1. ホーム
  2. 地域づくりナビ
  3. 社会的孤立を防ぐために、地域で何ができるのか?第2回

地域づくりナビ

社会的孤立を防ぐために、地域で何ができるのか?第2回

社会的孤立を防ぐために、地域で何ができるのか?第2回

2019年6月10日更新

孤立死、ひきこもり、不登校、薬物依存。今、多くの人が誰にも「助けて」と言えず、社会から孤立しています。
どうすれば誰もが孤立せずに、安心して暮らすことができるのか。地域からの事例をもとに話し合うシンポジウムが2018年12月15日に開かれました。その内容をまとめた番組「孤立大国ニッポン~私たちは何をすべきか~」を3回にわけて、動画とテキストでご紹介します。

司会:それでは次に移りたいと思います。こちらのデータをご覧下さい。

2007年にユニセフが発表したデータです。先進25カ国の15歳の子どもに対して、「孤独を感じている」かどうか尋ねた調査結果です。ご覧のように日本は突出して高い数値となっています。子どもたちのおよそ3人に1人。日本は、世界で最も孤独を感じてる子どもが多い先進国となっているんです。そうした状況を踏まえて、谷口さんたちが佐賀県で進めている取り組みをご覧ください。

佐賀県 どんな境遇の子も見捨てない

子ども若者支援の先進地として知られる佐賀県。その取り組みの中心を担うNPOの事務所が佐賀市内にあります。寄付金や行政の補助事業を使って、子どもたちの支援に当たっています。
メンバーは、臨床心理士や社会福祉士などの専門職80人と、200人を超えるボランティア。それらがチームを編成し、年間延べ4万件を超える相談に対応しています。このNPOの代表を務めているのが、谷口仁史さんです。

緊急の連絡が入りました。子育てに限界を感じている母親についての情報です。

電話の声:「もううちは無理、このままいたら殺すばい、って言ったとですよね」

谷口さん:「ああそうですか、なるほど」

さっそく現場に向かいます。子どもは小学6年の男子児童。不登校がちだといいます。

谷口さん:「小学校6年生の子が、母親の言うこともなかなか聞けなくて、それで暴れていたところを抑えられているみたいですね。本人(母親)もいよいよ『耐えきれん、殺すかもしれん』ということなので」

谷口さんの支援の最大の特徴は、「アウトリーチ」と呼ばれる訪問支援です。自ら相談に来ることができない子どもたちのもとに出向き、直接、支援を届けます。

谷口さん:「お邪魔します」

母親:「(息子が)さっきカッターとか持って行って、興奮して包丁とかも。(私も)『刺してみろ!」って言ったと」

母親は、シングルマザー。持病があり仕事ができず、経済的にも困窮しています。

谷口さん:「(部屋の)テレビもひっくりかえってる」

朝、息子が、「学校に行きたくない」と言って、突然暴れ始めたといいます。壁紙がカッターナイフで切られ、「死」という文字が記されています。息子が何を考えているか、わからないと悩む母親。本人も思いをうまく言葉にできず、家族からも孤立していました。

谷口さん:「もう『死ね』と人に言いたいくらいにつらい思いをしている。誰かに攻撃を加えてでもと。それぐらいつらい思いをしている。そういう受け止め方のほうがいいんだろうと」

苦しみや悲しみを誰にも相談できずに、孤立する子どもたちが、多くいます。こうした問題を早期に解決しなければ、やがて、深刻な犯罪や自殺につながりかねません。

谷口さん:「どうしても孤独の中で1人で考えたら悪循環を起こして、視野も狭くなりますし、ネガティブな思いに偏っていきますよね」

孤立した子どもたちのSOSをいかにキャッチするか。この日は、学校関係者による不登校生徒の情報交換の場に出席しました。

会議参加者:「お母さんとケンカをした日には学校に来れないとか」

会議参加者:「男の子なんですけど教室にはほとんどいけない状態で。お母さんもしんどくなっていて」

谷口さんたちは、学校や行政、警察など、県内1000以上の団体と連携し、孤立した子どもや若者のSOSをキャッチして支援を展開しています。

「死」という文字を書いていた少年を、再び訪ねることにした谷口さん。

少年に話しかけても、何も答えてくれません。

谷口さん:「(事務所で)みんながいろんな体験活動をやったり、ゲームをしたり、本読んだり、みんなで語ったり、みんなでカードゲームしよったね。俺はちょっとついていけんかったけど、カードゲームは」

少年:「何のカード?」

少年が、カードゲームに関心を示しました。

谷口さん:「(カードゲーム)強かと? 難しかろ? 戦略がいるっちゃろ? カードば出す順番とかさ」

少年:「うん」

5日後、谷口さんは少年を喫茶店に誘いました。

谷口さん:「カードゲームを教えてもらおうと思って」

少年の好きなカードゲームで遊びます。

谷口さん:「早い、さばきが」

少年:「クリーチャー1点回収」

谷口さん:「僕らがやるべきことって何かというと、言葉にできない思いであるとか、そういった状態。これをまずしっかりと、多角的に関わる中で見つめていく。本人の表情であったり言動であったり、自然に発せられるものの中から情報共有をしていくっていう関わりなんですよね」

谷口さんは、子どもの興味や関心を入り口に、信頼関係を築いていきます。この手法を、「価値観のチャンネルを合わせる」と表現しています。

少しずつ、少年が暴れた理由もわかってきました。少年の家は、母子世帯で5人兄弟。経済的な問題など、様々な事情が少年を苦しめていました。

谷口さんは、子どもだけでなく、保護者への支援も大切にしています。谷口さんたちの調査では、不登校などの子どもを持つ親の6割以上が、様々な悩みを抱えて疲弊していることがわかっています。貧困や介護、病気など。多くの場合、親もまた、誰にも相談できずに孤立しています。

谷口さん:「孤立に関わる問題、例えば貧困とか虐待というのは、実は世代を超えて連鎖して、より解決が困難になっているというのが今の時代なんだと思うんですね。そういった親御さんにもしっかりと必要な支援を届けていくという発想を持たないと、本質的な自立にはつながらないと思うんですね」

谷口さんたちは、子どもだけでなく、家族を丸ごと支援する取り組みを始めています。たとえば失業し、経済的な困窮から、子どもが不登校状態にある母子世帯のケース。谷口さんのNPOが手伝い、必要に応じて生活保護などを申請。子どものことで悩む親の心のケアもして、精神的な安定を図ります。そして適正を見て、親へ仕事を紹介します。同時に、子ども本人に対しては、学校に戻るまで、勉強や友人関係などもサポートをしていきます。

この日、谷口さんは少年を海釣りに誘いました。

谷口さん:「あっ来た来た」

谷口さん:「おお釣れた。ばっちこーい。釣れたやん」

谷口さんは、ここに1人の若者を誘っていました。彼も複雑な家庭環境の中で、不登校になった経験があります。谷口さんは、同じ境遇を乗り越えた若者の姿を、少年に見てもらいたいと考えました。

若者:「昔の俺と全く一緒ですね。いろいろふさぎこんじゃった時に、谷口先生も、俺だっているし、何でもいいから言ってほしいなって」

谷口さん:「今をしっかり乗り越えていければ、『あそこまでたどりつけるんだ』と、『こうなりたい、ああいう風に生きていきたい』と自分から立ち上がっていく力を育むことにもつながっていくんですね」

さらに谷口さんは、中学校や高校の時に、ひきこもっていた若者が、社会で働くためのサポートもしています。ここは、佐賀の土産物を販売する物産館。ひきこもりだった若者たちが職場体験し、仕事や対人関係に慣れていきます。

この活動は「職親」と呼ばれ、地域の事業主たちが協力しています。この物産館では、これまでに80人以上の若者たちの社会復帰をサポートしてきました。

若者:「こちらのレジ空いております、どうぞ」

この若者は、働きぶりが認められ、アルバイトから正社員になりました。

事業主:「いまほんとこの子がいないとうちの職場は回らないです。楽しいもんね?」

若者:「楽しいです」

事業主:「楽しんでやってくれているのが私もうれしい」

佐賀では、商店や飲食店など170以上の事業所が「職親」として若者を応援しています。

司会:多くの子どもたち、若者、そして家族が社会から孤立している現状を、どのように見てらっしゃいますか?

谷口さん:孤独の中で極限の状態に追い込まれている。そういった子どもたちは、少なくないと思っています。その1つの要因として上げられるのが、やはり経済的な問題。貧困の問題、非正規労働者の増加、経済格差という問題。保護者が、それこそダブル・ワークをしないと生活できないといった状態で、子どもたちと関わる時間すら確保できない、こういう状況になっています。学びたくてもお金がなくて学べない。社会参加・自立の機会すら奪われてしまう。こういった悪循環が起こってるのではないかと思っています。
また、より深刻なのが、SOSの声を上げることができない。孤立してしまうと、その状況から脱却することすら難しい状況が認められている。だからこそわれわれは、そういった現状をしっかりと理解をして、必要な支援を必要な人にきちんと届ける。そういったアウトリーチ型の活動を展開してるところではあります。

司会:親のみなさんに経済的に厳しい方が多いというお話ありましたけれども、こちらのデータをご覧ください。

正規雇用と非正規雇用の推移を表したグラフなんですけれども、赤で示した非正規雇用の人の数がどんどん増えて、今では全体の37%を越えています。非正規雇用の多くは、若い子育て世代に当たるんですね。

神野さん:貧困、それが孤立を生んでいくという悪循環の中に、子どもたちが巻き込まれている。教育というのは、本来そういう悪循環を断ち切るために存在してるわけです。日本は教育の位置づけが少しおかしくなっている。

司会:こちらは世界の先進国が教育にどれだけ公的な支出をしているかを示したグラフです。この中で日本は最下位となっているんです。

神野さん:ノルウェー、フィンランド、スウェーデンとか、上の方に並んでいる国は、基本、教育費がタダです。医学部であろうとタダで行けます。日本は教育費の公的な支出が小さい。ということは、自分たちで教育に多額の支出をしているということです。

司会:公的な支出が少ないということは、その分家計がその分を負担しなければいけない。

神野さん:そうです。本来平等に与えられるべき教育の機会均等が崩壊してしまっている。どんな家庭に生まれても同じようなスタートラインに立てるんですよ、というふうにはなってないということですね。

勝部さん:子どもの貧困の問題が、親の生活状況に合致してしまうということ、まさしくそうだなと思うんですけれども。先ほど8050という話をしました。親が80代で子どもが就労できてない50代の人たちが増えているということです。今80歳の人たちは、高度経済成長期に正規雇用がずっと継続できた年代の人たちだから、年金がまぁまぁある。だから子どもはかじれるスネがある。ところが、非正規がこれだけ増えて、40代の親よりもっと下になってくると、本当に親がお金がなく、スネさえかじらせられない。家族・親子が共倒れになる可能性が非常に深刻ではないかという危惧を感じました。