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「在宅ケアハラ」みなさんの声 専門家と考えます

5月16日に放送したクローズアップ現代「“密室”で横行するハラスメント 訪問在宅ケアからのSOS」 。放送後、この「みんなでプラス」のサイトや投稿フォームなどに様々な意見が寄せられました。みなさんの声を紹介しながら、番組に出演して頂いた介護アドバイザーの髙口光子さんと共に、より良い在宅ケアに向けたヒントを探ります。
(クローズアップ現代 取材班)

元気が出る介護研究所 所長 髙口光子さん
髙口光子さん/多数の介護施設で介護部長、デイサービスセンター長、在宅部長を歴任。全国からオファーを受けて介護人材の研修やコンサルティング業務を行う

切実な訴えに心が痛む 相談できる人が身近にいないのか!?

―放送後に寄せられた声に対して、全体的な印象はいかがでしょう?

髙口さん

放送後、私の元にも様々な意見がきました。特徴的だったのは、恐らく介護関係者と思われる方たちからのメールで、ご自身が受けたハラスメントについて詳細に、かなりの長文で書かれたものがとても多かったことです。
読んでいて心が痛みましたし、在宅ケアハラスメントは想像以上に深刻だと実感しました。一方で、そうした状況を自分一人で抱え込まず、相談できる人が近くにいないのかな!?と心配にも思いました。

―ハラスメントを受けた介護者が相談できていないとしたら理由は何でしょうか?

髙口さん

残念なことに介護業界では、報告・連絡・相談の基盤となる組織図の作成と公表を怠っている、または作成していても機能していない法人・事業所が一部にあります。そういった組織の一般職員は、誰に相談していいか分からないという状態におかれてしまっています。また組織図があっても、相談した管理者から「あなたの対応に問題があったのでは?」と否定されたりして、相談しても無駄だと考えてしまうケースも少なくないのではと思います。

―どうすればいいでしょう?

髙口さん

この件に関しては国や自治体が法人や事業所に対する指導や監督をきちんとするしかありません。一般職員の方が出来ることは、厚労省がHPで公表している「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」等を読み知識を得る他、できれば勇気を持って、所属する組織に改善を提言してほしいと思います。
一方で、介護者自身が「あえて相談しない」という選択をすることも少なくないようです。相談するという行為が「利用者のことを言いつけるようで気が引ける」または「自分の実力不足と判断されて評価が下がったらどうしよう」と考え、抱え込んでしまうというケースです。その多くは「ハラスメントとは何か」が分かっていないことで起こる誤解です。一義的には事業所がしっかりと研修を実施すべきですが、一般職員の方も、自ら情報を集めて基礎知識を学ぶ姿勢を持ってほしいと思います。

「現場はもう限界」という声に対して

みなさんからの声で多かったのは、番組やWEB記事「在宅ケアハラ」どうすれば防げるの?プロに聞いてみました - 医療と介護を考える - NHK みんなでプラスで「先進事例」として紹介した宮城県大崎市のケースや大阪府のケースに対して「介護者側の負担が非常に大きく難しい」というものでした。
以下に代表的な声を紹介します。

50代 女性

番組の中ではストレスをためこんでいる方に寄り添うことが紹介されていましたが、現実には、そこまで対応するには限界があります。現場の努力だけでなく、法整備やガイドラインも必要ではないでしょうか。

30代

番組内容は介護に携わる側のSOSではありませんか?

プロに聞いてみましたと言って、介護側がもっと頑張りましょうというような提案ばかりで正直おかしいと思いました。一人のベテランの輝かしい成功事例を紹介したり、ケアする側が考え方を変えましょうと言ってみたとて今困っている介護従事者の役に立つでしょうか?

40代 男性

介護/医療職も心理学を学びますが、皆がカウンセリングの専門家ではありません。成功事例として紹介されていたケースも、とても標準的な対応のようには見えませんでした。ケアハラ対応は標準を超えた、より高度なスキルだと感じます。

番組で紹介した事例は素晴らしいと思いますが、ケアハラの背景や対応は皆異なり、誰でも出来るわけではなく、対応にはより高度なスキルを身につける必要があるかと思われます。介護/医療に傾聴を超えたカウンセリングスキルを標準的スキルとして求め解決の糸口とするのは標準的な対応が想定された報酬体系の中で、標準超えの対応を現場に強いることに繋がるのではと危惧しました。

※各コメントは抜粋。必要に応じて句読点を補い常用漢字にする等、修正しました。

―みなさんからの声をどう受け止めますか?

髙口さん

まず当然ですが、暴力などのケースは言語道断で、現場の努力で対応する問題ではありません。警察に通報するなど毅然とした対応をとるべきです。また選択肢として契約を解除するという判断もあってしかるべきです。ただ、その場合、厚労省の通達や、各自治体からの指導では、その利用者の次のサービス提供を引き受けてくれる事業所を見つけてからでないと契約解除できないと示される場合もあります。また、前提として「その事象が契約解除という重大措置に見合うハラスメントなのか」という事実認定にも時間がかかります。


「それならば、もう少し現状を変える努力をしようか」と思ったときに、最初に出来ることは、自分の考え方を少し変えるか、ハラスメントする相手(=利用者やそのご家族)を変えるか、の2つだと思います。私としては、いきなり相手を変えることは難しいので、まずは自分自身の考え方を変えてみることにチャレンジした方がいいのではと思います。そういう意味では、まずは介護者側が頑張るしかないのかな、と私は思います。


番組や記事で紹介した事例は、結果だけをみると確かに大勢の人を巻き込む必要があるように見えます。ですので「とても無理だ」と思ってしまうのかも知れません。でも私が想像するに、いずれの事例も、最初から多くの人が参加するネットワークを作ろうと思ったのではなく、一人の介護者が相手に寄り添い、ハラスメントをしてしまう事情に思いをはせることから始まっているのだと思います。まずは気づく、そして次はそれを同僚や事業所の管理者に相談する、その結果として、波紋の様にハラスメントをする人の窮状を何とかしてあげたい、という人の輪が広がっていったのではないでしょうか。

―限られた時間の中で介護のメニューをこなすことに忙しく、“気づく”こと自体が難しいのではと想像しますが。

髙口さん

一つの方策としては2人など複数で訪問するということが有効かも知れません。余裕がなかったり、相手への苦手意識が邪魔をして、それまで見えなかった利用者やその家族の事情や本音が複数の目ならば気づくことができるかも知れません。本当は事業者や上司が一般職員と密にコミュニケーションをとり複数訪問という対策を提案してほしいと思いますが、それが期待できないのならば一般職員のほうから声をあげるべきだと私は思います。

女性や介護者への蔑視が原因と思われるハラスメントに対して

在宅ケアハラスメントの背景には、女性や介護者に対する蔑視があるのではないか、という声も寄せられました。以下に代表的なものを記します。

50代 女性

確かに個人の抱えるものからくるハラスメントもあるが、介護職の社会的地位の低さからくるハラスメントもかなり多いのが現状だと思う。ハラスメントとして捉えるケースの殆どがそちらだと感じている。(ハラスメントとして認定した場合、弊社はすみやかにケアを中止、その後ケアマネや訪問介護事業所の提供責任者などが再訪問して介護職員が一人で背負わないように注意をしているが、まだまだ声に出さない職員がいるのも把握しているのでどのように「介護職員」を支えていくのかが今後の課題だと思う)

60代 女性

介護保険が設立された時からヘルパーをしています。当初は、とても立場が弱く利用者様の召使いの様に時間いっぱい働かされたり、違う事を言ったり利用者や家族の気に入らない態度だったりすると、そのお宅に入れなくなるほどでした。少しずつ介護福祉士が優遇されてきましたが、今でも家族の息子さんから「出て行け!」と罵倒されたり、難病の利用者から意思が通じないと足蹴にされます。

50代 女性

ハラスメントはよくあることです。確かに、大変な状況でおられるのはわかりますが、そう簡単に支えられるものではありません。お金を払って仕事してもらってるから、何を言っても構わないではありません。利用する側も、サービスする側も対等であってほしい。

―ハラスメントの背後には介護者や女性蔑視があるのではないか、という声に対してどのようにお考えでしょうか?

髙口さん

残念ながら、みなさんの訴えにあるように介護者や女性への蔑視が原因のハラスメントは少なくありません。私も現場で何度も嫌な思いをしてきました。この問題は社会全体の価値観、空気感に負う部分も多いのではないかと、介護に携わる者として、女性として感じています。

―難しい問題ですが、対処法はあるのでしょうか?

髙口さん

まずは介護者と利用者の関係性が出来る前の最初が肝心だと思います。契約書・重要事項説明書を締結する時はもちろん、サービスを開始する際には再度、事業所の担当者が「介護者に対して差別やハラスメントと判断される言動が確認された場合にはサービスを中止する場合がある」と説明して、説明したという記録も残しましょう。介護を必要とされている方に毅然と伝えるのは気が進まないかも知れませんが「世知辛い話で本当に申し訳ないんですが、決まりになっているのでお伝えさせて頂きますね」など「言い方」でカバーできることはいくらでもあると思います。とにかく最初に毅然と説明をしておくことが、後々のためです。


実際にハラスメントを受けた時は、怖ければすぐに逃げる、言えるのであればその場で不快であることを告げて、その場を退去する、または上司にその場から報告しましょう。場合にもよりますが「不快である」と伝えただけでは「許容された」と勘違いする人もいます。できれば「行動で示す」ことが肝要です。その後は事業所の管理者も含めて複数で訪問し話し合いの場を持ちましょう。ケアマネージャーや地域包括支援センターへは全てを報告し、話し合いの場にも参加してもらうよう頼むことも必要です。一人で抱え込む、一人で対処するのは絶対にやめましょう。抱え込んで悪化することはあっても、解決することは絶対にありません。

―介護者の上司や管理者、事業所は、何をするべきでしょうか?

髙口さん

介護者の上司や管理者は、前述のような措置を組織で実践するということを、介護者・職員に、会議や研修を通して年に数回、繰り返して伝えることです。そうすることでハラスメントを受けた際、その介護者は正しい理解と安心感をもって「やめてください」と毅然と伝えることが出来ます。また以上のような環境整備は、利用者へのサービス提供を制限・拒否するためではなく、健全に継続するためのものである、ということを利用者、現場職員、管理者の共通認識にすることが大切です。

認知症が原因と考えられるハラスメントに対して

認知症の利用者からのハラスメントに苦慮する声も数多く寄せられました。
以下に代表的な声を記します。

60代 女性

ケアマネです。ハラスメントははっきりしたケア側の態度が必要です。しかし、その原因が認知症などである場合には利用者とケア者の間に入って本当に対応が難しいと感じます。ケア側の負の感情が本人に伝わり、より悪循環になります。

50代

介護現場で、認知症の方ですが、あまりにも言葉の暴言がひどく、若い介護者も声かけを優しくしても言葉がひどく、嫌になっています。現場では、介護者がした暴力などは、取り上げられますが、現場では、爪で傷つけられたり、いろいろあるのです。

50代 女性

訪問介護、ヘルパーは一人でアウェイに入ります。施設でも、利用者からの暴力を経験してきていますが、どなたも職員を守ってもらえませんでした。言葉も暴力も、認知症だから、といった理由で逆にこちらの対応が悪かったのではないかと疑われ、怒られました。施設で体格のよい男性利用者に飛ばされてテーブルに顔面から落ちて流血し前歯が欠けて脳しんとうを起こしても入浴介護を続けさせられました。自分はもう現場に戻る気はないです。もう二度とあんな思いはしたくないから。

―認知症の利用者からのハラスメントにはどう対処すればいいのでしょうか?

髙口さん

まず認知症の人の行為なのだから「恐怖・不快を感じても何もかも我慢すべき」というのは間違いです。認知症の人の思わぬ行為や言動で感じた驚きや不愉快な自分の気持ちを否定し、負の感情を放置したり、押さえ込むことを繰り返していくと、次第に利用者への嫌悪や恐怖になっていきます。自分の心の健康を害するだけでなく、逆方向への発露として介護者側から利用者への拒否的態度や暴力、いわゆる虐待につながる、というケースすらあるからです。


一方で認知症の人の特徴的な行動、いわゆる問題行動には必ず理由や動機があります。なぜなら認知機能は衰えていても、感情の部分は変わらず残っているからです。介護者が、認知症の利用者の行動や言動の意図を読み取ろうとせず理由も説明しないまま、一方的に「ダメダメ!やめて!」などと言って行動制限をするようなケアをすると、認知症の人は「拒絶された」「怒られた」という負の感情が募り、それがハラスメントな言動や行動に繋がってしまうということがあります。

―負の感情がわき上がってしまった後は、認知症の利用者とどう向き合えばいいのでしょうか?

髙口さん

まずは上司や管理者に報告して自分の負の感情を言葉にすることです。その一方で認知症の人と接した時の自分の感情の変化を学習し、驚きや不愉快から受容(=人間そういうこともあるよね)と思考(=なぜ、この人はこういうことをするのだろう)に展開できるように、心を整える介護技術をまずは身につけることです。

―介護者の上司や管理者、事業所がとるべきことは何でしょうか?

髙口さん

介護者が感じた負の感情を受け止めることですが、その前に介護者が相談や報告がしやすい環境を整えることが何より大切です。単純に話を聞くだけでは、介護者も自分は上司に愚痴ってばかりいると自己嫌悪に陥りかねません。組織としてチームとして介護者の負の感情を言葉にできる場、そしてそれをより良い介護に結びつけるシステム作りが必要です。といっても、難しいことをする必要はありません。定期的にチームで話し合うことを決めておけばいいのだと思います。


「どうしてその利用者はあんな言動や行動をするのだろうか」をみなで考え、「だったらこうしてあげたいね」とケア方針を決めて取り組む、こうした体勢をあらかじめ作っておくことが介護者の安心感につながります。

―最後に番組を視聴された人、声をよせてくれた人に伝えたいことはありますか?

髙口さん

私は、前回の放送の中で、ハラスメントが深刻化する理由の一つとして介護者側の問題を指摘しました。抱え込むことで事態が深刻化する、という言い方をしましたが、もっと率直に言わせてもらえば、一人で抱え込むことはプロ意識に欠ける行為だと私は考えます。


災害や事故の現場に派遣される消防士や自衛隊のみなさんは、人を助ける前にまずは自分の安全をしっかり確保することに取り組みますよね。それと同じで、利用者をサポートする介護者がつぶれてはいけないと私は思います。在宅介護の現場は基本的に一人で乗り込んでいくことが多いかも知れませんが、介護はチームプレーです。「上司や同僚に相談したら力不足と思われるかも知れない」そもそも「上司や同僚が相手にしてくれないかも知れない」。


それでもやはり言葉にする、報告する、相談する、これがプロの介護者の基本だと私は思います。介護は大変な仕事ですが、一方で利用者から家族から心から感謝されることもあるはずで、尊くやりがいのある仕事だと思います。ハラスメントに負けず、より良い在宅ケアに向けて共に頑張って行きましょう。

―貴重なお話ありがとうございました。

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みんなのコメント(1件)

体験談
Hi
50代 女性
2023年7月16日
私たち利用者は行政ハラスメントを受けている。あれはできない、これはできない、といわれて、何の助けにもならない。介護事業者の働きは、利用者とその家族にとって本当の助けになってないのが現状。ケアマネは協力者ではなく指導者。介護事業の働きについて苦情をいう所も明確でなく、盥回し。個々の事業者に言っても解決する問題ではない。利用者も家族も苦痛です。苦しくてストレスが溜まって悶々としてしまう。介護保険なんて無かった方が良かった。その方が割り切れた。