息子と2人暮らし)

「一生懸命働いても楽にならないし、世の中の矛盾を感じてしまいます。納得できないです」

すみれさん(50代 パート社員 夫と大学生の息子2人)

「数少ない貯金を崩しながらでも(子どもたちの教育費に)重きを置いて、自分たちは後回し。もう不安しかない」

すみれさんは15年間チェーンの飲食店でパート社員として働いていますが、収入が増えない中、息子たちの学費など支出だけが増え続けているといいます。

勤務先にはパート社員から正社員として登用する制度があります。正社員になれば給料はいまよりも上がりますが、転勤があることが条件であるため、すみれさんは諦めざるを得ませんでした。

すみれさん(50代 パート社員 夫と大学生の息子2人)

「(家族の)食事の用意、洗濯、家事全般があります。私はこの家族をおいて正社員にはなれない、やっぱり無理だなと思いました」

実際、正社員と非正規雇用など正社員以外の人で給料はどれくらい違うのか。平均年収を比べると、正社員は約508万円、正社員以外は約198万円と、300万円以上の差があります。

平均年収 正社員と正社員以外の比較

ジャーナリストとして長年、女性の労働問題について取材をしてきた和光大学名誉教授の竹信三恵子さんは非正規雇用の従業員の賃金が上がらない理由には偏見があるといいます。

女性の雇用に詳しい 和光大学名誉教授 竹信三恵子さん
和光大学名誉教授 竹信三恵子さん

「スキルが上がっても、重い負担の仕事をしても、給料は上がらず最低賃金レベルのまま、手当もつかないことが多いです。なぜ賃金が上がらないのかというと、“女の人は夫がいるから生活に困らない、(妻は)家計補助的に働いている”という偏見や思い込みがいまだにあることが影響しています」

実際、妻の労働収入は家計をどれくらい支えているのか。NHKと労働政策研究・研修機構(JILPT)が行った共同調査(2020年11月)によると、共働き世帯における世帯総収入への貢献度は、正規雇用の女性で42.7%、非正規女性でも23.8%を占めていました。

“違法な働き方”を強いられている、どうすれば?

くるみさんの悩み

オンライン座談会では、非正規雇用に強いられがちな働き方についても不満の声があがりました。

くるみさん(50代 契約社員 息子と2人暮らし)

「有給休暇に関して勝手に会社に指定され、シフトを組まれてしまう。

所定の時間以外に働いているにもかかわらず、その分の手当をもらえていない」

もえさん(50代 派遣社員 夫・息子・娘がいる)

「前日や当日などに突然仕事がキャンセルされ、給料がもらえないことがある」

日本労働弁護団・常任幹事の中村優介さんによると、これらはすべて違法です。

日本労働弁護団・常任幹事の中村優介さん

中村さんはこうした違法な労働環境から抜け出すためにも以下について覚えていてほしいといいます。

非正規雇用であっても…
▼6か月以上継続し、かつ所定の8割以上勤務している人は有給休暇を取ることができる
▼残業代は1分単位で3年前までさかのぼって会社に請求できる


残業代を請求するために必要になるのは、給与明細、雇用契約書、そして勤務時間が分かる資料の3点です。

タイムカードなどがない場合も、日々持ち歩く手帳などに、勤務時間や勤務内容を細かくメモすると重要な証拠になります。また「家に仕事を持ち帰った」場合、職場へのメールも証拠になります。

見下さないでほしい

番組が事前に行ったアンケートでは、非正規雇用で働いている人たちがさまざまな差別を受けていることも明らかになりました。

「パート社員たちで売り場のレイアウトを工夫し、売り上げは30%アップ。しかし表彰されたのは週に1回しか来ない、正社員の店長。こちらには感謝の言葉すらなく、『俺の評価が上がっちゃうな~』と言われた」(50代 宮城県)
「正社員の人はいつもコーヒーを飲んでいる。ある日、私がコーヒーを飲んでいると正社員から『パートのくせに、仕事中コーヒー飲むんだ』と言われた」(50代 愛知県)

このほかアンケートで「職場で言われて嫌だった」という言葉を寄せてもらいました。多かった声をまとめました。

アンケートに寄せられた「職場で言われて嫌だった」という言葉

「主婦の小遣い稼ぎでしょ?」「あんたの代わりはいくらでもいる」「楽でいいよね」などと言われて、「見下されている」と感じたという人が少なくありませんでした。

職場の不満、言えないのはなぜ?

しかし番組にはこうした悩みや不満があってもなかなか会社には言えないという声も多く寄せられました。それは非正規雇用の場合、「解雇」や契約を更新しない「雇い止め」があるからです。

仕事をする あいさん イメージ

派遣社員として営業補助の仕事をしていたという あいさんも雇い止めの恐怖から会社に一切不満を言ったことはなかったといいます。

あいさん(50代 元派遣社員 夫と2人の息子がいる)

「あまり文句をいうと、もう切られるんじゃないか、この立場がなくなるのではないかという不安からだと思います」

あいさんは出産するまで働いていましたが、子育てでキャリアに6年間のブランクがありました。20社ほどに履歴書を送り、ようやく採用されたのがこの仕事でした。

しかし、働き始めて半年ほどたつと次第に派遣会社から当初言い渡されていなかった仕事の依頼がくるようになったといいます。

朝7時までに自宅から2時間かかる場所に荷物を取りにいくよう突然言われたり、もともと契約では県内のみの勤務が条件だったにもかかわらず、県外の仕事もするという内容にいつのまにか勝手に変更されていたり…。

しかし あいさんは会社に不満を言うことはできませんでした。家計が苦しい中、また一から仕事を探して、いま以上の条件で働ける職場が見つかるとは思えなかったからだといいます。

あいさん(50代 元派遣社員 夫と2人の息子がいる)

「子育て中の人間からすると、『私たちはこれで我慢しなきゃね。もういい会社は受けられないよね』(という気持ちがあります)。やはり雇い止めがあることは非正規雇用のつらいところというか、弱い立場じゃないかなと思います」

民間だけではない “非正規公務員”という存在

非正規雇用の不安定な待遇や働き方について悩みを抱えているのは民間企業で働いている人だけではありません。

都道府県や市区町村などで毎年契約を繰り返しながら働く「会計年度任用職員」(いわゆる”非正規公務員”)は全国で62万人余り、職員全体のおよそ18%です(総務省調べ 2020年4月)。

仕事の内容は多岐に渡り、学校教員や、女性相談支援員(婦人相談員)、ハローワークなどの職員、保育士、図書館の司書など、いずれも社会の根幹を支える仕事ばかりです。

社会の根幹を支える”非正規公務員”の主な仕事

3年前から始まった「会計年度任用職員制度」によって、原則1年ごとに契約。多くの自治体で契約更新の回数に上限があり、3~5年で契約がなくなるケースが多いといわれています。

会計年度任用職員の4人中3人が女性(総務省調べ 2022年4月)。79%が年収250万円未満というデータもあります。(はねむっと調査 2022年)

今回、私たちは”非正規公務員”として、これ以上働き続けるのがつらいと迷った末、退職を選んだ女性に話を聞くことができました。

去年まで非正規公務員として働いていた谷口さん

谷口麻衣さん(仮名・30代)は「会計年度任用職員制度」が導入される前から、ある地域の女性支援相談員(婦人相談員)として、DV(ドメスティック・バイオレンス)を受けた女性たちの悩みを聞き、一時的な保護先やその後の住む場所を探すなど、生活環境を整えるサポートをしていました。

生活上の悩みを聞くなど、長期間にわたって相談者の不安な気持ちに寄り添いながら人間関係を築き、信頼を得て進めなければならない、身体的にも精神的にも負担の大きい仕事だったといいます。

しかし給料は月およそ14万円。仕事に見合う待遇ではないと感じていたうえに、契約更新の回数に上限が決められたため、谷口さんは相談にのっていた女性たちに申し訳ないと思いながらも、辞めることを決断したといいます。

谷口麻衣さん

「自分としては誇りとやりがいをもっている仕事ではあったので、自分のしていることはあまり認められていない気持ちになりました。相談員にキャリアを積ませて育てていくことはあんまり想定されてないのかなって感じて。


相談者さんたちがこれからどうなってしまうのか。そういう不安を残して辞めてしまうことはすごく残念で、最後まで悩みましたけど、自分が人生で何かあったときに経済的に余裕がない生活は不安が常にありました」

谷口さんが相談員の仕事を辞めたことで困ったという人からも話を聞くことができました。

夫のDVから逃げてきた えみさん(仮名)は、3年間にわたって谷口さんの支援を受けました。いつも自分に寄り添い、優しい言葉をかけてくれた谷口さんを誰よりも信頼していました。

それだけに頼りにしていた谷口さんが突然退職したことは大きなショックでした。別の担当者に一から相談をすることはためらわれるといいます。

えみさん(仮名)

「生活の基盤を整えてくれた、自立まで支えてくれた感じがします。谷口さんがいなければいまはないというか、生きていなかったかもしれないですし、回復できなかっただろうなと思っています。それくらいかけがえのない存在でした。


(谷口さんが退職すると知り、)まだ聞きたいことも頼りたいこともあるのに、“私どうなっちゃうんだろう”と、とても不安になりました。新しい方がお見えになったときにはフラッシュバックとか、つらい気持ちを掘り起こす作業にもなりますし、もう本当に相談できないかもしれない」

3年間 谷口さんに支援してもらっていた えみさん(仮名)

女性相談支援員をはじめ社会のニーズが高い職業に、1年の契約更新や更新回数の上限のある「会計年度任用職員制度」が導入されたのはなぜか。その背景には、バブル崩壊後の不況で税収が減る中で、正規職員を減らさざるを得ない状況があったと女性の雇用に詳しい竹信さんはいいます。

そして、谷口さんのように退職の道を選ばざるを得なかった“非正規公務員”や、えみさんのようなケースをこれ以上出さないためにも、私たち市民が声をあげることも大切と話します。

和光大学名誉教授 竹信三恵子さん

「相談員など社会的ニーズがある職に、安い賃金で非常勤の人たちがついているという不安定な雇用形態は、サービスの質の低下にもつながります。私たち住民が税金をどう使ってほしいか声を届けることも大事。声を出さないかぎり社会も良くなりません」

困ったときは第三者に相談する

非正規労働をする中で、賃金、仕事の内容や働き方について違和感や悩み事があった場合、第三者に相談することが大事だと竹信さんはいいます。

和光大学名誉教授 竹信三恵子さん

「たとえば病気になったとき、病院に行って診断を受ける。それと同じで、仕事をしていて変じゃないかと思うことがあったら、診断を受けるべきです。


会社の中にいると、自分が悪いんじゃないかとどうしても思ってしまう。でもそれを第三者に言うと、労働のルールに基づいて『あなたは悪くなく、しかもこのような手があります』と言ってもらえる。そうすると『あ、なんかできるんだ』と自信をもつことができる」

民間企業で働いている場合、全国の以下の無料相談窓口を利用することも可能です。

全国の無料相談窓口

さらに、全国に非正規雇用の人も個人で加入できる労働組合があります。「コミュニティ・ユニオン全国ネットワーク」公式ホームページからお近くの労働組合をご覧ください。

個人で交渉をもちかけたとしても、会社側は応えることは義務ではありませんが、労働組合が働きかけることで法的拘束力が生まれます。

また非正規公務員の方で悩みや相談がある方は、「官製ワーキングプア研究会」や「自治労」「自治労連」などの相談窓口にてご相談ください。

非正規雇用について取材して…

「ご飯を買う費用さえきつい」「どれだけ働いても貯蓄を取り崩す生活から抜け出せない」…。「あさイチ」の座談会で聞こえた悲鳴。番組放送中も次々とこうした声が届き、その数4,000件を上回りました。「あさイチ」放送中に寄せられた件数としてはかなりの数です。いかに多くの方が非正規雇用の労働環境に悩みを抱いているのか、気づかされました。

非正規雇用のうち7割が女性です。竹信さんの「女性の労働は“夫の補助”という認識が強い。このため格差が存在している」という言葉が印象に残ります。

どれだけ業務に貢献しても「女性だから」と性別でくくられる実態。「非正規雇用」の問題点にはジェンダー観が背景としてあることを思い知らされました。

非正規雇用の問題は公務員にも広がっています。竹信さんの「私たち住民が税金をどう使ってほしいか声を届けることも大事」という言葉のとおり、私たちは自分たちが暮らす自治体で何が起きているのかにも目を凝らす必要があります。

非正規雇用・非正規公務員の課題はまだまだ残されています。これからも取材を続けていきます。

※厚生労働省「労働力調査」としていましたが、正しくは総務省「労働力調査」でした。(2023年7月10日追記)

関連番組

取材した内容は、2023年5月24日(水)に「あさイチ」で放送しました。

みなさんは働く中での悩みはありますか?「こんなことで悩んでいるのは私だけ!?」と思うような些細(ささい)なことでもかまいません。みなさんの体験談や記事への感想などを>下の「この記事にコメントする」(400字まで)か、ご意見募集ページ(800字まで)から お寄せください。

みんなのコメント(3件)

感想
Pace
20代 男性
2023年7月20日
非正規雇用の待遇の悪さを「ジェンダーの問題」でひとくくりにするのは乱暴すぎると思います。ジェンダーの問題も原因の一つではありますが、「日本経済システム」の一部としての非正規雇用問題、という側面を無視すべきではないと考えます。
体験談
りょういち
50代 男性
2023年7月10日
自分は大学非常勤講師ですが、女性の非常勤講師は圧倒的に多く、低賃金不安定雇用です。ちなみに専任との格差は機械的にみても5倍以上です。こんなに格差がある職場がありますか?
感想
男性
2023年7月9日
「非正規雇用のうち7割が女性です」
だから何ですか?男女半分になるのが理想なんですか?
非正規男性とどれだけの女性が結婚していますか?
見下しているのは女性もでしょう