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中国輸入停止から半年 国内外でホタテの販路模索

  • 2024年2月22日

東京電力福島第一原発にたまる処理水の海への放出を受け、 中国が日本産水産物の輸入を停止してから半年。 国内のホタテの一大産地・北海道では、最大の売り先を失ったままです。 北海道南部に位置する噴火湾沿いでは、まもなくホタテの水揚げが最盛期を迎えます。

「中国の輸入停止措置が続く中、水揚げされるホタテをどうするのか?」

 水産加工会社は、いま国内外で販路拡大の模索を続けています。 

「北海道は大丈夫」考え甘かった

北海道南部、ホタテの産地・噴火湾に面する八雲町。
ここに本社を置く水産加工会社では、グループ会社も含め全体で年間およそ2万トンのホタテを取り扱ってきました。
このうち7割ほどを中国に輸出。中国にも関連会社を置き、会社を紹介する中国語のパンフレットもつくるなど、販売に力を入れてきました。

「きっと北海道は大丈夫だと甘く考えていた。
当時は中国なしでは考えられず、どこにどうすればいいのか全く頭に浮かばなかった」と、長谷川博之社長は、輸入停止になったばかりのころを振り返ります。

農林水産省によりますと、中国の輸入停止措置が始まる前の2022年に、日本から海外へ輸出されていた水産物のうち、およそ2割にあたる870億円あまりが中国向けでした。
このうち半数以上の467億円あまりを占めていたのがホタテで、実にその9割以上が北海道から輸出されていました。

中国に主に輸出されていたのは、貝殻がついたまま冷凍されたホタテ。
人手が少なくても、一気に大量に冷凍して出荷することができるため、貝柱やボイルホタテなどと比べて手間がかかりません。
しかし、こうしたホタテがいま行き場を失い、販路や加工先の開拓が大きな課題となっているのです。

最大市場は中国 噴火湾はこれからピーク

水産加工会社や地元の漁協などによると、主にこれまで中国に輸出されていたのは、中国国内で貝柱を大きくする加工をしてアメリカに輸出する「オホーツク海側のホタテ」とほとんどが中国国内で消費される卵がついた「噴火湾沿いのホタテ」でした。

このうち噴火湾では、今シーズンの水揚げが、これから最盛期を迎えようとしています。

イチヤママル長谷川水産 長谷川博之 社長
噴火湾ではこれから水揚げのエンジンがかかってくるが、それをどう加工して、どんな形で販売すればいいかは、中国なくしてはまだ手探りです。できれば半分から7割くらいを中国に代わる新しいところに販売できればと考えています。そのようにして進んでいく以外ないのかなと感じています

インドネシアへ活路

こうしたなか、取引先として注目している国が、親日国とも言われ、水産資源も豊富な東南アジアのインドネシアです。
目を向けた理由の1つは、会社で働きながら技術を学ぶ多くの技能実習生がインドネシア出身だったことでした。

社長や社員が複数回、現地に足を運び、首都ジャカルタから1時間半ほどの場所にある水産加工会社と商談を進めています。

インドネシア側の会社はこれまで魚を中心に取り扱っていて、ホタテは初めて。
すでに北海道の会社から貝殻つきの冷凍ホタテおよそ150トンをインドネシアの会社に輸出していて、今後、ホタテ加工のための道具やノウハウの提供、販路開拓の手助けなども含め協力しながら進めたいとしています。

他の国へリスクヘッジ

さらにこの会社では、インドネシアだけでなくベトナムにも足を運び、現地企業を視察していて、来月にはアメリカのボストンで開かれる海産物の展示会にも参加するなど、海外での販路開拓の模索を続けています。

イチヤママル長谷川水産 長谷川博之 社長
消費意欲が旺盛な中国が仮に輸入再開をすれば、再び中国へ輸出することはある。しかし、今回と同じようなことがまた起こる可能性は否定できないため、リスクヘッジとして中国以外の国や地域も考えておくべきだと思っている。
また漁師ともホタテの水揚げのタイミングなどを含め、コミュニケーションをとりながら互いに仕事になるような形を考えていくべきで、知恵を絞り新たな策を考えるいいチャンスになるのではないか

抜本的な戦略転換を

海外販路の開拓を目指す会社がある一方で、国内販路拡大に取り組む会社も出ています。

函館市の水産加工会社は、中国の輸入停止措置によって「1、2か月ほどで2億円以上の売り上げが瞬間的になくなった」といいます。

中国向けのホタテが売り上げ全体の4分の1を占めていたこともあり、会社では「国内販路拡大」を目指して、中国の措置から2週間ほどで通販サイトを立ち上げました。

これまで、国内向けの販売は、安定的な取り引きができる大手冷凍食品メーカーなどおよそ20社とのトン単位の取り引きのみだったといいます。

しかし、こうした大口の取り引きだけではなく、顧客数を増やす必要があるとして、通販サイトを通じたネット販売で、一般消費者に向けてキロ単位の販売を始めたのです。

政府や東京電力は補償金や賠償金を出すとしていたが、こうしたものを受け取っても一時的なものであって売り上げは増えない。
自分たちで売り上げを上げる方法を考えたときにトン単位の大口の取り引きも重要だが、それだけに頼っていたら中国の輸入停止措置でわかったように弱点になり得る可能性もある。
顧客数を爆発的に増やしていくために、一般消費者向けの通販サイトを通じて販売するという形で、抜本的に戦略を変えた

私も苦しんだ、だから助けたい

この取り組みで、開始から3か月で4000万円あまりを売り上げ、いまでは中国向けに輸出するはずだったホタテの半分の量を販売できたとしています。

窮地の中、立ち上げた通販サイトでしたが、これが思わぬつながりを生みました。

北海道から遠く離れた愛媛県の飲食店から「ホタテを扱いたい」と引き合いがあったのです。

愛媛県内で5つ店舗を持つ老舗飲食店です。

この飲食店では、函館市の水産加工会社から仕入れたホタテを使って、去年10月からパスタなどを販売しています。

「ホタテを扱いたい」と申し出たのは、新型コロナの感染拡大で飲食店自身が苦境に立たされた経験があったからだといいます。

私たち飲食店はコロナ禍でいきなり市場がなくなる経験をしたので、中国が輸入停止をすると聞いた時にこれは絶対に大変なことになると感じた。
 ホタテが年間どのくらい中国に行っているかという数字もニュースなどで見ていて、突然輸出できなくなったらホタテの仕事に携わる人たちはどうなるだろうかと思い、同じく食に携わる身として何か役に立てることがあればすぐに行動しようと思った

さらに、飲食店としては、去年5月に新型コロナが5類に移行されて以降、客の外食に対する行動の変化を感じていて、目玉となる商品が欲しかったとも言います。

コロナ禍が明けて、徐々に客足も戻ってきていたが、元のようには戻らない状態が続いていて、外食に対する客の行動が変化していることを感じていた。私たちも当時、どうすれば店に足を運んでもらえるのか、来た客にリピートしてもらえるのかを模索している局面で、1番いい食材に巡りあえたのは、本当にありがたかった

商品は1500円から2000円ほどと高めの価格設定ですが、客からは愛媛県内で北海道産のホタテが食べられることなどが評価され、すでに6000食以上を売った人気商品になっているといいます。

さらに飲食店では、今月から新たに冷凍ピザを開発し、水産加工会社の通販サイトで販売するなど、連携を深めていくとしています。

窮地の中に答えはある

函館市の水産加工会社は、今後、一般消費者へのネット販売に加え、飲食店への営業を本格的に行って、さらなる国内販路拡大を目指す考えです。

中国との商売は、良いときもあれば、リスクを肌で感じるときもある。
 そのたびに付き合うのか、それとも付き合わないのかということを突きつけられるが、今回の措置がきっかけとなって、いまのビジネスモデルの弱さと強みをそれぞれ再発見できたと感じている。海外への販路を諦めているわけではないが、まず今後は国内の飲食店向けの販路開拓をより一層進めていきたい

木古内町の寒中みそぎ 鍛錬と思い
水産資源の変化と向き合う すべての魚を食卓へ

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