発掘ニュース

No.257

2020.02.07

趣味/教育

1年でピアノがこんなに!?47年前『ピアノのおけいこ』

今回は発掘ニュースNo.242でもご紹介した『ピアノのおけいこ』斬新でユニークなレッスン番組です。

その講師を担当していた井内澄子(いのうち すみこ)さん『ひるまえほっと』(関東甲信越のみの放送)「発掘!お宝番組」に出演!番組のエピソードなどを語ってくれました。

井内さんは東京芸術大学卒業後、ドイツの音楽大学に留学。難関として知られるミュンヘン国際音楽コンクールで2位となるなど第一線で活躍するピアニストでした。

その井内さんが人生で初めてピアノを教えることに挑戦したのが『ピアノのおけいこ』

「自分のピアノが上手いとか下手とか、私そんなこと全然大事だと思わないのね。それよりも自分が何か探して、音で何か言えるようになりましょう!」

毎回、工夫を凝らしたレッスンが登場!

「いまここにある私の全財産、5円玉。これが落っこちないように弾いてみようかな。」

「落とさないように、あまり跳ねないで弾いてみてね。」

「チャリーンなんて落ちちゃった(笑)貯金箱に入れときましょう、これね。」

オクターブを体感するための体を使った、まるで体操のようなレッスンも!47年前に放送したとは思えない、今見ても楽しく勉強になる、それが『ピアノのおけいこ』です。

現在89歳の井内さん、第一声は「ひどいことやってましたね(笑)」

「演奏活動が中心でしたから、自分の勉強がしたくて教えてなかったんです。当時はオーケストラと一緒に動いたり、リサイタルで全国回っていたのでいつも留守にしていました。」

「こんな番組があるけれども、かえって教えてない人の方が面白いかもしれないからって、知っているNHKのディレクターさんがおっしゃって。娘がいてしょっちゅう留守にするのもかわいそうだなと思って、ちょっとそれで乗ってしまったんです(笑)」

こちらが井内さんご本人から提供いただいた1/2オープンリールのビデオテープ。10年間、断続的に担当されたうちの3期目、1973年の放送約80本分の一部をスタジオに。お友達に電気機器の専門家がいてビデオテープの機械が出来たので買わないかと言われて買ったとのこと。録画したものの、なかなか見る機会もなく放っておいたらカビが生えていて、もう要らないのでと数年前にNHKに提供してくださいました。今回再生してデジタル化することに成功!映像が甦りました!

ユニークなレッスンのいくつかをご紹介!

まずは“まりつき”で自然な強弱の付け方を体験。
「ピアノを叩いちゃいけません。汚い音がでちゃうからです」

力任せに“まり”をついて見せる井内さん。「不ぞろいの汚い音ね!」

「(一回一回)同じ感じで、少し手のところにつかむ感じね。非常に大事です。」

こちらは馬の人形、これでシューマン「らんぼうな馬のり」を練習?!

「これ馬なのね。すこし乱暴に動かしてみて?乱暴な馬乗りだったらどうしたらいい?少し元気が良すぎる馬乗りってどんな感じだと思う?」
実際に手で馬を動かしてみる男の子。
「跳ねてますね!」

そしてピアノで“らんぼう”を表現。
「そう元気よく。いいですね。とっても元気のいい感じが出て、すこし乱暴な感じも出てたし。音が乱暴じゃなくてよ。とってもよかったです。」

さらに、皆さんご存知の『キラキラ星』にオリジナルの伴奏を付ける宿題。生徒の皆さんが、それぞれの『キラキラ星』を披露!個性が出ます。

音をお聞かせできないのが残念ですが、こんなにそれぞれが違うイメージの曲になるのか?!とビックリしました。

大学生のお兄さんのアレンジには、小学生の女の子たちがうっとり!

“まりつき”を始め意外なレッスンの数々、その真意とは?
「音というのは“弾む”っていうことがとても大事で、音楽には“揺れ”というのも大事なのです。例えば音が一つ上がっている時には気持ちも一緒に上がらなければいけない、体も一緒に上がらなければいけない。それが機械のようにピアノを弾いてしまうと平らになってしまう。音で自分を表現することが大事ですから、体も一緒に動かせたら良いかなと。」

「最近は違うんでしょうけど、当時はヨーロッパに行くと日本人はリズム感が無くて、体でのリズムが無いってよく言われたんです。日本の芸術というと平らなものが多いですよね、能などでも、真っすぐ歩くとか。“スイング”、音と一緒に揺れるっていうことを覚えて欲しかったんです。」

さて井内さんの思いが詰まったレッスンを受けた子供たち。
どんなふうに成長していったのでしょうか?

その軌跡を一番年下の“マー坊”こと小川昌久くんの映像で振り返りました。

まずは4月、第1回の放送…

「昌久くんはおうちにピアノがあるのね?お姉さまがピアノをやってるのね、上手?」
「うーん…わかんない」
「わかんない?じゃあ、昌久くんがピアノに向かったらどんなことをするの?弾ける?」
「…」

恥ずかしがりながら右手の人差し指1本で、ドレミファソラシド、ドシラソファミレドと弾くマー坊。

2か月後の6月は…。

つまずきながらも両手をつかって、弾くことを覚え始めていました。

7月になると…

短い練習曲ですが、ほとんど間違えることなく弾き終えます。何より前向きに自信をもってピアノを弾いているという印象を受けました。先生も…「元気のいい音が出てましたね!」

そして1年後…

別人です!何が一番違うのかというと、情感たっぷりに弾く姿!まさにピアノで音を表現しているという言葉がピッタリの演奏でした。

実際にお聞きになりたい、見てみたいという方は、皆さんのお近くの放送局で無料でご覧いただくことが出来ます。「番組公開ライブラリー」で『ピアノのおけいこ』5本分を公開!もちろん最後のお別れコンサートでのマー坊のピアノもお楽しみいただけます!

さて『ひるまえほっと』に戻りましょう!実は今回、マー坊こと小川昌久さんと連絡を取ることができ、メッセージをいただきました。

「井内先生、お元気でいらっしゃいますか?マー坊です。昔の面影はありますか?現在私は金属パイプの加工メーカーで代表として頑張っています。残念ながらピアノとは無縁の生活をしていますが、『ピアノのおけいこ』で体験させていただいたことは、私にとって良い思い出であり大きな財産でもあります。

当時ピアノが全く弾けなくて、ピアノどころか音楽すらろくにわからなかった私に対して根気良く見守っていただき、小さかった私が毎回ワクワクしながらスタジオに通えるような色んな道具で遊ばせてもらって楽しかったですね。今ではマー坊と呼ばれるには少し無理があるおじさんになってしまいましたが、また先生にマー坊って呼んでもらえる日が来ることを楽しみにしています。先生もお体に気を付けて毎日をお過ごしください。」

「マー坊は最初に来た時、ピアノが弾けなくて。いきなり両方のゲンコツでガーンってやったんですよ。みんなビックリしちゃって…そのくらい元気のいい子だったんです。でもだんだん感性が良くなって。レッスンで毎回一つしか教えなかったんです、たくさんやってもダメなので。好きになってくれて、やっぱり好きこそものの上手なれですね。大きくなられても音に対して温かい気持ちを持っていらっしゃると思います。」

『ひるまえほっと』ではもう一つ、井内さんから提供いただいた発掘番組を紹介しました!
それはこちら…

1974年に放送した『歌はともだち』。井内さんがお嬢さんのモニカさんと連弾をしているシーンです!モニカさんは当時7歳。

「悪い母親でめったに一緒じゃなかったんです。主人がドイツ人でピアノも良く弾けたので娘とよく連弾をしていました。私はこのときすごく緊張しちゃって。ソロもあったんですが(娘との連弾が)気になって上の空で弾きました(笑)」

そのモニカさんはこの日、井内さんと一緒にスタジオにお越しくださいました!
柘植アナ「モニカさん、雰囲気が当時と変わりませんね!モニカさんは楽器は何か?」
井内さん「バイオリンを専門でやっています。ピアノはダメなんですけど(笑)音楽は好きでよかったと思います。私がやっているときはピアノが嫌いでテレビに出てると逃げて行ったんですが…。」

ピアノ上達の秘訣は?

いまは子供に教えることは全くなく、音楽大学の先生など専門家に教える活動をされている井内先生に、最後にピアノ上達の秘訣を伺いました!

「音に表情があることを見つけて欲しいんです。音が高くなれば自分の気持ちも高くなるということを感じて弾いてもらう。例えばオクターブを弾くっていうことが、どんなに気持ちの中で高揚するか感じてくれればだんだん面白くなってきます。音に表情があるってこと、ただ叩くんじゃなくて音を作っていくということです。やっぱり感じて欲しいです。」

たくさんのビデオテープを保管してくださったおかげで、貴重な番組をアーカイブスに保存することが出来ました。井内先生、本当にありがとうございました!そして益々お元気でピアノの先生としてご活躍を!!

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