第32回「日本賞」<2005年>最優秀番組

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番組部門 一般教養の部
文部科学大臣賞
番組名:NHKスペシャル“大地の子”を育てて 中日友好楼の日々
機関名:日本放送協会(NHK)
国名:日本
番組部門 一般教養の部
番組内容
 中国東北部の町、長春市の一角に、中日友好楼と名付けられたアパートがある。ここで暮らしているのは、戦争の末期、街に捨てられていた日本人幼児の命を救い育ててきた養父母たち。中日友好楼はそんな養父母への感謝を示したいと1990年、日本の篤志家が寄付をし、その資金で建てられたものだ。様々な困難を抱えながらも、「子供には何の罪もない」と‘敵国’だった日本の子を懸命に育てた養父母たち。そんな育ての親を心から敬愛してきた孤児たち。その多くが肉親以上の強い絆をもった家族として暮らしてきた。しかし、孤児たちの日本への帰国、永住事業が始まると、家族の運命は大きく変わっていく。
 いずれは養父母も招き寄せようと、豊かな日本への帰国を決意したものの、既に中高年になった孤児に言葉の壁は厚く、働き口もなく、永住帰国者の6割もの人が生活保護での苦しい生活を余儀なくされている。一方、年老いてひとり取り残された養父母たちも、支えとなる筈の愛する子を失って、孤独と不安で寂しい日々を送っている。
 かつて戦争に、そして今また時代の波に翻弄される養父母と孤児たち。中日友好楼を舞台に、懸命に生きていこうとする人々の優しさと悲しさ、そして厳しい現実をみつめた。
審査講評
 この勇気にあふれた美しい番組によって、これまで明らかではなかった戦争の問題や影響が、世代を超えて現在まで継続していることがわかります。
 この物語は、戦争と平和の境で、離ればなれになった人たちの話を、シンプルかつ具体的に描写し、現在、世界各地で起こっている戦争の問題、悪化している21世紀の家族状況の例証となっています。
 戦争の影響、家族の関わりあい、貧困、誠実、正しい行動、そして、予測することの難しさ・・・1つの決断が予期せぬ結果、日中政府の入国者方針の間で、悲惨なジレンマを招いてしまったこと・・・この番組を見ることにより、私たちは、戦争が後世に与える影響を考える機会を持つことができます。
 審査委員は、この作品は、静かに、そして非常に力強く、見るものに語りかけている、と感じました。カメラは、控えめでありながら、物語を感動的に、公正に、しかも、誠実にとらえています。
制作者コメント
佐藤稔彦
ディレクター


 NHKスペシャル「大地の子を育てて」の取材は、日本に帰国した残留孤児の方々にお話を伺う事からはじまり、その後、中国の養父母や“中国に留まった孤児たち”へと取材を深めていきました。お一人一人が語る人生。それはまさに波乱に富んだものでした。戦争の中での運命の出会い、戦後の過酷な暮らし、養父母からの愛情、文化大革命の混乱。時間を忘れ聞き入った事をよく覚えています。しかし、取材の帰り道でいつも私の心に浮かんだのは、「家族とはいったい何か」という平凡でシンプルな問いでした。残留孤児と養父母。互いの言葉の奥底に流れるのは、血の繋がりや国境を超えた深い家族への愛でした。そして、「離れた家族への思い」や「老いた親の面倒を誰がみるのか」といった彼らが抱える悩みは、私自身が抱える悩みでもありました。
 中国と日本、二つの国と歴史の間で揺れながら、守り続けられた「家族の絆」を描きたい。これが番組が目指したものであり、それを感じて頂けたら、制作者としてこれに勝る喜びはありません。
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