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失礼ながらバイデン大統領は大丈夫かな?と思っていたけど・・

拉致被害者家族 市川健一さんが語る面会の舞台裏
  • 2022年06月21日

ことし5月、日本を訪れたバイデン大統領と北朝鮮による拉致被害者家族が面会しました。43年前、いまの日置市の吹上浜で拉致された、市川修一さんの兄の健一さんもその1人です。実は不安を感じていたというバイデン大統領と面会して何を感じたのか。そしていま国際情勢が混迷を深めるなか何を思うのか。市川さんに話を聞きました。

(鹿児島局記者 西崎奈央)

5人の被害者帰国から20年

東京・港区の迎賓館で、他の拉致被害者の家族とともにアメリカのバイデン大統領と面会した市川健一さん(77)。弟、修一さんの写真を手に、引き裂かれたままの苦悩と、拉致問題の早期解決を「大統領お力をお貸しください」という言葉で直接訴えました。

撮影 内閣広報室

北朝鮮が拉致を認め5人が帰国してから20年。ここ数年は、特に焦りが募っているといいます。

拉致被害者家族 市川健一さん
「実際自分が、そういう子ども、兄弟が突然いなくなったときのことを考えてみてくださいよ。ものすごい悩み、苦しみ、すごいですよ。生きているのか 死んでいるのかという、それさえ分からないんだから」

20年前、北朝鮮から、修一さんを含む8人は死亡したと伝えられましたが、市川さんは無事に戻ってくると信じ続けてきました。当時、修一さんの死亡を告げられた市川さんは「死亡というのを出せば家族はこれ以上追及しないという思いも(北朝鮮側に)あるんじゃないですか。そうはいきません」と反発していました。

しかしこの間、家族の高齢化が進み、被害者との再会を果たせないまま亡くなるケースが相次いでいます。市川さんの父、平さんと母のトミさんも修一さんに会えないまま亡くなっています。

そして、市川さんがこの20年で最も期待したというトランプ大統領も、大きな進展がないまま退陣。バイデン大統領は拉致問題について未知数な部分が多く、不安を感じていたといいます。

市川さん

「トランプさんはほらもう自分の思った通りぱぱっと動かれる人ですよね。バイデンさんは大丈夫かなと。失礼だけど」

バイデン大統領『気持ち分かる』

面会当日、バイデン大統領は家族1人1人のもとに歩み寄りました。そして、拉致被害者の横田めぐみさんの母親、早紀江さんにはひざまずいて話しかけました。早くに亡くなった自分の息子の写真を取り出し、「気持ちは分かる」と共感を示したといいます。

撮影 内閣広報室
市川さん

「司会の進行通りに行かずに、家族にね、そばに寄ろう、寄ろうとしてお話を聞こう、触れようというのがありありと見えた。私も訴えるとき涙声で訴えたし、出て行かれるときに言ったことは『私は嘘は言わないからね』というようなことで言われたから、この拉致問題の解決のために力を貸してくださるんじゃないかな」

撮影:内閣広報室

バイデン大統領は家族たちと面会後、「話を聞いて胸が張り裂ける思いだ。北朝鮮に対し、この歴史的な過ちを正し、いまだ行方がわかっていない12人の日本人について全容を明らかにするよう求める」と感じた思いを、ツイッターで表明しました。

ウクライナでの人権侵害重ねる思い

拉致問題は深刻な人権侵害だと、市川さんは以前から繰り返し訴え続けてきました。
いま、世界中の人がそうした人権侵害をまざまざと見せつけられる事態が起きています。

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻です。一般市民が恣意的に拘束され、拉致監禁されるといった深刻な事態が続いています。市川さんはウクライナの人たちの苦しみを自身と重ね合わせて、人権を侵害する「国家」の非道な行いに怒りを募らせています。

市川さん

「人の命を軽視することは絶対許されない。拉致問題も日本で楽しく未来に向かって羽ばたいている若い人たちを、日本に入ってきて、さらっていく。主権侵害でもあり、人権侵害ですよね。絶対許されるべきじゃないんですよ。
これをいま(ロシアや北朝鮮は)平気でやっている。拉致事件というのは残虐非道ですよね。政治的にも思想的にも関わりない人たちをね、連れ去っていく。
とんでもないです。連れ去られた人たちも地獄ですが、残された家族も地獄ですよね。私達はその地獄が40数年続いているんですよ

取材を終えて

市川健一さんへの取材を担当してからおよそ2年が経ちますが、その間、新型コロナウイルスにより思うように活動ができず、「時間だけが過ぎていく」と焦りを募らせているのを近くで見続けてきました。

それだけに、今回の面会は市川さんにとって勇気づけられるものになったと感じます。今回の面会後、東京で市川さんに直接お話をお伺いしましたが、ここ数年で一番明るい表情をみせ、期待感が伝わってきました。

一方で、ミサイル実験を繰り返す北朝鮮など、国際情勢がますます厳しさを増すなかで、拉致問題が置き去りになっているのではないかと市川さんは懸念しています。今後、日米両政府、そして国際社会が協力して北朝鮮に圧力をかけ続け、メッセージを送り続けることで、問題解決の糸口がつかめることを願っています。

  • 西崎奈央

    NHK鹿児島放送局 記者

    西崎奈央

    2019年入局。警察担当を経て薩摩川内支局。調査報道や国際問題などを担当

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