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【取材レポート】LGBTもありのままでオトナになれる社会へ―大学生たちによる映画上映会&シンポジウム―

2015年03月26日(木)

日本の人口の5.2%と推計されているLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーなど性的少数者の総称)。東京・渋谷区では、同性カップルを「結婚に相当する関係」と認め、証明書を発行する条例案が区議会に提出されるという画期的な動きがあり、LGBTをめぐる環境も新たな段階を迎えています。
その一方で、差別や偏見を恐れてカミングアウトしていない人も多いことから、日常の場ではまだまだ可視化されておらず、理解が進んでいないのが現状です。

LGBTの若者たちが、ありのままでオトナになれる社会には何が必要なのか?
先日、明治学院大学のLGBTサークル「カラフル」の学生たちが中心になって、LGBTの現在と未来を考えるための映画上映会&シンポジウムが行われました。


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シンポジウムには、「カラフル」代表の倉光ちひろさんの他、「ハートネットTV」にも出演した性同一性障害の当事者・杉山文野さんなど7人のパネリストが参加。会場には学生を中心におよそ150人が集まりました。


この日上映されたのは、80年代のイギリスを舞台に、ロンドンに暮らすLGBTの若者たちと片田舎の炭鉱労働者たちとの涙と笑いの交流を描いた「パレードへようこそ」。ゴールデン・グローブ賞作品賞(ミュージカル・コメディ部門)にもノミネート、いま世界各国で絶賛されている実話をもとにした作品で、日本でも間もなく公開されることになっています。

80年代のイギリスでは、サッチャー政権の下、同性愛者に対する厳しい弾圧が行われていました。伝統的なイギリス社会の秩序と価値観が失われるというのがその理由です。映画の主役であるロンドンの若者たちも、警官によって日々の行動を監視されていました。
そんな中、若者たちのリーダーである青年マークは、ある日、テレビで自分たちと似たような境遇にある人たちの存在を知ります。それは、国による炭鉱閉鎖案に反対し、ストライキを行う労働者たちでした。
権力と闘うその姿に共感したマークは、仲間たちとともに、彼らを支援するための募金活動を始めます。そして、ある炭鉱組合に寄付をしたことがきっかけで、その町に招待されることになります。しかし、町の人たちにとって、初めて目にするゲイやレズビアンは別世界の住人。最初は反発や嫌悪の声が上がり、誤解や衝突の連続です。それでも、ともに時間を過ごすうち、互いの距離は少しずつ縮まっていき…さまざまな立場のキャラクターを登場させながら、人と人との絆が生まれていくプロセスがユーモアたっぷりに描かれていきます。


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© PATHE PRODUCTIONS LIMITED. BRITISH BROADCASTING CORPORATION AND THE BRITISH FILM INSTITUTE 2014. ALL RIGHTS RESERVED.
映画「パレードへようこそ」の一場面。ロンドンに暮らすゲイ/レズビアンの若者たちは、LGSM(Lesbians & Gays Support the Miners =炭鉱夫を支援するレズビアン&ゲイの会)を結成し、“共通の敵”であるサッチャー政権に挑む。LGSMは80年代に実在したグループで、当時の会議議事録や新聞の切り抜き、存命のメンバーの証言などをもとに、今回初めて映像化された。


上映会の後、LGBTの若者が生きやすい社会について、パネリストによるディスカッションが行われました。
学生サークル「カラフル」代表の倉光ちひろさん(文学部2年)は、「LGBTという言葉はずいぶん知られるようになってきたけれど、当事者にとっての状況はそんなに変わっていない」と指摘。例えば、大学内でのトイレの問題や、友人との恋バナ、就職活動での悩みなど、LGBTの若者たちが抱える「生きづらさ」は相変わらずだと語りました。さらに、「こういうことで困っている」ということを安心して話せる場所がないことが、当事者をますます追い詰めていると言います。

そんな倉光さんが映画の中で印象に残ったのは、登場人物たちが「賛成か反対か」ではなく、相手の話を聞いて「共存」しようとする姿勢だったといいます。
映画に出てくる炭鉱町の住民たちは、最初はあからさまな緊張と警戒を見せますが、次第に好奇心が勝り、さまざまな質問を若者たちに投げかけます。「どちらが家事をするの?」「レズビアンはみんな菜食主義者って聞いたけど本当?」など、素朴な疑問に答えるうち、互いに心を開き始める若者と住民たち。同性愛者に対して否定的なイメージを持っていた住民も、協力して寄付金集めのコンサートなどを企画するうち、「案外普通の人たちなんだな…」と漏らすようになります。


性同一性障害の当事者で「ハートネットTV」Our VoicesシリーズのMCも務めた杉山文野さんは、映画の住民たちのように「当事者と実際に会うこと」が大切だと強調しました。
杉山さん自身も、教育や行政の関係者から「当事者の話を聞きたい」と講演に呼ばれる機会が多いそうです。そして、実際に目の前でしゃべってみると、「こんなにフツーの人なんだ」という反応が返ってくるそうです。「直接会ったことがなければ、よく分からない変な人というイメージを持ってしまう。でも、会ってみたら、どこにでもいそうな普通の人。その普通の人がこんなに困ってるんだ…と気づいてもらうことが、社会を変えていくことに繋がるのではないか」という杉山さん。何よりも、当事者と出会う機会を増やすことが重要だと訴えます。


そうした機会がなるべく若いうちに持てるといいと指摘するのは、NPO法人Re:bit副代表の関谷隼人さんです。Re:bitは10代~20代の若者が中心となって活動している団体で、各種学校や教育委員会でセクシュアリティーをテーマにした出張授業を開催。LGBTの大学生が講師となり、学生生活の中で感じた生の声を生徒や教職員に届けています。
自身も小学生を相手に授業を行った経験があるという関谷さん。意外だったのは、子どもたちが予想していたよりもずっと柔軟な考えを持っていたことだといいます。「同性を好きになること」や「男と女だけではない」ことに対し、もっと拒否反応を示すかと思っていたら、子どもたちは案外すんなりと受け入れてくれたのだそうです。
考え方が柔軟な子どものうちに、当事者が会いに行って話をすることで、「世の中にはいろんな人がいる」ということを知る。そんな人が増えていくことによって、多様性を認める“選択肢の多い社会”になってほしいと関谷さんは語りました。