浩子さんは開口一番、「テレビは嫌いなんです」とおっしゃいます。そして「あなたの目的は何ですか」とまっすぐ見つめられました。あまりのストレートさに面食らいつつも、番組制作の意図と思いをお伝えしました。そして、お話しする中で浩子さんが教えてくれた言葉が、「平和じゃないと生きられない」というとてもシンプルな言葉でした。

難しい問題であればこそ、シンプルな言葉、シンプルな思いが大切だと感じました。

それをそのまま、番組のタイトルに頂きつつ、次回は浩子さんを主人公にしたドキュメンタリーを作りたいと考えていました。そして、１年後の今回の番組になりました。

今回の取材中も、浩子さんからたくさんの言葉を聞きました。実は、番組では紹介しきれなかったのですが、浩子さんは日々の思いを短歌に詠んでいます。日常の暮らしのことから、沖縄が抱える問題のこと、日本の行く末のこと・・・。その中のいくつかを紹介します。

・老い伏して尚も怒り込み上ぐる ６．２３は忘却ならじ
・集団的自衛権いよいよ可決の知らせ聞き わが七十年の日々よ愛しき
・七十年の日々は平安のうちにあり 若き父母らの犠牲のもとに
・灼熱の中を命からがらに 生き来し人の優しき眼
・国益や防衛などと軽く云う輩 母の涙をあなたは知らない

浩子さんの短歌は、伝えたい思いがまっすぐ突き刺さってきます。シンプルがゆえに、受け手に逃げることを許さない気迫があるような気がします。私は当初、浩子さんの言葉は、怒りや憂いに溢れているように感じました。でも取材で浩子さんに接する中で、どの言葉にも「人を愛おしく思う“優しさ”」がベースにあるのだと感じるようになりました。

浩子さんは唯一自由に動かせる左の足指で携帯に短歌を打つ。いま、新しく出版する歌集の制作中！

そして、その考えのベースになっているのが、番組の最後に浩子さんが話す「個」の話です。
“私たちは1人しかいない、素敵な個を持って、個人の個を持っているんだから、大事にお互いにしなきゃいけない・・・。”
難しいことは分からないけど・・・と言いつつ、浩子さんが話してくれたのは、「全て国民は、個人として尊重される」と謳った憲法１３条の話でした。この考えを大切にすることでしか、福祉も平和も成り立たないと考えています。それは、沖縄だけ、日本だけ、ということでなく、世界のことを考える時も同じです。

改めて、難しい問題であればこそ、シンプルな言葉、シンプルな思いが大切だと感じました。

最後に。
「個」を大切にする浩子さん。やはりとっても個性的です。番組を見て頂いても分かる通り、白髪に紫のメッシュを入れて刈り上げる髪型はもちろん、海外を飛び回りコスタリカにまで行ってしまう行動力まで・・・そのほとんどが「思いつき」。浩子さんの周りには、その思いつきに「巻き込まれた」多くの人がいます。取材をする中で、皆さんから出るわ出るわ文句や苦情が。でも不思議と皆さん、何だか嬉しそうに話していました。みんなを引きつける浩子さんの魅力は何なのか・・・「個」を考える上でとても大切なポイントだとも思っています。それが番組からも伝われば幸いです。

浩子さんに「巻き込まれた」周囲の方たち