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知床観光の安全対策 体制構築には課題も

斜里町の協議会が最終報告
  • 2024年4月25日

おととし、知床半島沖で観光船が沈没し、20人が死亡、6人が行方不明となっている事故から、4月23日で2年となりました。この事故では、悪天候により他社が欠航する中、事故を起こした会社が独断で出航。どのようにしてブレーキをかけるかが課題となりました。
そこで地元の斜里町は、観光協会や小型観光船事業者、ガイド団体、それに知床財団と協議会をつくって、安全体制の強化を検討し、最終報告書を発表しました。この報告書で協議会が最も重視したのが、体験型観光の実施判断を誰がどのように行うか。これを巡って議論は紛糾し、地域が一枚岩となって取り組むことの課題も見えてきました。(北見放送局 新島俊輝)

目指したのは“知床モデル”

おととし8月から1年半にわたって、知床の安全対策について検討してきた協議会。
ことし2月には、体験型観光ごとのリスクを確認するために、現場視察を行いました。

協議会が目指したのは、先進的なリスクマネジメントを行う「知床モデル」の構築です。
すべての体験型観光の実施の可否を、町などでつくる事務局が一括して判断する、全国でも類を見ないシステムです。視察などを経て、協議会は3月、最終報告書の原案を、参加者に提示しました。

実施判断は誰が?考え方の違いが鮮明に

最終報告書における肝となったのは、体験型観光の実施について、気象警報を基準に判断すること。
警報が出された場合、リスクが最も高い海などでは、事務局が観光を実施しないよう、強く求めるとしました。
また、知床五湖やカムイワッカの滝などは、悪天候の際には立ち入りを見合わせるよう、事務局が強く求めるとしています。
事務局の要請に強制力はありませんが、警報が出ている中で観光を実施する場合は、事業者がその理由を利用者に提示することも盛り込みました。

協議会の座長 北海道大学大学院の石黒侑介准教授
「法律に基づいて禁止することはできないので、それぞれの責任で、今までの取り組みやリスクについてしっかりと消費者に開示することが前提。その上で『事務局は実施することは妨げませんよ』と解釈していただくのが一番いい」

こうした一律の判断に難色を示したのは、ガイドたちの多くが加盟する団体です。
団体は、加盟する事業者それぞれが、参加者の年代やガイド自身の技量などを考慮して、実施の判断を行っていることを説明。
そうした個別の事情を考慮せず、気象警報という基準のみで判断すると、逆に安全性が脅かされるとして、慎重に検討するよう要望しました。

知床ガイド協議会 岩山直さん
「小さい子どもを抱えていたり、若い人のグループだったり、参加者の年代などによってリスクは変わってきます。そこを一緒にして実施の判断をするのは難しいと思います。同じ場所でも、コースによって条件は変わります」

統一した安全基準の構築を目指す町などと、一律に判断することの危うさを主張するガイド団体。
両者の折り合いはなかなかつきませんでした。

半月遅れの最終報告。ガイドに寄り添うも…

4月19日。当初の予定より半月以上遅れて、最終報告書が公表されました。

議論を続けてきた、ツアー実施の判断については「上意下達の基準設定を極力避ける」とし、事業者の自主性を尊重することを新たに明記。
ガイド団体に配慮しましたが、どのように実施を判断して安全性を確保していくか、詳細はまとまりませんでした。

こうした状況を受け、知床のガイドの8割が加盟する知床ガイド協議会は、「具体的な方向性がわからない」として、現時点での参画は見送ることを決定。
町などは、引き続きガイド団体に参画を求めていく考えを示しました。

協議会の座長 北海道大学大学院の石黒侑介准教授
「新たな取り組みを始める場合、それに対してさまざまな考え方があるということは自然なことだと思います。なので、共通項を見つけるために、もう少し議論が必要なのだと思います。知床ガイド協議会などにも参加していただく枠組みにしていきたいと思っていますし、なってほしいと思っています」

取材後記

一連の会議を経る中で浮き彫りとなった、町とガイドの考え方の違い。
安全を重視する思いは共通していますが、その手段を巡ってすれ違った形です。
ただ実効性を高めるためには、ガイド団体の協力は不可欠。協力を得るには、事務局が具体案を示すことが求められますが、それには時間がかかることが見込まれています。
当初は6月に始める予定だった今回の取り組みですが、こうした状況を受け、具体的な開始時期などは見通せないままとなっています。

観光船事故から2年。
地域全体で取り組む「知床モデル」を早く構築し、信頼回復への道のりを歩んでいけるか、引き続き取材を継続してきたいと思います。

知床観光船事故から2年~天気の面から教訓を~

  • 新島俊輝

    北見局記者

    新島俊輝

    2020年入局。 初任地の北見放送局で、北見市政やスポーツのほか、地域交通を担当。 知床観光船事故では発生当初から取材にあたる。

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