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“学び”の新たな選択肢「学びの多様化学校」とは?

全国の小中学校の不登校児童生徒数は29万9048人(2023年10月発表)と、10年連続で増加しつづけています。
 
そうしたなか、不登校の子どもたちの受け入れ先の一つとなっているのが「学びの多様化学校」です。

文部科学省が、2023年3月に、不登校の子どもたちへの支援についてまとめた“誰一人取り残されない学びの保障COCOLOプラン”の中でも実現を推進することが書かれている場所ですが、ここでは、一般の学校とはちょっと違う教育を受けることができます。一体どんな学校なのでしょうか? 
 
(札幌局 ディレクター 浅見 直輝)

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学びの多様化学校とは?

学びの多様化学校は、不登校児童生徒の実態に配慮した特別な教育を行う学校のこと。

2004年に国内で初めて開校したときは“不登校特例校”と呼ばれていましたが、2023年8月から名称が変わりました。

児童生徒が学びたいと思ったときに多様な学びに出会えることや、個々のニーズに応じた受け皿となることが求められていることから、学校によって様々な特色があります。たとえばこれまでは・・・

● 年間の授業時間数は、学習指導要領にとらわれることなく、通常よりも少ない
(標準授業時間数が小4~中3で1000時間程度のところ、750時間程度)
● 朝の時間や放課後のゆとりを考え、午前2時間、午後2時間を基本とする
● 音楽・美術・技術・家庭を統合したクリエイティブな授業を設置
● クラス担任は2人とし、男女を組み合わせる
● 登校が必須ではなく、学校内の別の場所や家庭からのリモート参加もOK
● 給食はなし、お弁当は学校内のどこで食べてもよい
● 1日の最後は掃除ではなく、個別担任との短い面談
● 授業は習熟度別に行われ、自分の学力に最も適したクラスで授業を受けられる
● コミュニケーション能力の向上をめざし、ソーシャルスキルトレーニングの授業を実施
● 体験型学習(たとえば校外学習)を年4回以上実施

2024年1月現在、学びの多様化学校は全国に32校あります。(小学校3校、中学校16校、小中一貫校2校、高校11校)。公立の場合は学費は無料ですが、私立の場合は学費を支払う必要があります。年額の平均は中学校で47万6000円、高校で37万4600円 (※平成28年1月文科省調べ)

多くの学校が、転入を受け入れています。高校は全日制や通信制、寮を設置する学校もあるそうです。

全国の「学びの多様化学校」
※全日制過程または定時制課程において
通信の方法を用いた教育を取り入れている高等学校を含む(令和6年1月現在)

通常の学校とは異なる部分も多い「学びの多様化学校」ですが、学校教育法施行規則に基づいて設置されていることから、一般の学校と同じく卒業資格を得ることができます。

文部科学省によると、小中高を含め2027年までに全都道府県への設置、将来的には300校の設置を目指しているそうです。

「学びの多様化学校」 実際はどんな感じ?

番組では、札幌市内にある学びの多様化学校を取材しました。およそ150名の中学生が通っています。

北海道内だけではなく、関東地方から引っ越してきた人もいます。閉校となった小学校の校舎を利用していて、広々とした空間からは、生徒たちの賑やかな声が聞こえてきます。

一日の流れ
1日の大まかなスケジュールは、9時10分までに登校、授業は6時間、16時から帰りの会。

ただし「毎日1~6時間目まで参加して当たり前」という前提はありません。家を出るだけでもプレッシャーを感じる生徒、1日のうち数時間授業に参加することが大きな一歩となる生徒、授業に留まらず自分の興味関心をより探究しようとする生徒…、多様な生徒たちがそれぞれのペースで学べるように配慮がなされています。一日の最後は、先生と生徒がマンツーマンで、その日をじっくり振り返る時間があるそうです。

安心して学べるように
勉強面で不安や苦手意識を持つ生徒もいることから、主要5教科の授業は習熟度に合わせたクラスが用意されていました。自分の能力に合わせた環境で、安心して勉強に取り組んでもらうためだそうです。

個別に復習・補習をする時間もあり、学校に行っていなかった頃の授業や学びを補うこともできるそうです。

「SST(ソーシャルスキルトレーニング)」という授業では、生徒同士でボードゲームなどを楽しみながら、コミュニケーションスキルを身に着けることを目指すそうです。他にも「自由ってなんだろう?」「もしこんなトラブルが起きたら?」というテーマで話し合いながら、他者の考えや立場を考えてみる時間もあるとか。

  
授業はどこからでも参加OK
生徒全員が持っているタブレットを使って、学校内の別の部屋や自宅からでも授業にリモートで参加することができます。学校の中には、個別ブースが並ぶ部屋や、ハンモックのある部屋も!取材で訪れたときにも、ハンモックにゆられながら授業を受けていた生徒は…「教室で授業を受けるのも好きだけど、ずっといると疲れちゃうから」と、1人で過ごしているようでした。

しんどくなったときは・・・
校舎の中には、授業に参加することがしんどくなったり、集中力が続かなかったりする時のために、誰でも休憩していいスペースがありました。1人で静かに本を読む生徒、イラストを描いている生徒、先生や友人とおしゃべりする生徒など、それぞれのペースで自由に過ごしていました。

さらに、夏休みや冬休み明けの1日目、2日目には、特別なカリキュラムがあるそうです。

「みんなで音楽ライブ」「推しへの応援うちわを作ろう」「トランプで大富豪を極めよう」「ビニールタコを作って飛ばそう」など、生徒の希望から生まれた体験授業が目白押し!長期休暇中に、昼夜逆転の生活になっていたり、大人数がいる場所に再び抵抗を感じたりするようになる生徒もいるため、新学期のはじめは、生徒がやりたいと思うことを選び、楽しむことで、スムーズにスタートさせられるように工夫しているのだそうです。

進路は…
この学校では、生徒の約7割が通信制高校へ進学し、その他は、農業、運輸、情報科学、機械工学、経済、福祉など、より専門的なことを学べる高校や、高等支援学校、離島などにある特色ある高校、そして、いわゆる“難関校”…進路は多岐に渡るそうです。
  
取材ディレクターの感想…とにかくにぎやか!
カメラを向けると笑顔を見せて踊りはじめる生徒や、友達と廊下ではしゃぐ生徒、教室の隅で黙々と読書をしている生徒など、思い思いに過ごしている様子でした。とっても明るくにぎやかで、取材クルーにも積極的に話してくれました。

特に印象的だったのは、生徒と先生の距離の近さ。先生と話していると、生徒たちの入学の背景や、それぞれの性格、得意不得意など、1人1人の個性を深く理解していると感じました。そのことを生徒たちも感じているのか、もともとは学校に苦手意識があった生徒が多いはずですが、先生への親しみが感じられました。お昼の時間は生徒たちと校長先生が1つの輪になって笑いながら食事をしている姿を見かけました。和気あいあいとした雰囲気が印象的でした。

授業中であっても、いつでも休憩していい部屋があることにもとても驚き、先生に伝えると、こうおっしゃっていました。

「周りから見たら授業に参加せず、何もしていないように思われるかもしれません。でも、その子にとっては“ここに来ること”が大きな一歩なんです」

周囲と比較することなく「その子にとっての一歩」が尊重され、「自分はここに居て良いんだ」と思える学校づくりにとても共感しました。

ちなみに・・・学びの多様化学校“高校”はどんなところ?

高校になると、通信制・定時制・工業高校・農業高校・・・学び方も学ぶ内容も選択肢がぐんと増え、自分に合った学校を探しやすくなります。しかし、前段でも説明したように「学びの多様化学校」は、高校もあります。どんなところなのか、簡単にご紹介します。
 
平成18年に初めて開校され、現在は全国に11校。不登校経験者向けに様々な配慮がなされており、特徴はコミュニケーションスキルを高める授業が多いこと。体験活動や地域活動を通じてさまざまな人と交流したり、将来の夢を見つけるきっかけになるような授業に力を入れている学校があるそうです。通信の方法を用いた教育で一定数の単位認定を行うこともできますが、基本的には不登校を経験した人が社会経験を積めるように「対面での授業」に力を入れているところが多いようです。
 
学びの多様化学校の高校は、これまでは学費がかかる私立高校しかありませんでしたが、大阪府が府立高校として設置することを検討していると発表しています。公立高校として設置が実現すれば、全国初の試みとなるようです。「学びの選択肢」がこれからも増えていくといいですね!

取材後記

学校に行っていても、行っていなくても、どんな子どもにも、得意不得意があり、日々気持ちの変化もあるものです。また、心が傷ついた時には、勉強をする時間だけでなく「ほっとできる時間や居場所」も必要です。学びの多様化学校で行われている子どもたちのための様々な配慮が、どんな学校でも行われれば、すべての子どもが安心して学んでいけるのではないかと感じました。学びの多様化学校が増えていくことをきっかけに、子どもの特徴に合わせ、気持ちに寄り添う教育が、社会の隅々まで広がっていくことを願います。

また、「学校に戻ることがベストではない」という子もいると思います。今はフリースクールやホームスクーリング、あるいは地域の居場所・フリースペースなど、様々な選択肢が増えてきています。“1つの学校”だけで子どもを支えるのではなく、その子の状況に応じて「様々な学びの場」を適宜活用しながら、その子らしい一歩をみんなで支える社会が、これから求められていくのではないでしょうか。
 
子どもに合わせた学び場を作ろうとしている人や場所があることが、今回の取材・番組を通して1人でも多くの人に伝わればと思います。

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この記事のコメント投稿フォームからみなさんの声をお待ちしています。

みんなのコメント(6件)

感想
まゆ
19歳以下 女性
2024年3月9日
すごくてわかりやすかったです!
質問
A
40代 男性
2024年2月12日
文科省には「大人になるまでに最低限これだけ身に付けていればいいよ」というものはあるのだろうか?「その子が大人になるまでに時代はこう変化しているだろうからこれを身に付けさせよう」という大体の目算。逆に言えば「それ以外は専門知識だからできない子はできなくていいよ」という減点の対象にならないもの。
これが明確にないから「あれもこれも」と詰め込ませて子供が疲れ果てて教師は過労死してるんじゃないの?
提言
yy
40代 男性
2024年2月6日
本当に早く各県に設置する必要があると思います。
感想
かに
40代 男性
2024年1月31日
今までの学校は、たとえ初心者でも間違いは許さない、点数が低い人や宿題をやらない人は許さないという考えなのに対し、誰でも最初は上手くいかない、間違いがあって当たり前だから、間違えても大丈夫だよ、ちょっと変わっていても、自身に合ったやり方で大丈夫だよという考えで成り立っている学校だなと感じました。私が小中学生だった頃は前者の方で、毎日の宿題とかテストは苦手な方だったし、暗記のような形で覚えたとしても、なぜそうなるのかを理解したり、その背景に何があるのかを考えたりしていなかったと思います。
質問
にっしー
50代 女性
2024年1月27日
ワタシは精神科スタッフです。悩んで学校に行けない子が多い現実に日々向き合っています。多様化学校すごいです。デメリットはないですか?自由をどこまで許すのかとか。
感想
1人親
50代 女性
2024年1月27日
貧困層にはやりたくてもできないですよね?
どんな苦しい状況でもやはりお金が無いとできないんだなと思いました。