第31回「日本賞」<2004年>最優秀番組

優秀番組紹介 エントリーリスト
番組部門 一般教養の部
文部科学大臣賞
番組名:体験リポート 飢餓との闘い
機関名:インサイトニューステレビジョン&CNN
国名:アメリカ&イギリス

番組部門 一般教養の部
番組内容
 アフリカのシェラレオネの貧しい家庭で育ったが、最近10年はロンドンで豊かな食事を楽しんでいるという記者。彼が、食料を持たずに、5週間にわたってエチオピアの農村で暮らし、慢性的な飢餓を自ら体験しながら取材をする。村には水道も電気もない。インジェラ(薄く焼いたパンのようなもの)と豆のソース、野生のキャベツが日常の食べ物。村人は巨体のこの記者をおそれ、近づこうとしなかったが、次第に心を通わせるようになる。村の子どもが持ってきた花束は、記者を歓迎するためであると同時に、食用でもあった。
  わずかな食料しかないという状況下でも、村人は食べ物を記者と分かち合う。途中、35キロの道のりを歩く時、力つきて取材チームの車に乗せてもらったり、“ずる”して取材チームから食料をもらったことを告白したり、というシーンもある。 村人とともに飢餓を体験するこの取材で、記者の体重は18キロも減った。
審査講評
 一方で飽食の国があり、他方に飢餓に悩む国がある―――この事実は、緊急の課題であるにもかかわらず、最も理解されていない問題の1つである。過去20年間、メディアは、飢餓の悲惨さをこれでもかこれでもかと報道してきたが、それによって、視聴者の間に“同情疲れ”とでもいうべき現象が起きてはいないだろうか。
  このドキュメンタリーは、“リアリティーショー”の手法を採る。記者はエチオピアの村で、食べ物を見つけるのに闘わなければならないという暮らしを直接体験する。記者のキャラクターとコミュニケーション力が、これまでの飢餓ドキュメンタリーの類型から脱することを可能にさせ、飢餓の中で人間が生きるとはどういうことなのかを、的確に、説得力をもって描くことを可能にした。
 この番組はまた、飢餓取材における取材者側のモラルについて、よく認識した上で作られている。“潤沢な食料を持つ取材班が飢餓に苦しむ村を取材する”という矛盾した状況に、誠実に向かい合っているのである。
  この番組は、飢餓という問題に新しい視点を提供した。視聴者の行動を促すとともに、その心に長く留まることだろう。
制作者コメント
ロン・マックラー
エグゼクティブプロデューサー

 「飢餓との闘い」は、慢性的な飢餓の問題について、多くの視聴者をひき込むような何か新しい方法を見つけたいと願う制作者たちによって作られました。番組のリポーターであり、立案者でもあるソリウス・サムラ氏は、彼自身が飢餓を体験したことがあります。だからこそ、この問題をぜひ番組化したいという思い入れがありました。サムラ氏は、飢餓に苦しんでいる人たちと、多くのテレビ視聴者とを、きちんと結びつけたいと望みました。そして、番組のエグゼクティブプロデューサーである私と意見の一致を見たのです。
 今から20年前、イギリスBBCで放送記者をしていた私は、「1984年エチオピア飢餓」の報道について、深く考えさせられました。私を悩ませたのは、この危機を報道するテレビ番組に登場する何万人もの人が“匿名”であることでした。飢餓の中で生きる1人1人にはそれぞれに語るべき話があるのに、報道番組の中では、一般性に埋没してしまっていることを強く感じたのです。「飢餓に苦しむ何千人もの人は、いわばアフリカの『犠牲者』の象徴です。」という番組の締めくくり方は、私が考える限り、真実を正しく伝えるものではありませんでした。その人々の多くは、生まれながらにして『強く生き抜く人』であり、何世代にもわたって厳しい環境を生きぬくために鍛え上げられてきた人々だったからです。
 私とサムラ氏の2人は、明確な使命を心に抱きながら、この番組を制作しました。その使命とは ---- 極端に厳しい状況下で暮らしている“実際の人たち”のことを正しく説明しよう、ということです。この人たちは一般化された『犠牲者』ではなく、『強く生き抜く人たち』であることを。
戻る

TOP