肺高血圧症 強い息切れがサイン 治療の進歩で上手につきあえる病気に

更新日

息切れがする・息苦しいせきがでる動悸(どうき)がする胸・心臓循環器・血管

肺高血圧症とは

肺動脈と右心室

肺高血圧症は、心臓から肺へ静脈血を送る肺動脈の先の細くなった部分が詰まる、狭くなるなどして血液の流れが悪くなり、肺動脈の血圧が上がってしまう病気です。いわゆる高血圧とは異なる病気で、全身の血圧が高くなくても発症することがあります。肺高血圧症になると、肺で血液に取り込まれる酸素が減り、全身をめぐる酸素が不足するため、息切れが起こります。病気が進むと心不全で死亡することもあります。かつては予後の悪い病気として知られていましたが、近年、治療が劇的に進歩したことで、多くの方が病気とうまくつきあって日常生活を送っています。

肺高血圧症の検査

肺高血圧症は、心臓のエコー検査で見つかることが多い病気です。肺動脈の血流が悪くなると心臓の右側に負荷がかかり肥大化するので、心臓のエコー検査で右側の心臓が肥大していたら肺高血圧症を疑います。さらに、エコー検査では肺動脈の圧力を推定することもできます。そのほかにも胸部エックス線検査や心電図検査、血液検査なども行います。確定診断は右心カテーテル検査になります。この検査では首や足の付け根などから体にカテーテルを入れて心臓まで伸ばし、肺動脈の血圧を直接測ります。

右心カテーテル検査

肺高血圧症の分類

肺高血圧症の分類

肺高血圧症は原因などによって5つに分けられます。このうち1群の肺動脈性肺高血圧症(PAH)と4群の慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は厚生労働省が定める指定難病ですが、この2つで特に治療の進歩がみられます。

肺動脈性肺高血圧症(PAH)とは

肉眼では見えないほど小さく細い肺動脈の先が、詰まったり、狭くなったりして肺高血圧症となっているタイプのものです。かつては若い女性に多いとされていましたが、近年は中高年の女性に多くみられるようになってきました。息切れのほかにもだるさや足のむくみなどの症状が出る場合もあります。更年期症状と似ているため、病気に気がつかない人も少なくありません。PAHの原因は、遺伝子の異常や膠原病(こうげんびょう)、先天性心疾患などがありますが、まだわかっていないことも多いのが現状です。

肺動脈性肺高血圧症(PAH)の治療

肺血管拡張薬の種類

肺動脈性肺高血圧症(PAH)の治療は、主に肺血管拡張薬を用いた薬物療法です。肺血管拡張薬は大きく3種類に分けられます。エンドセリン受容体拮抗薬は血管を収縮させる物質を働かないようにする薬。PDE5阻害薬とsGC刺激薬は血管を拡張させる物質を増やす薬、プロスタサイクリン製剤は血管を拡張させる因子を補充する薬です。作用がそれぞれ異なるので、2種類以上組み合わせて使用するとより効果が期待できます。ただし、これらの肺血管拡張薬はあくまでも病気の進行を抑えるものなので、病気自体を完全に治すことはできません。ですから、病気の早期発見が非常に大切です。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)とは

下肢でできた血栓(血の塊)が肺動脈に達し、血管をふさいで血流が悪くなり肺高血圧症になっているタイプです。急性のものはエコノミークラス症候群として知られていますが、CTEPHはその状態が慢性化して、血栓が溶けにくくなったり、詰まりが多くなったりしたものです。原因ははっきりと分かっていませんが、高齢者など体があまり動かせない人はCTEPHを発症しやすいと考えられています。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の治療

肺血管拡張薬の中の一部の薬や、血栓予防の抗凝固薬などを用いた薬物療法のほか、バルーン肺動脈形成術というカテーテル治療が行われます。

バルーン肺動脈形成術

バルーン肺動脈形成術は、首や脚の血管からカテーテルを入れて肺動脈まで伸ばし、血栓のあるところでカテーテルの先端にあるバルーンを膨らませます。そうすると血栓が血管の壁に押しつぶされるので血流が改善します。かつては体にメスを入れて肺動脈の血栓を直接取り除く手術しかありませんでしたが、血栓がある場所によっては手術の対象にならない患者さんもいますし、手術の対象になる場合でも患者さんの体の負担が大きいものでした。バルーン肺動脈形成術の登場により、体力のない高齢者なども含め治療の対象となる患者さんが増えています。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2023年10月 号に掲載されています。

きょうの健康テキスト
テキストのご案内
※品切れの際はご容赦ください。
購入をご希望の方は書店かNHK出版お客様注文センター
0570-000-321 まで
くわしくはこちら

この記事は以下の番組から作成しています

  • きょうの健康 放送
    なんとかしたい!息切れ「肺高血圧症 進化する治療」