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社会的孤立を防ぐために、地域で何ができるのか?第1回

社会的孤立を防ぐために、地域で何ができるのか?第1回

2019年5月27日更新

孤立死、ひきこもり、不登校、薬物依存。今、多くの人が誰にも「助けて」と言えず、社会から孤立しています。
OECDの調査によれば、家族以外との付き合いがほとんどない「社会的孤立」の状態にある人の割合は、先進国の中で日本が最も高くなっています。日本は孤立大国なのです。

どうすれば誰もが孤立せずに、安心して暮らすことができるのか。地域からの事例をもとに話し合うシンポジウムが2018年12月15日に開かれました。その内容をまとめた番組「孤立大国ニッポン~私たちは何をすべきか~」を3回にわけて、動画とテキストでご紹介します。

登壇者

  • 勝部麗子さん 勝部麗子さん大阪府豊中市社会福祉協議会で、住民と共に孤立のない地域づくりを進める
  • 谷口仁史さん 谷口仁史さん佐賀県のNPO、スチューデント・サポート・フェイスで活動する
  • 近藤恒夫さん 近藤恒夫さん東京で、薬物依存者のリハビリ施設、日本ダルクを運営する
  • 神野直彦さん 神野直彦さん日本社会事業大学学長

司会:後藤千恵(NHK解説委員)

司会:今日は、孤立が深刻化しているこの日本社会で、どうすれば再び人と人とのつながりを取り戻し、誰もが安心して暮らせる社会をつくれるのか、話し合っていきます。神野さん、孤立について考える意義とは。

神野:孤立とは、社会的な関係、つまり人間の絆から切断されている社会的な状況のことをいいます。人間と人間との結びつきが弱くなると不安になります。不安になると様々な病理現象が起きてきます。孤独死、自殺、みんな人間の絆が失われたことに起因する。孤立を克服することによって、新しい社会、つまり人間の絆をつくりあげ、温かい手と手を取り合いながら生きていくことが重要になってきていると思います。

司会:さっそく地域から孤立をなくす取り組みを見ていきましょう。まずは大阪府豊中市の勝部さんたちの取り組みです

大阪・豊中市 ひとりぽっちをつくらない

大阪のベッドタウン、豊中市。この町では、「見守りローラー作戦」と名付けられたボランティア活動が行われています。小学校区ごとに選ばれた校区福祉委員と呼ばれる住民ボランティアと、民生委員がチームを組み、地域の全世帯を回ります。

ボランティア:「お困りごとはございませんか?」

高齢者や子育て世代の孤立など、困り事を聞きながら、住民同士のつながりを作っていきます。

ボランティア:「何かあったら連絡下さい」

こうした活動を住民と共に進めているのが、豊中市社会福祉協議会の勝部麗子さんたちです。

勝部さんたちは、「見守りローラー作戦」などで発見された地域の課題を受け止め、1つ1つ解決に努めてきました。この日向かったのは、2年前から通い続けている、いわゆる「ごみ屋敷」です。身寄りのない高齢者が住んでいますが、支援を拒否して会うことすらできていません。

偶然、(家の外に出ていた)本人に会うことができました。

勝部さん:「こんにちは、勝部です」

住民:「あっどうも」

勝部さん:「何回かお邪魔していたんですけど。この辺も気にはなっていたんだけど。私ら手伝うけど?」

住民:「大丈夫大丈夫」

ゴミを溜める理由は様々です。高齢で体が弱り、ゴミを出せなくなった人。認知症の人。家族の突然の死にショックを受け、片付けられなくなった人もいます。溜まったゴミは、長年、誰も家を訪ねて来なかった証。勝部さんは、ゴミ屋敷を「社会的孤立の象徴」と捉え、本人に声をかけ続けています。

勝部:「もし良かったら手伝いますよ。ほんとにコソコソっとやっちゃうから」

住民:「ごみを取りに来る、あれもお金いるでしょ」

勝部:「お金を援助してもらえる方法があるんで。捨てるのにお金かかるのが大変やと思いはるんやったら、手伝わせてほしいんやけど。かまへん?」

住民:「かまへんよ」

片づけの約束ができました。勝部さんは、片付けをする際、必ず、ごみ屋敷の近くに住む住民に協力を呼びかけます。

勝部:「この間うまく会えて、ご本人の方が片づけたいものがあるっていうふうにおっしゃって」

片づけの後も、本人が孤立せずに暮らしていくためには、近所の支えが欠かせません。近所とのつながりを、片づけをきっかけに作っていきます。

勝部:「私らが行っている時に『手伝ってあげるわ』って皆さんが入って来ても、かまへんと思うんですよ」

片づけの日。

勝部:「おはようございます。すいません」

まずは裏庭から取りかかります。打ち合わせた通り、会議に参加した住民がやってきました。

ボランティア:「軍手。これがあったらケガしないから」

住民:「ありがとう」

会議に参加していない住民もやってきました。自分も手伝いたいとやってくる人たち。つながりの輪が広がっていきます。

勝部:「美しくなってきた」

開始から2時間。作業は終了しました。

豊中では、これまでに400件以上のごみ屋敷を住民と共に解決してきました。再発するケースは、ほとんどありません。片づけの作業を通して、人と人とのつながりが生まれ、地域に助け合う関係ができていくからです。

勝部:「誰にも相談ができなくて、今も人知れず苦しい思いをされている方があると思うんですね。絶対、そういう人たちを地域の中で支えていく」

ここ数年、勝部さんたちは、新たな問題に突き当たっています。かつては若かったひきこもりの人たちの高齢化が進み、その親からの相談が相次ぐようになったのです。

ひきこもりの息子がいる母親:「私がもしいなくなった時に、(息子が)生活もしていかれへんし、どうしようもない」

勝部:「会話もなかなか難しい?」

母親:「しゃべったらケンカになるし。『わかったうるさい』って」

ひきこもっていた若者が年を重ね、50代を迎えているケースも多くあります。親はすでに80代、ひきこもっている子どもには、定職がなく、収入がありません。これまでは、親の年金などで暮らしてきましたが、親が他界したあと子どもはどうなるのか、課題となっています。勝部さんは、こうした課題を、8050(はちまるごーまる)問題と名付けました。

勝部:「ご近所からも『お宅のお兄ちゃん、どうしてるの?』と言われるのが苦しくなるから、できるだけ付き合いをやめていく。どんどん地域からも親戚からも孤立していく。そういう状況で、ますます家族だけの世界になっている人が多いように思います」

この日、「50代の男性がごみ屋敷状態になった自宅で倒れている」と連絡が入りました。鶴田和範さん、53歳。父親と母親を相次いで亡くして、年金収入がなくなり、生活が立ち行かなくなりました。

鶴田さんは、元エンジニア。2001年に脳卒中になり、失業。左半身にマヒが残りました。自分の障害年金は受け取っていましたが、それだけでは経済的に苦しく、いつしか酒におぼれ、近所からも孤立していました。この日から、勝部さんたちの支援が始まりました。

勝部さんが連れ出したのは、「びーのびーの」と呼ばれる、ひきこもっていた人たちの居場所です。ここは週4回開かれ、手作り雑貨の製作などに参加することで、1回500円の活動費を受け取ることができます。さらにパソコンの練習なども重ね、就労への準備が進められていきます。鶴田さんは、こうした活動を通じて、もう一度、仕事に就いて経済的な自立を果たしたいという思いを持ち始めていました。

「やっぱり家に閉じこもっていたくないし、気持ち的に閉鎖的になるので」

しかし、しばらくすると、鶴田さんは、再び家に閉じこもる日が増えていきました。

鶴田さん:「すわ、すわ、すわって下さいよ」

取材者:「お酒飲んではるんですか?」

鶴田さん:「うん飲んでます」

しばらくやめていた酒を、また飲むようになっていました。
自由が利かない体で、これからの生活はどうなっていくか。本当に仕事に就くことができるのか。いくつもの不安に苛まれ、鶴田さんは、アルコール依存症を患っていました。

取材者:「食欲なかったんですか」

鶴田さん:「そうです」

勝部さんは、鶴田さんの気持ちが落ち込むたびに、訪問していました。

鶴田さん:「むなしい。むなしい」

不安を受け止め、励まし続けました。

勝部:「やろう、もう一回やろう。もう一回やり直ししよう」

鶴田さん:「はい」

鶴田さんを応援したいという地域の人々も現れました。近所の男性。姿を見れば声をかけ、元気づけました。

男性:「たいがいの方は、鶴田さん、車椅子で出かけられてたら、たいがいわかりますんでね。応援しているんです。みんなで応援してるんですわ」

支援が始まってから、1年半。鶴田さんは、再び立ち上がりました。介護ヘルパーの資格を取るための勉強を始めたのです。将来、福祉の仕事に就き、今度は誰かを助けたいと考え始めていました。

鶴田さん:「やっぱり支援してくれるのはありがたいと思って。支援されるとこっちもなんか相手にこう、奉仕をしたいと思って。そんな気持ちになりましたね」

この日、勝部さんは、鶴田さんを地域のお花見会に誘いました。

住民:「鶴田さん、びっくりした」

住民:「めっちゃうれしい」

かつては、地域で孤立していた鶴田さん。鶴田さんの努力を知った近所の人たちが、次々に声をかけます

住民:「みんないい人だからね。よかったです。私たちもう友達」

鶴田さんの周りに、いつのまにか、温かな人の輪ができていました。

勝部:「出会った人たちが、社会でもう一回、自分の役割と居場所を見つけられるような、そういうものを作っていくと、結果的にはみんながそこでつながりが持てるってことになるんじゃないかなって。どんどんみんなが幸せになっていくんじゃないかなと思っています」

司会:やはり地域の中でのつながりをつくっていくことが大事なんでしょうか。

勝部:鶴田さんは、最初はアルコール依存で、ご近所の人たちをお酒を飲んで睨みつけたり、いつも倒れているという状態が続いていたので、お家の前も通学路から外されるぐらいの状態でした。けれども地域の人たちが、だんだん彼が前向きになっていく姿を見て、どうにもならない気持ちで暮らしてるんだということを知ると、「もっと早く声かけてあげたらよかったよね」「なんで今まで遠巻きに見てたんだろうか」と近隣の人たちの気持ちも変わり、そして、彼が就職が決まった時には就職祝いをしてくれました。
やっぱり本当のことを知るということがすごく大事で、本当のことを知らないから怖かったり、「自分は関わっていいのかな」と思ったりする。知ることによって優しさが生まれるんだと思います。
あらためて考えると、たとえば自殺の問題とか、引きこもりとかゴミ屋敷とか、別々に見えていた問題が、実は同じ根っこから生まれてきてるんじゃないかと思うようになりました。それが社会的孤立ということです。結局、誰にも相談できなくて、問題がどんどん悪循環してしまう、そういう人たちがいる。そう考えた時に「群れる」ってことをみんな忘れてしまってるので、もういちど群れ直す場をどうやって広げていくかがとても大事だなと思うようになりました。

司会:やはり地域の中でのつながりをつくっていくことが大事なんでしょうか。

神野:私たちの生きている社会は、政治システムと経済システムと社会システムという3つに分離しています。

政治システムは、政府の活動だというふうに理解していただければ構いません。社会システムというのは、家族をつくり、地域社会をつくりながら、生活をする場です。それから経済システムは、生産の場であり仕事をする場だというふうに思っていただければいいわけです。

経済システムというのは競争原理で行われますので、誰かが成功すると自分は失敗する。自分が成功すると、誰かが失敗する。そういう関係になっているわけです。この競争原理がないと、経済は発展しないし、社会の活力が失われるということで、私たちはこの経済システムを非常に大きくしてきた。経済が成長しさえすれば、豊かになりさえすれば、社会システムの方にもそれが滴り落ちていって幸せな生活が待っていますよ、というはずだったんですね。ところが経済システムのほうが大きくなりすぎて、家族の機能が小さくなり 機能不全に陥っている。

経済システムのほうが大きくなりすぎると、私たちの日本の社会は分断されて、仲間意識は薄らぎます。それが孤立を生み、ひきこもり、孤独死、ごみ屋敷、最後には完全な自己孤立化としての自殺、様々な病理現象が大きく広がり始めてしまった。

社会システムが手薄になっていったというのが現状ですね。家族の機能をサポートしてあげるような育児のサービスや、お年寄りの高齢者福祉サービスや、医療サービスなど、早急に手当てをしていくことが重要になってきてるんだと思います。