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災害時に頼られる地域密着のラジオ局に 苫小牧

  • 2023年9月12日

9月1日、苫小牧市で市民が新たなラジオ局を立ち上げました。きっかけとなったのは5年前の胆振東部地震。44人が犠牲となり、大規模な停電「ブラックアウト」も起きるなど、大きな混乱となりました。このときの思いを胸に、災害時に地域にきめ細かな情報を発信しようとしています。

5年前の教訓を胸に

二瓶竜紀さん 開局のあいさつ 
「苫小牧とその近郊の今を伝えるFMとまこまい。ようやくスタートできました。これは苫小牧市民のみなさんが作ったラジオ局だと私は感じています」

今年(2023年)9月1日に放送を始めた「FMとまこまい」(周波数83.7MHz)。代表の二瓶竜紀さんは開局のあいさつでリスナーに語りかけました。二瓶さんがラジオ局の必要性を感じたのは5年前の胆振東部地震でした。苫小牧市では震度5強の揺れを観測し、大規模な停電が続きました。テレビを見ることができず、SNSでは「再び大きな地震がくる」とか「市内で大規模な火災が起こっている」などの根拠のない間違った情報も飛び交いました。

2018年9月6日 地震直後の苫小牧市

不安を募らせた市民が頼ったのがラジオでした。しかし当時、苫小牧市には地域密着のラジオ局がなく、きめ細かい情報まで得ることはできませんでした。高台にある避難所には駐車場に入りきれないくらいの車が押し寄せるなど、混乱が生じました。

開局に向けては苦労の連続

もともと建設会社に勤め、災害復旧に関わっていた二瓶さん。ラジオからの詳細な地域情報に助けられた経験がありました。

二瓶竜紀さん
「避難所の情報、炊き出しの情報、道路の状況、断水状況、そういったものを地域に密着した形で発信して、みなさんの情報のお役に非常に立っていたと感じました。災害時にラジオ放送をしているっていうのを見た時に、地域のラジオ局っていうのは意義のあるものだと感じました」

胆振東部地震の教訓を踏まえ、いつ起こるか分からない災害に備えて苫小牧に地域密着のラジオ局を作ろうと、二瓶さんは地震の翌年、仲間たちと開局を目指し団体を立ち上げました。

ただ、開局に向けては苦労の連続でした。まず、二瓶さんも仲間も放送の経験はありませんでした。道内のラジオ局で機材の使い方を学ぶなど準備を始めましたが、新型コロナウイルスの感染拡大でなかなか思うように進まない状況が続きました。

最も大きな課題となったのが資金集めです。二瓶さんは、今年2月、コミュニティーラジオ局に専念するため、長年勤めていた会社を辞めました。コロナ対策が緩和された5月以降は、地元を回ってラジオ局の必要性を訴え、協力を呼びかけました。その結果、出資してくれたり、広告枠を買ってくれたりした企業や団体は100を超えました。また、多くの市民の協力も得て、140人もの市民パーソナリティーも確保しました。

さらに、開局が近づくと、二瓶さんは仲間と一緒に地域のイベントにもたびたび顔を出し、ラジオ局の知名度の向上を図りました。できるだけ多くの人にラジオについて知ってもらうことで、災害時に役立ててもらうとともに、市民から各地域の情報を寄せてもらおうとしています。

二瓶竜紀さん
「ここの道路が通れなくて回り道だよとか、お子さんを預けられる場所があるよだとか、ラジオは非常にきめ細かな情報を伝える必要なメディアです。自分たちの街にいつ起こるか分からない災害。そういった部分でやっぱりラジオ局というのが街に必要です。市民のみなさんの命を守れるようなラジオ局になっていきたいと思います」

いよいよ始動 災害時の情報発信を

ようやく迎えた開局の日。初日は苫小牧市の防災担当者や専門家を招いて防災に関する特別番組を放送し、災害時の情報発信の課題やコミュティーラジオ局の役割について伝えました。

苫小牧市危機管理室 前田正志室長
「苫小牧市の防災の中でも大きな課題というのは情報だと思っています。われわれが持っている情報を市民の方にどう渡すことができるかです」

市民パーソナリティー
「ラジオが人の声というぬくもりのあるもので、不安を少しでも軽くすることができればいい」

放送を聞いた市民からは早速期待の声が寄せられました。

二瓶さん
「聞いた人から防災に関して携わっていく意気込みや姿勢が見えたとのメッセージをもらい、責任をひしひしと感じています。有事の際には防災のラジオとして役立つようなラジオ局にしていきたいです」

FMとまこまいでは、災害で停電が起こっても放送を続けられるように蓄電器や自家発電機を準備しています。また、苫小牧市とは情報を提供してもらう協定を結びました。二瓶さんは協定を結ぶ自治体や機関、団体を増やし、地域の役に立つきめ細かい情報を発信できる体制作りを進めていくと意気込みを話していました。今後、災害に備えてもらうために、地域の防災に関するコンテンツを作成し、放送していく予定だということです。

取材後記

胆振東部地震の際、停電でテレビを見られなかった人が多くいたことは、テレビカメラマンの私にとって無力さを感じる事実でした。「命を守りたい」、「役に立つ情報を発信したい」と、二瓶さんと同じ気持ちで私も日々取材をしています。個々では乗り越えられないこともあるかと思いますが、同じ思いを持つ人たちが連携することで、さらにできることが見つかるのではないかとも感じています。今後、さまざまな機関や団体とどのように力を合わせ、防災、減災につなげていくことができるのか、模索を続けていこうと思います。

2023年9月12日

胆振東部地震から5年 特設サイト 
あの日の記憶や教訓を忘れずに、次の大災害に備えるため、被災地の現状や減災に向けた新たな取り組みなどについてお伝えします

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