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コロナ禍でもつながるために【第2回】

コロナ禍でもつながるために【第2回】

2020年9月23日更新

新型コロナウイルス感染症との闘いが長期化するなか、私たちに「もう一つの命の危機」が忍び寄っています。孤独死、虐待、アルコール依存、自殺などが心配されています。
人が集まれないなかで、どのようにして見守りや子ども食堂などの人と人をつなぐ活動を続け、「もう一つの命の危機」から人々を守っていけばいいのでしょうか。「コロナ禍でもつながるために」をテーマに、全国で地域づくりを進める方々とともに話し合いました。
(収録は、2020年5月2日に行われました。)

(第1回はこちら)

スタジオの様子

ゲスト

  • 鎌田實さん(諏訪中央病院名誉院長)
  • りゅうちぇる(タレント)
  • 勝部麗子さん(大阪府豊中市・豊中市社会福祉協議会福祉推進室長)
  • 幸重忠孝さん(滋賀県大津市・NPO法人子どもソーシャルワークセンター理事長)
  • 秋葉祐三子さん(福岡県北九州市・NPOあそびとまなび研究所理事長)
  • 島田憲一さん(埼玉県秩父市・みやのかわ商店街振興組合理事)
  • 司会:山本哲也(NHKアナウンサー)

司会: 続いて、滋賀県大津市で、子どもや若者の居場所づくりに取り組んでいる、幸重忠孝さんに伺います。滋賀県でも小中高で休校が続いています。今の子どもたちの様子、どうご覧になっていますか。

幸重忠孝さん: 実質的に3月から学校が休みでしたので、もう3か月目に突入しているんですが、子どもたちが安心して過ごすことの出来る居場所が少なくなっている。「ステイホーム」という言葉がありますが、家にいることが安心ではない子どもたちもいるんですよね。また中高生たちはスマートフォンなど持っていますが、良くない大人もいっぱいいるので、危険な目に遭っているような子どもたちもいたりしますね。

子どもたちの居場所を作る

大津市にある、幸重さんが主宰する、こどもソーシャルワークセンターです。幸重さんはここに、家や学校に居場所がない子ども達が、安心して過ごすことのできる場を作ろうとしてきました。家庭的な雰囲気を大切にして、料理も一緒に作りました。家族のように食卓を囲み、寂しさを抱える子どもたちの、心の拠り所を作ってきました。

少年:「大人は怒ることしか知らんと思っていたから 楽しい話をしてくれて うれしかった」

近くの公民館を利用し、地域の誰もが食べに来ることができる子ども食堂も作りました。さらに、お寺を活用した勉強の場を、社会福祉協議会などと連携して作り出しました。幸重さんは、地元のネットワークをうまく活用して、子どもが元気になれる場づくりをサポートしてきました。
しかし3月初旬、感染の拡大から、滋賀県では小・中・高校で、休校が始まりました。休校になると、学校や相談機関からの、子どもを預けたいという要望が、一気に増えました。そこで幸重さんは、それまで週2日だった受け入れを5日に増やし、預かる時間も延長しました。食事を給食に頼っていた子、ひとり親の子、親が病気になってしまった子など、家庭に居場所のない子ども達を、なんとか受け入れようとしたのです。

感染を防ぐため、一つの部屋で過ごす子どもの人数を2人にまで制限しています。また、こまめに換気をし、手洗いも徹底。電気のスイッチやドアノブなどの消毒もおこなっています。さらに、帰りの電車で感染しないよう、幸重さん自身が、子ども達を家まで送るようにしています

幸重さん: 子どもたちからすると、ある日突然「もう来週から学校おしまいです」みたいなことになってしまって、子どもたちはすごく辛い思いをしている。これまで平日は毎日、家族以外の学校の先生や保育士さんが関わって気にかけていてくれていたのが、この3か月間、家族まかせになっている。中には給食がなくなってしまって、食生活がかなり危機的な状況になっている子もいます。これまでは、いわゆるセーフティネットを学校や保育園にすごく頼っていたんだなということを感じて、心配しているところです。

鎌田實さん:自宅がちゃんとしているかどうかの格差が、結局、子どもたちの学力格差になり、その学力格差が、大人になっても格差にもなる可能性がある。それは本人にとっても辛いし、社会にとっても大変なことが起きると思います。

幸重さん:数的な学力だけではなくて、本来、その年齢でこういうことを経験しておかなくては、ということが経験できないまま置き去りになっている。それが家庭である程度保障できる家と、それができない家庭。例えば、自分の部屋がある子どもたちと、家族みんなが居間で過ごしている場合とでは、ストレスも違ったり。勉強しようと思っても、しにくい環境があります。たとえば子どもにタブレットを配るという方法も、親御さんが横についてきちっと使い方を(教える)ことができる場合はオンライン学習に導けると思うんですが、そうではなくタブレットだけポンと渡しても、親に見る余裕がないときっと意味がない。今後は、そうした環境の子どもたちのために、小さな、2、3人の子どもたちだけで集まるような居場所がすごく大事だと思っています。

りゅうちぇる:ちょっと公園に行くということが許されてる家族もあれば、公園にも行かない、家にいときなさいっていう家族の考えの差もあったりとか。それこそ携帯をあたえられてる子とあたえられてない子もいるから、寂しさを紛らわしたりするにも差があるじゃないですか。そこをどうケアしてあげて、親御さんも安心できるような場を、いかに大人が作ってあげられるかかなと思いました。

勝部麗子さん:社会がだんだん怖くなってきた。公園で子どもの声がしたら「子どもが外で遊んでいいのか」が問題になったり。何が正しいのかよく分らないうちに、みんながどんどんお互いに疑心暗鬼になっていって辛くなるなと思います。

鎌田さん:僕は「子どもを公園に連れて行っていいか」と質問をされたらば、内科の医師としては、そこの公園に人たまりができるようなところさえなければ、きちっとしたソーシャルディスタンスが保たれるならば、やはり息抜きをすることはすごく大事だし、日に当たることは自然免疫力を高める上ではものすごく大事なんですね。ですから、おしくらまんじゅうはダメだけど、一人で少し走ったりすることはいいんだとみんなで認めて、僕たちの社会を監視社会にするんじゃなくて、温かな寛容な見方をしていくのがすごく大事なんじゃないかなと思います。

子ども食堂の取り組み

司会:福岡県北九州市にも感染が広がり、多くの子ども食堂が活動を停止しています。北九州市で子ども食堂を運営されてきた秋葉さんは、今どんな思いでいらっしゃいますか。

秋葉祐三子さん:私が心配しているのは、子どもたちが家にいる状況の中で、子どもに接している身近な大人は大丈夫なのか、という点です。特に、赤ちゃんを抱えてるお母さんたちは一体どうしてるんだろうと思って。大人が大丈夫なら、子どもは大丈夫なんですけど。とてもとても心配で、どうやったらそうしたお母さんたちとの接点が持てるかなと、毎日考えています。
こども食堂というのは、とにかく大勢、100人とか地域の人がみんな集まるみたいなやり方を今までしてきたんですけれど、それをとにかくまず外に出そうと。3月末は、外で食べ物も配ったりしていました。その後にお絵かきをするのでも、わざわざ向き合うのではなく外側を向いて、相手と顔が対面しないようにやってみようと。

司会:そのあとで緊急事態宣言が出ました。

秋葉さん:もっと深刻な状態になってきたので、会って顔を見るために品物を配る、少しお母さんとやりとりをする、ということを今は続けています。その場合も、密にならないようにメールであらかじめ予約をしていただいたり、多くの人が集まらないようにする。受け渡しや面談の活動は全部屋外です。

司会:気がかりなことは何ですか。

秋葉さん:私たちのところは、なるべく親子で一緒に来て欲しい。その関係性を見る中で、お母さんの話を聞くということを、スタッフそれぞれがしています。6人きょうだいがいる家で、お米どうしてますか、困っていたらじゃあ何ができるかね、こういう方法あるよね、って、知恵を集める。顔が見えていればこそ、そんなことができるのかなって思っています。

りゅうちぇる:実は僕、どうすればいいんだっていうのが正直あって。公園も「密を避ける」とよく言われますけれど、僕の近所の公園は、朝の7時でも混んでるんですよ。みんな結局考えていることは一緒で。混んでないだろうと思っていくと、小学生がいっぱいいたり、公園の中には2才くらいの小さい子がいたり、年代が違うからちょっと危険なシーンがあったりとか。

秋葉さん:そうね、子どもたちがお外で遊ぶのは、生きるのと同じぐらい大事なことなので、必要なのは屋外の自然な空間と、もうひとつ、友だちなんですね。確かに考えることはみな一緒だから(公園が)満員になっちゃうんだけれど、じゃあそれを、どんなふうにうまいこと工夫したら分散できるか、どういうルールにしたら子どもたちが上手に遊べるかなって考えないといけないと思います。

鎌田さん: 僕は気になっているんですけど、フランスでは、今回のコロナで都市封鎖が起きて、DVが3割方増えたと、数字が見事に出てくる。日本もきっとそうなっているはずなんだけれど、これがとっても怖いことで、子どももどうなっているんだろう。お母さんも本当に大丈夫なんだろうか。幸重さんや秋葉さんのような活動を通して、出てこない声を拾いあげてつなげていく視点が、この社会のセーフティネットを守っていく上でものすごく大事だと思います。自粛中によけいな事をするなと言う人もいると思うけれど、本当に声をあげられない子どもたちが苦しい想いをしていることを、僕たちは忘れちゃいけないんじゃないか。だから上手につながりながら、子どもの声を聞き出していく。若いお母さんたちの声を聞き出していくことは、すごく大事な事じゃないかなと思います。

(第3回に続く)