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茂木健一郎さん × 湯浅 誠さん ④全国初の生活保護世帯調査

2012年07月02日(月)

ハートネットTV・シリーズ貧困拡大社会では4月と5月に、
生活保護について考えました。
放送には出なかった、脳科学者の茂木健一郎さんと
反貧困ネットワーク事務局長の湯浅誠さんとの
スタジオ収録でのやりとりを再構成、ブログで紹介します。


第4回は、全国で初めて生活保護世帯の大規模な調査を行った
板橋区の話題です。

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※首都大学東京と板橋区が15歳から64歳までの生活保護世帯を調査した結果、
   不安や気分の落ち込みを感じている人がおよそ7割。
   さらには通常の4倍近くの3割の人が強いウツ傾向を示した。

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山田: 誰かとゆっくり話したい、
    理由もなく悲しくなるという声がアンケートにもありましたが、
    やはりそういう気持ちが強いんでしょうか?


湯浅: 私は『もやい』という支援団体に関わっていますが、
    元々11年前にこの団体を作ったのは、
    路上生活から脱却してアパートに入って
    本当は良かったと思うんですけど、
    また路上に出てしまう人がいる。
    それで話を聞いてみると路上の方が人とのつながりがあったと。
    アパートに入ったら逆に孤立しちゃったということなんですね。
    私たちが考えたのは、路上よりも貧しいアパート生活、
    都市の地域生活って一体何なんだと

    路上よりもアパートでの暮らしを
    豊かになるようにしないといけないのではないかと、
    そういうことで始めたんですけど。
    でも、そういう問題はいまだに続いているということだと思いますね。


茂木: これは大変なことですね。
    やっぱり人間って一人ではなかなか自分の心を豊かに耕せないんで、
    とにかく他愛のないおしゃべりでもいいから、
    人とつながっているということが
    “心の健康”という意味においても大事ですし、
    また働く意欲とか働くスキルにもつながっていくと思うんですよね。
    だから、友達とほとんど接する機会がないというのは、
    僕は非常に危機的なことだと思うんですね。

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湯浅: 働いていない人の6割が友人とほとんど接触がない。
    それは働くことがいわゆる“社交性の窓”となっていることを示していて、
    私たち自身もそうですが、
    仕事を通じての付き合いが社会の付き合いのほとんどなんですね。
    ただこのデータについてもう一つ気になるのは、
    働いているけど接触がないという人が4割もいるということですね。
    これは、清掃とか警備とかいわゆる一人職場ですね。
    警備なんかは工事現場で大勢の人がいるんだけど、
    自分自身はずっと立って一人で交通誘導しているということになると
    働いていても他の人と接触する場がないという、
    そういう働き方が増えているというのも
    同時に深刻なことでもあると思いましたね。


茂木: だから我々全体の問題ですよね。
    働くというのはもっと全人格的なもので、
    本当は人と人とが関わる場だったはずなのに、
    どこか自分の労働力というのを
    ある時間だけ切り売りするみたいな働き方が、
    生活保護を受けていらっしゃる方だけじゃなくて、
    社会全体に広がっているということを反映した数字だと思うんですよね。
    本当に我々全体の問題だと私は思います。


(敬称略)