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高校生の自転車事故を減らすには 事故防止のための3つの対策

高校生が運転する自転車にヒヤッとさせられたことはありませんか?
専門家によると全国の自転車事故のうち、高校に入学したばかりの高校1年生の事故件数が最も多いそうです。
なぜ、高校1年生の事故が多いのか。
高校生の自転車事故を減らすにはどうしたらいいのか。
自転車の事故発生率が全国で最も高い静岡県で取材しました。

(NHK静岡 アナウンサー 高柳秀平)

高校生の事故が多い静岡県 なぜ?

「静岡は、自転車に乗っている学生やサラリーマンが本当に多いな…」

制服を着た5~6人の学生たちが一列になって自転車をこぐ様子を目にしながら、静岡に住んで3年目の私(取材者)は、日々そんなことを考えていました。

そこで全国の自転車に関するデータを調べていると…気になるものを見つけました。

事故件数は年々減少しているようですが、残念なことに、静岡県は自転車事故の発生率が全国1位。県内では令和2年、自転車事故で2934人が負傷。最も多いのは高校生で、全体の22.6%に上ります。

なぜ、静岡県では高校生の自転車事故がこれだけ起きてしまうのか? さっそく静岡県警察本部の長倉隆一警視に聞きました。

静岡県警察本部・長倉隆一警視
静岡県警 長倉隆一警視

「静岡県は1年を通して温暖で、雪が降ることもほとんどないため、1年を通して自転車に乗れます。さらに静岡市や浜松市は、駅を中心に平坦な道が続き、周囲に学校や企業が集まるコンパクトな町です。そのため、高校生も通学のために自転車に乗る機会が多く、事故の数が増えやすいんです」

“実は、自転車に慣れていない?” 高校生の通学事情

自転車事故にあいやすい高校生。何か事情を抱えているのかもしれないと思い、 静岡市内で自転車に乗る高校生に話を聞いてみることにしました。

しかし、高校生たちも急いでいるのか、なかなかペダルをこぐ足を止めてくれません。 信号待ちを見計らって声をかけ、なんとか8人の高校生に話を聞くことができました。 自転車通学で困っていることを聞いてみると…。

「自宅から学校まで、自転車で20分くらいかけて通っています。夏は暑くて大変だし、雨の日も自転車です。雨が降っていたらバスに乗る手もあるけれども、家を出る時間がだいぶ早くなって大変なので、自転車で通うことにしています。自転車に乗るときは傘を差せないので、雨具を着ていくしかないですね」

「部活によっては、ラケットが入った大きなバッグを背負って登校している同級生もいます。重い荷物を持ったまま自転車に乗るのは大変そうだなって思います」

「自転車通学を始めたのは、高校に入ってからです。中学までは家から学校まで近かったので歩いて通っていました。高校だと、自転車通学と電車通学の人が多いですかね」

高校生からは様々な声があがりました。その中で、8人全員に共通していたのは「自転車通学を始めたのは、高校生から」という点でした。

静岡県内の全体の統計を調べてみると…。

「自転車で通学しているこどもの割合」は、小中学生は5.8%。
しかし高校生になると、75.7%に急激に増加しています。
このデータをどう読み解けばいいのか、自転車事故の研究が専門の大阪市立大学大学院の吉田長裕さんに聞きました。

左:筆者 右:吉田長裕 准教授
大阪市立大学大学院工学研究科 吉田長裕 准教授

「高校生になって自転車で通学を始める人は全国的にも多く、実は“自転車通学に慣れていない高校生”がほとんどです。実際、全国のデータを見ても、高校に入学したばかりの1年生の事故件数が最も多くなっています。さらに、事故が一番多い場所は、自宅から2km以上離れた所=“通い慣れていない場所”です。つまり“慣れない場所”を“慣れない自転車”で走ることが、高校生が事故にあう要因の1つになっているといえます」

“実は、高校生は自転車通学に慣れていない”

確かに、私も自転車に乗れるようになったのは小学校でしたが、頻繁に利用するようになったのは高校生からでした。自宅近くの道は慣れていても、通い始めたばかりの高校の近くなどの道はまだよく分からない。でも、朝は遅刻しないよう急いで登校する。

こんな経験、みなさんにもあるのではないでしょうか?
“自転車通学に慣れていない”という高校生ならではの事情。
静岡県だけでなく、他の都道府県でも同じ傾向があるかもしれません。

事故率トップの静岡市 “事故が特に多い場所”に行ってみた!

では、具体的にどんな場所で事故が起きやすいのでしょうか?
静岡市の高校生の自転車通学率は85%。静岡県警の調査で特に事故が多い現場を、長倉隆一警視に案内してもらいました。

向かったのは、静岡市でも、特に自転車事故が特に多い通りです。

JR静岡駅北口から徒歩15分ほどの場所ですが、周辺500mほどの範囲で、5年間で15件以上の自転車事故が発生しています。ほとんどが交差点での出会いがしらの事故で、うち2件は高校生が関わる重傷事故(腰や足の骨折)でした。

上の写真は、通りにある交差点の1つです。信号機はありませんが、車道と歩道もしっかりと区切られています。左右の路地には「止まれ」の一時停止標識もありますし、極端に見通しが悪いというわけでもありません。

しかし長倉さんによると、事故を起こしやすいポイントがいくつかあるといいます。

自転車事故を防ぐ 3つの注意ポイント

① 広い歩道こそ要注意

長倉警視が最初に指摘したポイント、それは「広い歩道」です。

自転車は基本的に「車道」の左側を走るルールですが、歩道が広いと「歩道」を走ってしまう人が多いといいます。

上の図は、自転車が「車道」を走る場合と「歩道」を走る場合を比較しています。 青い矢印で示した、車道を走る自転車。左側から歩行者が飛び出してきたとしても、接触するまでに少し、距離があります。一方の赤い矢印。自転車が「歩道」を走ると、交差点の角で歩行者に接触してしまい、自転車も歩行者もお互いの存在に気付くのが遅れ、事故につながりやすくなります。さらに、自転車はスピードを落としきれないため、大けがにつながりやすいといいます。

静岡県警 長倉隆一警視

「歩道の幅が広い時ほど、自転車に乗る人には注意してほしいです。特に、交差点に進入する時、歩行者の間をすり抜ける様に走るのは危険です。中には、自転車の走行が認められている歩道もありますが、基本的には自転車は歩道ではなく車道の左側を走ることを覚えておいてください」

自転車事故を防ぐ 3つの注意ポイント

② 自転車の通行表示がある道路を走ろう!

次は、自動車との事故を防ぐためのポイントです。

長倉警視が指さしているのは、「自転車通行」と書かれた路面標示。矢羽根(やばね)ともいわれ、自転車が走るルートを示すものです。この表示があることで、自動車のドライバーは「このあたりは自転車が走る場所だ」と考え、自転車に注意を向けやすくなるといいます。

さらに、自転車が矢羽根に沿って通行すれば車道の左側を走ることになり、「自転車の列」が自然にできます。すると、自動車のドライバーにとっては意識を向ける方向が明確になり、気を付けやすくなるそうです。

一方、先ほど訪ねた交差点はどうでしょうか。自転車通行の路面標示はなく、信号機もないような“裏道”です。長倉警視は、裏道では自転車の流れが不規則になることで事故につながりやすいと話します。

静岡県警 長倉隆一警視

「高校生に限らず、大通りで信号に捕まることを嫌って、裏道を自転車で走る人もいます。しかし、自動車のドライバーにとっては、裏道は自転車がいろいろな方向から飛び出してくる可能性があって注意を向ける方向が定まらず、事故につながることもあります。 自転車に乗る際は、急ぐ気持ちも分かりますが、裏道ではなくて自転車通行の表示がある大通りを走るようにしてほしいです」

自転車事故を防ぐ 3つの注意ポイント

③ 一時停止の標識は、自転車も「止まる」

そして、事故を防ぐために最も重要なのにもかかわらず、なかなか守られていないルールが、交差点での「一時停止」です。

今回訪ねた交差点にも、一時停止の標識がありましたが、ほとんどの自転車が交差点にそのまま侵入していました。

そこで、交差点で一時停止する人と、しない人の数を私(取材者)が数えてみました。 (一時停止は、「ペダルをこぐ足を地面につけて止まること」と定義します)

平日の午前8時からの1時間。通勤や通学の時間帯を狙った調査の結果がこちらです。

一時停止した自転車の数は1時間に4人。(左側の計測器)

一方、一時停止せずにそのまま交差点に進入した自転車の数は192人。(右側の計測器) 一時停止した人の数は、たった2%でした。
(足を地面につかなくても歩くスピード程度に減速した人を含めると、およそ16%)

そして、1時間現場に立ち続けて感じたのは自転車のスピードの速さ。 自転車が歩行者や車とぶつかりそうになり、ヒヤッとした場面も4回ほどありました。 静岡県警では、一時停止の標識がある場合はもちろん、標識がない場合でも見通しの悪い交差点では一度止まって左右の安全確認をしてほしいと呼びかけています。

静岡県警 長倉隆一警視

「一時停止の標識は、すべての車両に適用されます。左の写真のように、「自転車も止まれ」と書いていなくても一時停止してください。一時停止の標識が連続する場合もあり面倒だなと思うことがあるかもしれませんが、一度の油断が大きな事故につながることがあります。一時停止をして左右の安全確認をする。このことを、標識が無い場合でも見通しの悪い交差点では徹底してほしいです」

静岡県に限らず、みなさんの街にも同じような道路や交差点があるのではないでしょうか。

あらためて、自転車に乗るうえで気を付けてほしい3つのポイントです。

自転車事故を防ぐ 3つの注意ポイント

① 広い歩道こそ、要注意
② 自転車の通行表示がある道路を走ろう
③ 一時停止の標識は、自転車も「止まる」

“楽しく交通ルールを考える” 静岡市の自転車教育

高校生の自転車事故を1件でも減らすため、静岡市では、様々な現場で、新たな自転車教育が始まっています。

静岡市清水区にある静岡サレジオ高等学校では、高校生2年生が小学3年生と5年生に「自転車の交通ルール」を教えるプログラムが来月予定されています。

以前からプレゼンテーション能力の向上に重点的に取り組んできたこの学校。
そこに静岡市が「小学生に教える側になることで、高校生にとっても学びが多いのではないか」とこのプログラムの実践を持ちかけました。

静岡市生活安心安全課

「高校生が小さな子供たちに教える側になるため、交通ルールを自分たちで調べることになります。プレゼンテーションに必要な情報を探し、子供たちに分かりやすく教える方法を考える過程で、交通ルールについて主体的に考えてくれるはずです。交通ルールを守るよう人から言われるだけでなく、どうすれば事故を防げるか自分たちで考えることでさらなる啓発につながると思います」

生徒たちは6つの班に分かれ、「自転車の交通ルールを小学生に教える」というテーマで 自由にプレゼンテーションを行います。

こちらは、あるグループが制作した資料の一部です。

小学生にも興味を持ってもらえるようクイズ形式にしたり、難しい漢字はひらがなに変換したりしています。

高校生たちは、インターネットなどで自転車の交通ルールについて調べ、数ある情報の中から「子供たちに必要だ」と思った情報をピックアップ。地域の交通安全協会のサポートも得ながら、資料を完成させました。

担任の先生によると、プレゼンテーションの準備を進める過程で、生徒たちの意識にも変化があったようです。

「今回調べ学習をしていく中で、いろいろな気づきもありました。自分が今まで気が付かなかった点で無意識のうちに周りの歩行者や車に迷惑をかけていたのかもしれないし、マナー違反をしていたのかもしれない。そう考えるととても怖いなと感じました」

「誤った情報を小学生に教えるわけにはいかないので、自分で自転車のルールを調べてみたのですが、意外と知らなかったものもあり良い機会になりました」

「小学生に教えるだけでなく、自分も正しい自転車の乗り方を見つめ直し、安全運転を心がけるきっかけとなりました。免許なしに誰でも簡単に乗れることができる自転車ですが、ルールを知らずに乗ってしまう人が多いと思います。それを理由に事故を起こさないよう、できることから私たち高校生も取り組んでいきたいと思います」

話題にすることが自転車事故防止の第一歩に

プレゼンテーションを行った高校生のように、自ら自転車事故について伝えたり、話し合ったりすることが、自転車の乗り方を理解する、大きなきっかけになると、今回の取材を通して、強く感じました。私自身も、多くの方と交通ルールについて議論を重ねることで、日ごろ自転車に乗るときに「この交差点は危ないな」とか「ここは自転車を降りて通った方がいいな」と思うことが増えました。これまでと変わらない道を通っているはずなのに、感じることや捉え方が少し変わったように思います。

新型コロナウイルスの影響もありますが、徐々に対面授業が増えてきた学校も多くなっています。高校生のみなさんには自転車に安全に乗ることで、学校生活を楽しく、より充実したものにしてほしいと思います。

そして、高校生以外の方にも、ご紹介した注意点やルールを少しでも日常生活に活かしていただければ幸いです。一緒に、自転車事故を減らしていきましょう!

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