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温室効果ガス削減目標『46%』は不十分? 若者が声を上げ続ける理由

『46%』ー 地球温暖化への対策が待ったなしの中、日本が新たに打ち出した温室効果ガスの削減目標です。従来の目標から大幅に引き上げ、菅総理大臣も「決して容易ではない」としています。
その一方で、気候変動への危機感を訴えてきた若者たちからは、「46%では不十分」だとしてさらなる引き上げを求める声が上がっています。一体なぜなのでしょうか?

<日本の新たな削減目標>
「2030年度に、温室効果ガスを2013年度から46パーセント削減することを目指す。
さらに、50パーセントの高みに向けて、挑戦を続ける」

(※従来の目標=2013年度に比べて26%削減)

「60%以上削減」を求める若者たち

4月22日午後、菅総理大臣が新たな削減目標を表明するのを前に、東京・霞ヶ関に高校生や大学生などおよそ30人があつまりました。地球温暖化が自分たちの将来、さらにその次の世代に及ぼす影響への危機感から、削減目標の大幅な引き上げを訴えるためです。

参加者の多くが掲げていたのが「60」や「62」という数字を書いたプラカードです。温室効果ガスの削減目標を「60%以上」に引き上げることを求めるものでした。

「62%」への引き上げを訴える山本さん

参加者のひとり高校3年生の山本大貴さんは、この4月から毎週金曜日に学校を休んで経済産業省前に立ち、目標の引き上げを訴えてきました。

山本大貴さん

「日本にはいままでたくさんCO2を排出してきた責任があります。不公平さだけを考えても日本の責任として62%削減が必要です。僕たち未来に生きる世代にも公平さと保ってほしいです」

“水と塩だけ”で

削減目標の引き上げを求めて、ハンガーストライキを行った人もいました。
環境活動家の小野りりあんさんたちは、4月19日から23日までの4日間、水と塩しか口にせず、気候危機を訴えてきました。
削減目標が発表された日は、経済産業省の前で削減目標を60%以上に引き上げるよう求めました。

左・小野りりあんさん 右・ハンガーストライキを一緒に企画したeriさん

ハンガーストライキという手段を選んだのは、ふだんは気候変動にそれほど興味がない人にも、関心を向けてもらえると考えたからです。

ハンガーストライキ中の小野さん(SNSより)

文字通り体を張って温暖化対策を訴える姿に、SNSでは「意識するきっかけになった」「一歩踏み出す勇気をもらえた」といったメッセージが寄せられていました。

小野りりあんさん

「今回、ハンガーストライキをしたことで、いままで行動していなかった人 たちが動きだす大事な一歩、二歩につながったことは本当にうれしく思います。」

「46%」の発表を聞いて…

削減目標を60%以上に引き上げることを求めてきた若者たち。「46%」という発表を聞いたときは、落胆を隠せなかったといいます。

山本大貴さん

「46%という低い数字にはとても驚きました。 世界では50%以上の削減目標を掲げていて、日本でも削減目標は50%に達するだろうと 思っていました。日本は先進国として責任を果たしていくべきです。」

小野りりあんさん

「削減目標が46%だと聞いたときは、悔しさと悲しさで泣いてしまいました。
自分たちの未来のためにがんばっている若い子たちに、希望を持てる数値目標にはならなかったからです。

若者たちが「60%以上」を求める理由とは?

なぜ「60%以上」の削減目標が必要なのか?
若者たちが強く訴えているのが、パリ協定が“努力目標”として掲げた「地球全体の気温上昇を産業革命前から1.5度以内に抑える」ことです。1.5度を超えて気温が上昇し続けると、温暖化は後戻りできない事態に陥るとも言われています。

では「1.5度以内に抑える」ためには、温室効果ガスをどのくらい削減すればいいのか。

今年3月、各国の気候変動対策を調査している海外の分析チーム「クライメート・アクション・トラッカー」が報告書を公表しました。その中で世界の国別で5番目に多く排出している日本には「2013年に比べて62%の削減が必要」だと分析しています。
若者たちの主張はこの数字が元になっていると言います。

この数字について、地球温暖化に詳しい国立環境研究所の江守正多さんに聞きました。

国立環境研究所 地球システム領域 副領域長 江守正多さん

いま世界中が「脱炭素化」を目指し始めていますが、どの国の目標もまだ「何としても気温上昇を1.5度に抑えよう」という数字には至っていません。
「1.5度以内」という目標との整合性を考えれば、若者たちが主張する「60%以上」という削減目標は意味のある数字です。若者たちは今の常識から考えるのではなく、常識そのものを変え、社会のあり方を見直すことを求めているのだと思います。

若者たちの主張に理解を示す江守さんですが、一方で日本の現状については、
厳しい見方をしています。

2013年度から2019年度までの6年間に削減された排出量を見ると、年2%強のペースにすぎません。今回政府が掲げた「2030年度に46%削減」を達成するためには、この先、毎年約3%のペースで減らす必要があるといいます。

江守正多さん

今回示された46%でも日本にとって大変な数字です。
削減の計画を積み上げている行政の担当者からすると極めて野心的数字なのです。
10年間でどれだけ社会経済や産業の構造転換ができるのかが勝負でしょう。
ただ世の中の常識は確実に変わってきており、さらなる常識の変化を後押しするために、
高い目標を掲げる若者たちの存在が非常に重要だと思います。

発表の翌日も・・・声を上げ続ける若者たち

新しい削減目標が発表された翌日、若者たちは総理大臣官邸の前に立ち、
改めて「60%以上」への引き上げを訴えました。

若者の政治参加をうながすメディア「NO YOUTH NO JAPAN」代表の能條桃子さんは、
あきらめずに政府に対して、声を上げ続けていきたいと話しました。

能條桃子さん

「引き続き62%への引き上げを求めていきます。
いまも新たな石炭発電所が作られていますが、できることから削減目標を考えるのではなく、
そもそもエネルギーのあり方を変えていかなければいけないと思います。
一緒に行動する人たちの輪を広げていくことや、政府への働きかけを強めていきたいと思います」

翌4月24日、毎週金曜日に気候変動対策を訴えてきた山本大貴さんは、
仲間とともに「Climate Live Japan」というオンラインの音楽イベントを開催しました。

音楽の力で「気候変動対策の必要性を多くの人に訴えよう」というもので、
10か月前から準備を重ねてきました。

右・山本大貴さん

イベントには、一青窈さんやermhoi(エルムホイ)さんなど、5組のアーティストが出演しました。アーティストたちは山本さんたちの思いに共感したといいます。

演奏するermhoiさん

演奏の間には、学生たちと、気候変動の専門家や企業担当者などによる対談が行われました。
地球温暖化の進行によって、台風や熱波など被害がますます深刻化していくことや、「高い」と言われてきた再生可能エネルギーの価格が、最近は下がってきていることなどが紹介されました。

専門家たちとのトークセッション

またSDGsに関心高いモデルの長谷川ミラさんや未来リナさんも登場し、ものを長く使うことや、買い物をするときには「本当に必要なのか」確認するなど、毎日の心がけを大事にしようと呼びかけました。

山本大貴さん

「イベントはとても楽しかったです。
今回のイベントでは、楽しみながら気候変動の問題を解決していくことを伝えられたのではないかと思います。
気候変動対策という言い方をするとハードルが高いと思いますが、これから新しい社会をどう作っていくかと考えれば、楽しいと思えると思います。 今後もできる限りアクションをやっていきたいです。」

今後も様々な形で気候変動対策を訴えていくという若者たち。次の目標としているのが11月にイギリスで開催される予定の「地球温暖化対策の国連の会議(COP26)」です。
世界の若者たちと連携し、日本の機運を高めたいと考えています。

『自分たちの未来のために、自分で考え行動する』

彼らの活動を今後も取材していきたいと思います。
(「地球のミライ」取材班 ディレクター 酒井利枝子)

みんなのコメント(1件)

はんどるん
50代 女性
2021年8月21日
環境問題は命に関わるので 日頃から関連記事に目を通しています
こちらの記事は基本的な事でしたので 具体的に踏み込んだ対策案が欲しいと思いました。
一番問題なのは メディアが危機迫る環境問題を取り上げない事だと思います。
 消費者の意識が変われば 選ぶ商品が変わる 企業も変わる。
日本が遅れているのは 環境問題に真っ先に取り組むべき報道が 機能していないからだと思います。