どうする?思春期の性教育 伝え方のシナリオを考えてみた!
わが子には、「正しい性の知識」を持ってほしいものですが・・・。セックスの知識をどこで得たか、中学生に聞いた調査によると、
「友人や先輩」男子53.4% 女子41.4%
「学校(先生、授業や教科書)」男子21.4% 女子22.9%
「インターネットやアプリ、SNSなど」男子19.8% 女子22.7%
他、「アダルト動画」や「付き合っている人」という声も。
【※複数回答・日本性教育協会「第8回 青少年の性行動全国調査報告」(2017年)】
やはり、子どもには、大人からしっかり正しい知識を伝えておきたいものです。
でも・・・どうやって伝えていいか分からないという方も多いのではないでしょうか。
そこで今回、思春期の子どもに親から何をどのように伝えればいいのか、医師と一緒に「シナリオ」をつくってみました。
(第1制作センター 教育次世代 ディレクター 伊藤 大輔)
彼女ができた!という息子にどう伝える?
「性教育」に関するお悩みを寄せてくださったKさん。
中学2年生(当時)の息子タクヤさん(仮名)に、ある日突然、「彼女ができた」と報告されました。
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Kさん
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教えてくれてありがとう、という気持ちはあるものの、興味本位で性的なことをするかもしれない、という心配もあり、「正しい知識」を伝えたいと思っています。
でも、何をどう伝えればよいかすごく悩んでしまう。性交や避妊に関しては話をしたいのですが、どこまで踏み込んでいいのか・・・。
Kさんは、夫に「同性の親から性教育をしてほしい」と頼んだこともあるそうですが、「親からする話でもないんじゃない?」と断られてしまったそうです。
そんなKさんのために、性教育のシナリオを作ってくれたのは、性教育ユニット、アクロストン。
医師の夫婦で、小学校での出前授業や、保護者向けのワークショップを行っています。シナリオをもとに大切なポイントをご紹介していきます!
ポイント① 話を切り出すタイミングは“節目”
この日は、1学期の終業式の日・・・。
「ねえねえ、明日から夏休みだね~、彼女とは仲良くやってる?」
「・・・・・・まあ」
「へーそれは良かった。夏休み、ふたりでどっか遊びに行ったりするの?」
「たぶん」
「そっか、じゃあ話したいことがあるんだけど・・・話してもいい?」
「まあいいけど・・・なに?」
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アクロストン みさとさん
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今回は“1学期の終業式・明日から夏休み”という節目のタイミングに話を切り出しています。誕生日や入学式など、何かしらの“節目”に話を切り出すと、親としても話す理由ができるし、子どもとしても何か理由があると聞きやすいと思います
番組のアンケートでは、性の話を切り出すタイミングについて、
「学校の先生が妊娠したときに話した!」
「子どもの生理が始まったときに話した!」
という声もありました。
ポイント② ものおじせず、淡々と
「お母さんが話したいのはね、セックスのことなの」
「は!?何いきなり・・・」
「彼女と一緒にいたら、手つなぎたいな~とか、キスしたいな~とか、セックスしたいな~と思ったりするかもね。それはとっても自然なことだと思うよ。でも分かってると思うけど、セックスをしたら、赤ちゃんができることもあるよね。もし赤ちゃんができたら、タクヤ育てられる?」
「いや、普通に無理じゃね」
「そうよね。だから、今日はちゃんとセックスについて話しておきたいの」
「マジかよ・・・どうしたの今日?」
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アクロストン たかおさん
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セックスのことを、“男女関係の、大人のあれ・・・”などと、まわりくどい表現にしたり、親が恥ずかしがるのを子どもが見ると、やっぱり隠さなきゃいけないのかな、と勘違いしてしまいます。一般的な知識の話をすると思って、恥ずかしがらずにしゃべっていきましょう。
ポイント③ 必要な情報を、具体的に
「まず、付き合っているからといって、セックスしなきゃいけない、ってことはないのよ。それは覚えておいてね。でも、セックスをする場合は、必ずしなくちゃいけないことがあるの。それは避妊よ」
「妊娠をさけるためによく使われるのは、コンドーム。使い方が大事だから、正しい方法がわかるサイトをあとでスマホに送っておくね。でもコンドームを使ったとしても、100%妊娠を防げるわけじゃないからね。なにか困ったことがあったら、必ず相談してね」
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アクロストン みさとさん
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子どもたちがネットでセックスについて調べても、正しい避妊や性感染症予防の知識に出会えているとは限りません。親から、中高生用の性教育のサイトなどを教えてあげたほうが安全ですね。
また、コンドームをどこで買えるかも伝えるとよいと思います。コンビニやドラッグストア、100円ショップでも買えることは意外と知られていません。
そして、アフターピルという薬のことを伝えてもいいでしょう。避妊に失敗した場合に服用する緊急避妊薬のことです。病院で処方を受けることができます。いざというとき、子どもがなるべく早くに、気負わずに打ち明けられるように「何かあったら言ってね」とも伝えておきたいですね。
以上が今回のシナリオ。
Kさんに率直な感想を伺ってみると・・・
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Kさん
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ずいぶん長いシナリオだったので覚えられるかな・・・(笑)いろんなところでチャンスを逃さずに伝えていけるといいなと思います。特につきあってるからといって、セックスをしなくちゃいけない、というのは誤解だよというのは伝えたいです
いきなりこのシナリオの内容を一気に話すのは難しい!と感じた方も多いと思います。
アクロストンのお二人も、こんな風におっしゃっていました。
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アクロストン みさとさん / アクロストン たかおさん
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まずは自分がここまでできるかなっていうところまで伝えるのでも大丈夫です。何回かに分けてしゃべってもOKだし、子どもが嫌そうにしたら無理せず、次のチャンスを狙ってください!
“ことば”で確認 性的同意
そしてもうひとつ、お子さんに伝えておきたいのが性的同意。
抱きしめる、キスをする、セックスをする、など性的な行為をする前に、してもいいかどうか相手の気持ちをはっきりと言葉で確認すること。
たとえば、付き合っているから、キスがOKなら、相手の部屋に入れてくれたから・・・。こんな状況だとしても「同意」なしでセックスをすることは、相手を傷つけるかもしれません。
実は、令和5年6月には性犯罪についての法律が変わり、 暴行や脅迫だけではなく、「立場による影響力」が原因となって、「イヤ」と思うこと、「イヤ」と言うこと、または「イヤ」を貫くことが難しい状況で、性的な行為がされた場合、それは「不同意わいせつ罪」や「不同意性交等罪」という犯罪の被害になることになりました。
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アクロストン みさとさん
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お互いの関係性が「対等」であるかが、同意をするうえでとても大切です。例えば、相手に嫌われちゃうかな、と考えてイヤと言えないのは決して対等な関係ではない。私たちが子どもたちに話すときは、「相手にイヤっていってもその後仲良しでいられる関係」が対等な関係だよというふうに話しています。
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アクロストン たかおさん
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子どもが「イヤ」と意思表示をすることに慣れておくことも大事だと思います。日常生活から子どもの交友関係や進路を親が「同意」なく一方的に決めているのに、「性的同意」だけイヤなときはイヤといいなさい、と言われてもそれは難しい。普段から「いや」なことは「いや」と言える空気を家庭で培っておきたいですね。
取材後記
「性的同意」を広める活動を行う大学生に取材をした際、「中高生のうちから性的同意を知っておくことは、被害者を減らすことよりも加害者を減らすことに直結する」と言っていたことが印象に残っています。「性的同意」に限らず、他の広い「性の知識」に関しても近いことが言えると思います。
子ども自身の身を守るため、だけでなく、「正しい性の知識」を知らないばかりに誰かを嫌な気持ちにさせたり、傷つけてしまうことにならないために、しっかりと大人が伝えていくことが必要だと感じます。
ご紹介したシナリオは、ちょっとハードルが高いな・・・と思われるかもしれません。中2のころの自分が、もし親に「話したいのはセックスのことなの」と切り出されたら、驚きやら恥ずかしさやら、かなりとまどっていたことでしょう・・・。
近年は、中高生向けにわかりやすく書かれた性教育の本や、医師や専門家監修のもと若い世代向けの「正しい性の知識」を伝えるサイトも複数ありますので、それらをうまく使うのもとても素敵なことだと思います。
しかしやっぱり・・・まず親が「正しい性の知識」を持ち、話をするのは恥ずかしいことじゃない!という心構えでいることが、子どもへの何よりのメッセージになるのではと感じます。一度に流ちょうに教えられなくても、「大事なことっぽいな・・・」とお子さんがつかみ取ってくれるものがあるのではないでしょうか。今回のシナリオが、その一歩を踏み出す一助になればと思います。