全国ハザードマップ

発災時 データで命は守れるか

2022/5/27

人の位置情報や道路の通行情報など、発災時のリアルタイムデータを利活用することで、より多くの人の命や生活を守ることができるか。今年3月、自治体や救助組織、有識者、データを扱う企業の担当者など、26名にオンラインで集っていただき、可能性や課題を2時間にわたり話し合いました。

 

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【出席者】※肩書きはオンライン検討会開催時点

〇熊本県知事公室 危機管理防災課 危機管理防災企画監 三家本 勝志

〇人吉下球磨消防組合消防本部 警防課 課長 早田 和彦、岩本 靖則

〇熊本市消防局 警防部 情報司令課 消防司令 小山 幸治(前 熊本県防災消防航空センター隊長)

〇一般社団法人 球磨川ラフティング協会 代表理事 渕田 拓巳

〇人吉市総務部防災安全課 課長 鳥越 輝喜

 

◎東京大学空間情報科学研究センター 教授 関本 義秀 <座長>

〇東京理科大学理工学部土木工学科 教授  二瓶 泰雄

〇京都大学防災研究所 教授 畑山 満則

〇京都大学防災研究所 准教授 廣井 慧

〇熊本学園大学経済学部 教授 溝上 章志

〇熊本大学くまもと水循環・減災研究教育センター 助教 安藤 宏恵

〇国立研究開発法人 防災科学技術研究所 総合防災情報センター長 臼田 裕一郎

 

〇一般社団法人 社会基盤情報流通推進協議会 大伴 真吾

〇本田技研工業株式会社 コネクテッド戦略企画開発部 戦略企画課 福森 穣、杉本 佳昭

〇(公財)日本道路交通情報センター デジタル事業推進部 杉田 正俊、小野 史織

〇特定非営利活動法人 ITS Japan 地域ITSグループ 理事 森田 淳士、部長 石毛 政男

〇(株)ドコモ・インサイトマーケティングエリアマーケティング部 部長 鈴木 俊博、副部長 森 亮太

〇(株)Agoop 代表取締役社長 柴山 和久、社長室 室長 佐伯 直美

〇(株)ゼンリン東京営業部官公庁担当 青柳 京一

 

事務局・進行 NHK(放送総局 大型企画開発センターディレクター 捧 詠一)

 

 

 

捧(NHK):これより発災時のリアルタイムデータ利活用検討会を始めさせていただきます。まず検討会の開催の目的についてお伝えします。

現在、人や車の位置情報や道路状況、世帯・事業所ごとの停電情報、衛星やセンサーによる浸水把握、土砂の移動検知など、発災前後にリアルタイムで状況を把握する技術は年々進化し、河川の水位や洪水、人流などの予測技術の開発も進んでいます。一方、発災前後での各種データ利活用の可能性や課題の洗い出しがまだ不十分なところもあると感じ、実際の現場でリアルタイムに生かしきれている状況にないのではと捉えています。

データをリアルタイムで利活用することで、早期避難や、より迅速な救助・救援等が可能となり、発災時により多くの方の命・生活を守ることができるのであれば、データを生かしきる努力を社会全体で重ねる必要があるのではないか。当検討会では、発災時に自治体や救助組織、住民など、データを活用する現場目線で、「どんな情報が発災前後に知りたいのか」「データで何がリアルタイムで分かり、どんな判断・初動対応改善が可能なのか」「どんな課題があるのか、その課題を克服する手はあるのか」「実際にリアルタイムで生かされるにはどうすべきか」などを忌憚なく議論し、得られた知見を一般に広く共有することで、発災前後でのリアルタイムデータ利活用の理解促進、機運醸成、並びに社会実装の迅速化に少しでも貢献できればという思いで検討会を企画し、本日、各所にご協力いただき開催させていただきました。

検討会はテーマも必要に応じて変えながら、数度にわたり開催し、意義ある取り組みにしていけたらと思っております。発災時にさまざまなデータを公開・利活用する団体、組織の方々とも継続的に連携していきたいと思っており、ぜひ今後含め、皆さまに随時忌憚なくご意見を頂きまして、またお力添えいただければ幸いです。

 

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関本(東京大学・本検討会座長):東京大学の関本と申します。最近ビッグデータという言葉はかなり言われて、世の中にも浸透してきていますが、「研究者が分析するデータ」と「現場で使われるデータ」とでは全然違うと思っていて、現場でうまく使えるまでには色々なことをしていかないといけないと思っています。例えば、生データを理解できるシンプルな形に加工する必要もあるし、リアルタイムで使えるものは個人情報、プライバシーであったり、データ量が重すぎたりとか色々な面でまだまだ、技術的革新もしていく必要もあるし、社会的・制度的な制約も少しずつ変えていく必要があります。そのような色々な工夫が引き続き必要となっていく中で、国・政府とは異なる、ちょっと外側の、パブリックな取り組みとして進めていけるというのはとてもいいと思うし、ありがたい機会だと思っていますので、ご協力いただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 

1.令和2年7月豪雨×熊本県 リアルタイムデータ検証

 

捧(NHK):本日は、災害で亡くなる方の命を救うために、特に「人流・車両通行データができることは」ということをテーマに、「救助が必要な人の把握をする上で課題は何か」。また「どんな情報があれば救えるのか」。また人流・車両通行データや他のデータも含め、「リアルタイムでデータ利活用するための課題は」ということで本日時間が許す限り、意見交換させていただきまして、次回の検討会並びに様々な形につなげられればと思っております。

まず事務局の方で試みております、令和2年7月豪雨時の熊本県に関するデータ収集・重畳の状況についてお話します。令和2年7月豪雨の際、2020年7月4日から激しい被害が発生しましたが、2020年7月3日から7月6日、並びに比較のために、1週間前や前月のデータを収集し、重畳を進めています。

 

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【令和2年7月豪雨時の熊本県内の各種データを地図上に重畳】

■人流メッシュデータ … 携帯基地局のエリアごとに所在する携帯電話を周期的に把握、携帯電話の台数を集計し、地域ごとにドコモの普及率を加味することで人口を推計。地域を500m四方に区切った区画(メッシュ)単位

■人流ポイントデータ …スマートフォンアプリから取得したGPSなどの位置情報を秘匿化・統計加工した位置情報データ

■人流ヒートマップデータ … 1時間分の人流ポイントデータを集計し、位置情報データの集まり具合を可視化

■車輌通行実績 … 実際に走行している自動車をセンサーとして得られる走行軌跡情報(プローブデータ)から、1時間ごとに通行実績がある道路を可視化。渋滞状況を色分け表示(緑:順調 黄:混雑 赤:渋滞)

■道路交通情報 … 都道府県警察本部及び道路管理者等から収集した通行止や渋滞等の情報

■浸水推定エリア … ①国土地理院 浸水推定図

②JAXA 地球観測衛星「だいち2号」による浸水域抽出

■洪水浸水想定区域 … 想定最大規模。降雨規模は1000年に1 回程度を想定。1年の間に発生する確率が 1/1000(0.1%)以下の降雨。

■避難所 … 令和元年12月1日時点の熊本県内の指定避難所・指定緊急避難所の位置と名称。

■住宅地図 … 発災当時の道路、鉄道といった構造物や建築物、行政界、一軒一軒の建物名称等。

■河川水位 …国交省水管理・国土保全局が所管する観測所における観測データ(1時間単位)

■停電情報 … 1時間毎に、市町村別で当時把握できた停電戸数を表示。

■断水情報 … 1時間毎に、市町村別で当時把握できた断水戸数を表示。

 

捧(NHK):人吉下球磨消防組合様に取材協力いただき、発災前後のデータ利活用につながりそうな事例をいくつかご紹介します。

まず「発災前の避難誘導」について。こちら、洪水浸水想定区域内における、過去と比べての滞在推定人数の増減になります。

 

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捧(NHK):また、500mメッシュ内の60歳から79歳の滞在推定人数がこちら。

 

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捧(NHK):人吉下球磨消防組合では当時、早期避難を呼びかける警戒広報を、土砂災害の恐れがある地域や浸水の恐れのある地域各所で行いました。こういった形で、高齢者であるとか、要支援者の滞在人数の推定値や平常時比較の値を出すことで、「人数が減っていれば水平避難している方が多い」、「人数が変わっていなければ水平避難していないのではないか」というような推定・傾向が掴めると、警戒広報に向かう優先順位に有用なのかどうか。

また「救助活動」について。当時はヘリによる救助の事例もかなり多かった中、洪水浸水想定区域内に滞在する人の位置がピンポイントでわかると、救助に向かう判断材料になりうるのか。逆にこういった情報があるとマイナスな点があるのかという点も検討していければと思っております。

 

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こういった視点で取材検証も進めておりまして、今後含め、ご意見いただければと思っております。またこういった検証をたたき台として、今後、発災前後のリアルタイムデータの利活用の可能性や課題を浮き彫りにしていければと思っております。

そういった中で、本日は「亡くなる命を救うために リアルタイムデータができることは」という議題にしました。特に議論すべきテーマと考えたからです。

目 次

1. 令和2年7月豪雨×熊本県 リアルタイムデータ検証

2.犠牲の多くは高齢者・要支援者

3. 浮き彫りになる 「公助の限界」

4. 人・車の位置情報 どこまで共有すべき?

5. 要支援者の位置情報 避難・救助に生かせるか

6. リアルタイムデータ整備 そもそも誰のため?

7. 発災前・発災時 リアルタイムデータ共有は可能か

8. 人口メッシュデータ 使いやすい単位はどれくらい?

9. 避難行動要支援者名簿の活用 課題は

10. 個人情報 発災時に利活用すべき?

11. 地震に豪雨 災害によって必要なデータも違う

12. 防災協定で 発災時に効果的な連携を

13. 災害規模に応じたデータ利活用判断が不可欠

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