本文へジャンプ

舞台は"アジア"から"世界"へ

2014年11月06日(木)

ハートネットTVキャスターの山田賢治です。
 

韓国インチョンのアジアパラ大会から2週間が経とうとしています。私の中では、まだその余韻が残っています。


20141106_yamaken001.jpg
帰国後、職場で使っているネックストラップは、今回のアジアパラのもの。これを見ては、インチョンでの日々を思い出す。ソチパラリンピックに続き、またも「パラロス」…


10月30日の「チエノバ」で大会の模様を紹介しました。現地で取材したことや感じたことを、30分では十分に伝えきれなかったのが正直なところです。
この「ヤマケンボイス」(及び「Road to Rio」)でも、大会期間中、競技や選手の魅力はもちろん、大会運営についてなど、6年後の“東京”の参考になることがあれば、という視点で日々感じたことを綴りました。

ここで今大会を振り返り、アジアパラを締めくくります。
 


選手にとってのアジアパラ

2年後のリオパラリンピックに向けて、選手たちにとっては重要な大会でした。
競技によって、出場権獲得が直接かかった戦いもあれば、出場可能となる標準記録突破を目指すレース。さらには、直前の世界ランキングで出場権が決まる競技では、そのポイントを大きく積むことができる大会でもありました。

20141106_yamaken002.JPG
表彰式。日本選手が金メダルを獲得し、競技場に「君が代」が響き渡る。


もちろん、「順位」という結果、つまり「メダル」を狙っての戦いでした。でも、ほぼすべての選手たちから、「自己ベストの記録を出して」「自分たちの最高のプレーをして」という言葉が聞かれました。自分もしくはチームがどこまで戦えるのか、アジアという国際舞台で確認し、課題を見つけ、今後に結びつけるための大会でもありました。初めての国際舞台で「世界は甘くない」と話した選手も。そこで本気で「悔しい」と思ったならば、必ず次につながる。今大会をステップに大きく成長してほしいと願っています。

今回、私は競技を生で見て、気づくと仕事を忘れて(笑)大きな声を出し、応援していました。人間の“多様性”と“可能性”に圧倒され、選手のみなさんの人間性に心を打たれたからだと思います。
実は、かつて私が障害者スポーツに関わり始めたころ、生まれたときから身体に障害のある選手にこんな質問したことがあります。
「その身体で泳ぐのは大変ですよね」。
選手は、途端に表情が曇りました。
「いやいや。だって、自分はこれが“普通”ですから」
ハッとしました。自分を基準にしていたことに気づき、愕然としたのです。障害があってもなくても同じ、「今、置かれている状況の中で最大限の力を尽くそうとする『アスリート』」なのです。


20141106_yamaken003.jpg
光がふんだんに使われた閉会式。大会が終わり、選手にはホッとした表情が見られた



選手の育成・強化 ~他国から考える~
今回、大きくメダル数を増やした国がありました。それらの国は、総じて“国を挙げて”の選手強化に取り組んでいます。今回、金メダル数で日本に1個差と追い上げたイラン、そして4年前は金1個でしたが今回22個と大躍進したウズベキスタンの選手団に話を聞きました。


イラン

20141106_yamaken004.jpg
イラン選手団団長 BAGHESTANI ABBAS さん(右)にインタビュー

「今回の試合で良い結果を出せたのは、4年間計画を立ててきたお陰です。アジア・パラリンピックは私たちに
とって優先すべき目標の一つです。イラン・イスラム共和国の最高指導者が私たちの競技を支援してくれていま
す。
彼の重要な演説の一つに…
「スポーツはすべての人のためにあるが、障害者にとっては特に重要なものである」というのがあります。
この演説のお陰で、政府は障害者スポーツを支援するようになったのです。イランでは障害者のために特別なスタジアムも建設されました。また障害者が公共の施設を利用できるようにもなりました。さらにイランの国会では、イランパラリンピック委員会が、政府からより多くの予算を獲得できるように独立機関とする法案が議論されています。そうすればオリンピック委員会以外からも予算がつきます。
イランにおける最大の功績の一つが、国が定めた「パラリンピックの日」です。その日には全国から障害者のアスリートや子どもたちが集まります。今年はアジアパラ開幕1週間前に、テヘランのスタジアムで4万人が集まって選手たちを激励し、祝いました。障害者の活動をますます拡充していき、次回の大会には、さらに多くのアスリートが出場できるようにしたいです。」


シッティングバレー女子では、リオ出場権をかけた試合で、日本はイランに敗れました。日本は、今大会直前の夏から週末に代表合宿を行いました。しかし、イラン代表は年間200日以上練習しているといいます。試合では、選手個人の高い能力だけでなく、チームとしての戦術が徹底されていました。

日本の選手やチームには、まだまだ資金的な支援が十分ではありません。ある団体競技では、選手が全国各地に散らばっていて、合宿では「宿泊費は出るようになったが、交通費は出ない」と、交通費は選手の自己負担となっています。「国の予算を拡充する、企業スポンサーを募る」ことと「競技の認知度を上げる」ことの両輪が必要ではないでしょうか。


ウズベキスタン

20141106_yamaken005.jpg
ウズベキスタン選手団広報 LUTFULLOH KHOJI UGLI SADULLAKHONさんにインタビュー


「我が国では、仕事や子育ての合間に練習ができるよう、政府が支援してくれています。だからこそ、我が国のアスリートは国際競技会でどんどんメダルを獲得できるようになっているのだと思います。
何も秘密ではないので、正直に申し上げますが、ウズベキスタンは一昨年、日本の柔道連盟と協力の覚書を交わしています。その中で、日本とウズベキスタン、双方の柔道パラリンピックチームを強化するために、協力して練習するというのがあります。2年前、ウズベキスタンの柔道チームが日本に行き、練習をしました。日本が指導してくれたのです。そのお陰で、ウズベキスタンの柔道チームは強くなってきました。

また、ウズベキスタン政府は特に陸上競技を支援するようになりました。スポーツ施設が近年整備されて、便利に利用できるようになったのです。
今年の始め、陸上ではトラック競技に力を入れるようになりました。メダルを狙えると確信したからです。
選手はすべて障害者が通う専門の学校から選ばれました。コーチはその学校に行き、子供たちを選び、その多くが視覚障害の学生たちでした。運動機能障害の学生もいたのですが、彼らは今回のようなレベルの高い大会に出場するには、まだ準備が整っていませんでした。来年、もしくは今年中に、身体障害の学生たちも出場させられると思います。最終的な目標は、2020年東京パラリンピックにできるだけ多くの選手を連れていくことです」


ウズベキスタンでは、学校に赴いて選手のスカウトをしていました。日本では、自分が障害者のスポーツ大会に出られる、という認識がない選手もいます。情報が行き届いていないことが、その理由です。女子砲丸投げで世界新記録を出した加藤由希子選手も、大学に入ってから障害者の大会にも出場するようになりました。学校レベルで障害者アスリートへの意識を高め、さらに有望な選手に対しては国を挙げて育成・強化していくシステム作りが求められます。


今後に向けて
運営の中で印象に強く残っているのが、ボランティアの皆さんです。ホスピタリティを感じました。相手のIDカードの国籍を見て、その国の言語で挨拶をしていました。会場入口での笑顔の挨拶、今でも心に残っています。


20141106_yamaken006.jpg
高校生ボランティア。車いすの人の乗車をサポートし、バスが見えなくなるまで見送る。


閉会式で「主役は選手ですが、もう一つの主役はボランティアのみなさん、あなたたちです。誇りを持ってください」というアナウンスも流れました。今回ボランティアに関わった人たちが、次の奉仕活動にもつながっていくのだと思います。特に、若い高校生の参加は大きな意義があると感じました。
2年後のリオが終われば、次は「2020東京」です。この大舞台を“利用”して、スポーツや福祉の施策を充実させることも可能です。“心のバリアフリーを低くする”という言葉も聞きますが、ハード、ソフト両面でまだまだやるべきことはたくさんあります。6年後、私たち一人一人はどう関わることができるのか。今から“本気モード”で取り組んでいく必要があると感じています。


WEB連動企画“チエノバ” 特集!! アジアパラ大会―パラリンピックを盛り上げよう―
 本放送:10/30(木) 夜8時
 再放送:11/6(木)  午後1時5分

リオ・ピョンチャン・そして東京へ。
すべてのパラリンピックを盛り上げるために、ハートネットTVは取材を続けていきます。!

コメント

山田さん、本当にお疲れ様でした。パラリンピックがまだまだ日本では無視されている事が残念でなりません。選手のみなさんが一生懸命頑張ってプレーしている姿を見ると、感動と勇気が湧いてきます。もう少し情報(放送)が欲しいと感じます。この番組の力を信じて、もっとパラリンピックに関心を持って頂ける様にお願い致します。いつも応援しています。お身体に気を付けて頑張ってください。ありがとうございました。

投稿:清満 2014年11月06日(木曜日) 22時07分