人工呼吸器 どんな種類がある?どんなときに使う?

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COPD(慢性閉塞性肺疾患)誤えん性肺炎結核ALS(筋萎縮性側索硬化症)呼吸器

人工呼吸器を使用する場面

呼吸を支える人工呼吸器はさまざまな場面で使われます。

【入院中に一時的に使用する場合】

  • 新型コロナのような感染症
  • 誤えん性肺炎といった肺炎
  • 手術の後や、交通事故などでの治療

【在宅で継続的に使用する場合】

  • 喫煙などによる肺の炎症(COPD)
  • 結核の後遺症や肺を囲む骨の変形である胸郭変形
  • 呼吸などに必要な筋肉が動かなくなっていくALSなどの難病

この中でも数が多いのが、肺炎やCOPDなど老化に伴うケースです。
こうした場合、医師から、どのような人工呼吸器をどれくらい使うのか提案はありますが、最終的に判断するのは本人やその家族となってきます。そのため人工呼吸器とはどういったもので、どのような生活になるのか知っておくことが大切です。

呼吸を支える機械にはどのような種類があるのか

呼吸を支える機械の種類

「①鼻カニューラ」、「②マスク式」、「③気管挿管」、「④気管切開」
番号が大きいほど重症度が高いケースで使います。

①鼻カニューラ

正確には人工呼吸器ではありませんが、COPDや肺が十分にふくらまない間質性肺炎、肺がんが進行したケースなど、十分に酸素を取り入れることができない場合、本格的な人工呼吸器を使用する前に使います。
2つ突起がついていて、その先から酸素がでるようになっています。

鼻カニューラ

そこを鼻に入れて、管を耳にかけて使用します。
鼻に入れるだけなので患者さんの負担も少なく、会話や食事、入浴にも支障がありません。簡単に外すこともできます。

鼻カニューラを酸素濃縮器や酸素ボンベ

酸素が不足すると息切れ、不眠などのさまざまな症状が出てきます。
鼻カニューラを酸素濃縮器や酸素ボンベにつないで酸素を送りこむことで呼吸が楽になり、日常生活も快適に過ごすことができます。酸素ボンベはキャリーケース式の専用のバッグもあるので、人目を気にせず外出ができます。

②マスク式

マスク式
マスク式

鼻だけを覆うタイプや鼻と口を覆うタイプ、顔全体を覆うタイプもあります。マスクの先端のホースを人工呼吸器につなぎ、強制的に呼吸を行います。

マスク式の人工呼吸器

こちらは酸素を取り入れられないことに加え、二酸化炭素を吐き出すのが難しい患者さんに使用します。例えばCOPDが進行してくると呼吸する力が弱くなり、酸素不足になるだけではなく、二酸化炭素を十分吐ききれなくなり、体にたまってしまいます。すると頭が重い感じや昼間の眠気などの症状が出てきます。他にもALSや、結核の後遺症や、肺を囲む骨の変形があって老化に伴い筋力が低下した患者さんにも使われます。

鼻カニューラだけでは、そよ風を送る程度ですが、マスク式は、空気や酸素を強く送りこみます。吸ったり吐いたりする量そのものを増やすことで、二酸化炭素を吐かせます。

マスク式も付けたり外したりできるので、会話や食事は外して行うことができます。患者さんの状況によっては、日中は外し、夜だけつける人もいます。最近では機械の小型化、軽量化が進み、人工呼吸器を車いすなどに積んで外出を楽しむ患者さんもいます。

③気管挿管

気管挿管はCOPDや肺炎が重症化し、入院した際に行われます。鼻や口から長さ30cmほどのチューブをのどの先にまで挿入します。

気管挿管

挿管チューブをそのまま入れると、苦しかったり咳き込んだりしてしまうので、多くの場合、鎮静・鎮痛薬を投与します。声をだすための声帯より奥にチューブを入れるので、簡単に取り外しはできません。会話や食事もできません。

また気管挿管は長期間行っていると、感染症などのリスクが高まるため、2~4週間を目処にその後、どうするか検討します。
呼吸の機能が回復すれば、マスク式などで対応できるかもしれませんが、そうでなければ次の段階として「気管切開」を勧められることが多くあります。

④気管切開

のどぼとけの下を切って、チューブを挿入し、呼吸を助けます。確実な気道確保によって、呼吸できないリスクが減る上に、楽に呼吸ができるようになります。

気管切開

気管切開では、基本的に会話をすることは出来ませんが、声帯を傷つけてはいないので、外している時は、発声の訓練ができる場合もあります。
また、チューブが入っているのは気管であり、食道とは別の管なので、飲み込む機能に障害がなければ普通の食事を摂ることが可能です。飲み込む機能が低下している場合には、ミキサー食やペースト食を口から摂ったり、胃ろうを作りそちらから摂ることになります。

気管切開をした後、傷口や全身の状態が安定し、しっかりと栄養が摂れていれば自宅で過ごすことが可能です。切開部分がお湯につからないようにすれば入浴も可能です。

「一度、気管切開をしてしまうと、もう一生そのままなのか?」と心配される方もいると思いますが、肺炎などでは、呼吸の機能が回復したら気管切開の穴を塞ぐことが可能な場合もあります。
仮に一生そのままでも、それにより寿命に影響することはないとされていますし、移動手段を選べばさまざまなところに出かけることも可能です。

人工呼吸器の判断を迫られた時、何を大切にする?

人工呼吸器を使用かどうかの選択は、脳出血や事故などで一刻を争うときは救命的に医師の判断で取り付けることもありますが、COPDなど徐々に機能が落ちていく慢性疾患の場合は、本人の希望を最優先に、ご家族の考え、そして医師からの説明をもとに決めていきます。

特に「気管挿管」や「気管切開」ですと、手術が必要だったり、会話が難しくなったりと、選択するのに躊躇する場合もあります。そのため大切なのは、万が一に備えて、希望を周囲に伝えておくことです。気管切開となると、その後の生活のことや介護のことなど準備しないといけないことはたくさんあります。もともと肺の機能が弱っている人は、肺炎などで急速に悪化することもあるので、あらかじめご家族と話し合っておくことがより良い選択につながります。

「人工呼吸器」というと、ベッドで寝たきり、会話もできずに本人も周囲も辛いだけという、一昔前のイメージも残っていますが実際はそうではありません。より豊かな人生を支える補助具のひとつとしてとらえることが大切です。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2023年8月 号に掲載されています。

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    もしもの時に備えて「人工呼吸器」