【患者体験談】新型コロナ後遺症 抜け落ちる記憶

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脳・神経

新型コロナ後遺症 -私のチョイス-

見上げる男性

気づいたきっかけは上司からの一言

Aさん(男性・44歳)が、異変に気づいたのは、上司のある一言がきっかけでした。

「上司から『業務スピードが落ちたのではないか?』と言われて、仕事のパソコンを見たら同じような名前のファイルがいくつもあった。中身を見ると同じようなところで作業が止まっていて。あれ?何かおかしいのかなと。」

全く自覚がなかった記憶力の低下。症状は、単なる物忘れとは全く違うものでした。

「ところどころ記憶がなく、いつもならば少し時間が経てば思い出したりするのだが、そういうのが一切ない。さらに考え事をしていると徐々に霧みたいなモヤがかかってきて、最後は、真っ白な空間の中にいるかのような感じになった後に記憶がなくなる。」

Aさんを襲ったのは、「ブレインフォグ」という症状でした。

「ブレインフォグ」とは

頭がぼーっとしたりするなどの自覚症状が特徴的で、記憶障害の他に、集中力の低下や、精神的な疲労、不安などもあります。症状が重いと、日常生活や学校や職場への復帰が難しくなります。
ブレインフォグが起こる理由は、現時点では不明ですが、いくつかの仮説があります。その一つが「脳内の炎症」。脳の中に直接ウイルスが存在していなくても、感染によって脳の中に炎症を引き起こす物質が増えることで、発症するという説です。

外出中も自分がどこへ行こうとしているのかわからなくなる

Aさんの場合症状は突然現れるため、外出中も、今どこにいるのか、自分がどこへ行こうとしているのかさえ分からなくなることがあったといいます。

「辛かったですね。今後、どうなってしまうのか不安だったので夜眠れなかった。自分が精神的にダメになってしまうのではと思った。」

症状を自覚するようになってから1か月後、Aさんは新型コロナ後遺症専門の医療機関を受診。
7か月前に新型コロナに感染していたため、その後遺症が疑われました。

医療機関を受診している様子

しかし、ブレインフォグと症状が似ている「うつ病」や「アルツハイマー病」などの可能性もあるため、Aさんは問診や記憶力テスト、画像検査や認知機能テストを受けました。その結果、他の病気の可能性は排除され、Aさんのブレインフォグは、「新型コロナの後遺症」によるものと診断されました。

ブレインフォグの治療

医師から炎症を抑える働きがある「ステロイドののみ薬」が処方され、Aさんは、1日12錠を毎日のみ続けました。

新聞のコラムを書き写すリハビリ

同時に新聞のコラムを書き写すリハビリにも取り組みました。

書き写すという作業には、目で見た文字を一旦記憶して思い出しながら書く必要があります。書き写すことで、脳が情報を取り込む力を強化して記憶が定着しやすくなり、集中力を高めることもできると考えられています。さらに記憶力だけでなく認知力の改善も期待されます。

「やり始めの頃は、2文字くらいしか覚えられなかった。書くときも、考えていないと忘れてしまう。例えば、(書き写す)文章が、『僕は』だったら、『僕は』『僕は』『僕は』って、ずっと唱えながら書いていく。」

初めの頃は、書き写しをしていること自体忘れてしまうことがあったため、付箋に何をしているのかを書いてテーブルの上に貼らなければなりませんでした。

こうしたリハビリを毎日2週間続けたところ、効果が現れ始めました。覚えられる文字が7文字まで増えてきたのです。
そこで、医師の指示でAさんは薬の量を減らしました。しかし、急に覚えられる文字数が3文字に減り、ブレインフォグも再び現れました。Aさんの症状は再び悪化してしまったのです。

点滴の写真

そこで医師は、Aさんに新たな治療を提案しました。それが「ステロイドパルス療法」。短期間に大量のステロイドを点滴で投与する治療です。新型コロナ後遺症の記憶障害の治療では、確立された治療ではありません。それでも、この治療にかけてみることにしたAさん。入院し、3日間のステロイドパルス療法を受けました。

治療後、効果はすぐに現れました。覚えられる文字が7文字に戻ったのです。のみ薬を使わずにどれだけ記憶力が継続するか検証したところ、2週間たっても記憶力は保たれていました。

「ステロイドパルス療法はだいぶ効果があったんだと思いました。」

ステロイドパルス療法を受けてから7か月。今はのみ薬のステロイドを使わなくても、記憶力が低下することはなくなりました。

「やっぱり嬉しかった。周りからも、話し方と目つきが以前とは違うと言われた。私の中では、ステロイドパルス療法をチョイスして正解だったと思っています。」

この記事は以下の番組から作成しています

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