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虐待が起きた家庭のやり直しを支える

2013年04月08日(月)

虐待された子どもを親から引き離せば、問題が解決するわけではない。
問題はその後、その家庭をどのように支援して親子関係を回復させるのか・・・
埼玉の児童相談所で、虐待問題の奥深さを知りました。



こんにちは、PD1号です。
虐待の問題に最前線で対応するのが、
全国207箇所にある行政機関「児童相談所」です。

虐待の通告を受けて状況を調査、
深刻な場合には子どもを親から引き離して保護し、
その安全を確保するのが児童相談所の重要な任務です。

しかし児童相談所には、もう一つ大きな仕事があります。
虐待が発生した家庭を支援して、健全な家庭へと回復させること。
一旦は子どもを親から引き離しても、
虐待のない安全な状況で元の家庭に戻ってもらう「家族再統合」を目指します。


「家族支援担当」という専門チームを立ち上げ、
虐待によって離れ離れになった親子の「再統合」に取り組む
さいたま市児童相談所 を取材しました。
今回はその報告です・・・

  saitama.jpg
「家族支援担当」のメンバー 3人とも専門職の児童心理司


さいたま市児童相談所が「家族支援担当」を立ち上げたのは3年前。
きっかけは、虐待が発生した家庭の親との関係が
なかなかうまくいかないことでした。


児童相談所は子どもを虐待から守るために「一時保護」を行いますが、
親にしてみれば、やったことはさておき、
突然自分の子どもが連れていかれる不条理な出来事です。
当然、児相相談所に対して大きな反感を持ち、対立することが多くなります。


支援どころか、親との会話さえままならない・・・


さいたま市児童相談所では、そうした困難な状況を改善するため、
家族支援の専門チームを結成。
さらに、親との関係を改善し子どもを安全に元の家庭に戻すために、
「サインズ・オブ・セーフティー」 という手法を取り入れたといいます。


「サインズ・オブ・セーフティー」とは、オーストラリアで開発された、
児童虐待対応の一つの手法です。


これまで一般的な児童相談所の対応は、
子どもに手をあげた親にそれが虐待であると認めさせ、
二度と発生しないよう「指導」するというものでした。


しかし、サインズ・オブ・セーフティーの考え方はそれとは大きく違います。


親や子どもが、虐待のない安全な生活を形作る主体であると考えて、
どうしたらそれができるか、一緒に考えるパートナーになるのだといいます。
時には、その親が本当に虐待したのかどうかすら問題にせず、
どうしたら子どもが安全に暮らせるかに焦点をしぼって話し合うそうです。


そして、例えば
「母親が食事の準備が苦手で子どもの栄養が偏りかねないならば、
 宅配サービスを利用する」
「精神疾患で時折子どもの世話ができなくなるならば、
 困った時にすぐに来てもらえる親族を用意する」など、
問題を解決するための具体的なアイデアを
「安全プラン」にまとめ支援者と家族とで共有します。


今までの対応では、ああだから危ない、この点も心配、と、
その家庭のリスクばかりに目を向けがちだった対応も、
サインズ・オブ・セーフティーでは、この点はよくできている、と、
強みの部分にも注目。
そのことで支援者と親とのコミュニケーションも成り立ち、
対立的だった親の態度も変化していくといいます。


ただそれも単に良いところを見つけてほめるということではなく、
あくまで、その強みが子どもの安全につながるかどうか、がポイントです。

例えば、「児童相談所の指導によく従っている」というのは
子どもの安全につながる強みとは言い切れないですが、
「父が酔って子どもに当たろうとした時、
 母が速やかに子どもを連れて一時的に実家に戻った」
という行動は、安全につながる強みだと言えるそうです。


アメリカ・ミネソタ州では、
こうしたサインズ・オブ・セーフティーの手法を取り入れたことで、
子どもの一時保護や長期の親子分離、再虐待率などが減ったという
実証データもあるといいます。


支援を受ける親や子どもにとって、
サインズ・オブ・セーフティーは何がどう違うのか。
さいたま市児童相談所の家族支援担当が対応して、
家族再統合を果たした親子を取材しました。

その時のお父さんの言葉です。

以前は、児童相談所の人は完全にお役人という対応だった。
これして下さいって言われてそれを一生懸命やっても、
まだ返せない、次はこうしないと心配だ、次はこれをして下さい、と。
どうなったら子どもと一緒に暮らせるかわからず不満ばかりたまった。


家族支援担当の方に代わって、何をどうやって、どういう状況になったら
子どもと一緒に暮らせるというゴールが分かるようになって、
自分たちもがんばらないとと思えるようになった。


取材したお父さんお母さんは、
当初は「早く子どもを返せ」と強く児童相談所に主張、
かなりの対立状況にあった方だといいます。

家族支援担当の職員と話し合いを繰り返し、
子育てに行き詰った時の身近な支援者を確保するなど、
虐待を未然に防ぐ方法を決めた上で、子どもを引き取りました。

施設からご両親の元へ帰った、
発達障害のある小学生のお子さんの言葉が印象的でした。


施設からうちへ帰れてうれしい。
みんなで一緒にいるのが楽しい。

(どういう時が楽しいの?)

いつも楽しいよ。


児童相談所と言えば、虐待された子どもを親から引き離して保護をする、
というところに注目しがちですが、
その先にある家族支援の大切さを実感した埼玉の取材でした。


児童相談所などの行政機関や医療現場、民間団体など
様々な立場で子どもの虐待に向き合う支援者のみなさん。
みなさんは現場でどのような課題を抱えていますか?
どうしたら子どもの虐待を減らしていけるのでしょうか?
みなさんの体験談・ご意見を募集しています。
ぜひお寄せください!


 

コメント

このような子どもや家庭福祉関連の企画において、「例えば、」と挙げられるケースでは、必ず虐待等「加害者が父親」という例示が、NHKさんに限らずマス・メディアでは多過ぎる気がします。

現実として、母親による児童虐待が多いことを明示していくことは、男性の育児参加を考え促進していくうえでも、そのような育児支援社会をつくっていくうえでも、社会的養護政策理解周知のうえでも、重要なはずです。細かいことですが、改善お願いいたします。

投稿:ice 2013年05月02日(木曜日) 12時47分