弘法大師・空海の大日如来像を再現 生誕1250年の年に完成へ
- 2023年04月19日

かつて空海が構想して作られたとされ、15世紀に焼失した仏像を再現するプロジェクトが高松市の寺で進んでいます。制作開始から10年。弘法大師生誕1250年のことしいよいよ完成し、10月に一般に公開される予定になりました。コロナ禍を越えて姿を現す仏像。最新の制作状況を取材しました。
完成間近!空海の思い描いた大日如来像

2023年2月。私は東京にある制作が行われている工房を訪ねました。像はほとんどその姿を現して、顔の彩色や光背の小さな仏像などの完成を待つばかりの状態になっていました。黄金に輝く8頭の獅子が大きな蓮華座を支え、その上に、弘法大師・空海が開いた真言密教で最も重視される仏、大日如来が座っています。空海が約1200年前に構想したという仏像を、京都の寺、東寺の記録『東宝記』の記述をもとに再現するプロジェクトは、最終段階を迎えようとしていました。

進めているのは、高松市にある四国霊場第80番札所、讃岐国分寺です。境内では、完成した仏像を安置するお堂の改修工事が進んでいました。

讃岐国分寺住職 大塚純司さん
「私自身は仏像が楽しみというよりも、その仏像を見て喜んで感動していただける皆さんの顔を見ることが楽しみです。」
2013年に始まった、このプロジェクト。10年かけてようやく完成が近づいています。仏像の制作にあたるのは、彫刻家の大森暁生さんです。写実的で幻想的な生き物の彫刻で知られている大森さんが今回目指しているキーワードは「畏怖」だといいます。

彫刻家 大森暁生さん
「人間が執着したあげくの迫力というか、すごみっていうか。それがやっぱりある意味畏怖を放つことなのかなと思うと、そういう意味では結構いい線までいったのかなという気はしています。」

『東宝記』で仏像の下に置かれていたと記録される8頭の獅子を、大森さんはそれぞれに個性を持つ姿で表現しました。正面は「不動明王」になぞらえ、炎をまとった剣をくわえています。「馬頭明王」は、馬の造形を工夫しました。

どうしても馬頭明王だけはどんな傑作を見てもかっこいいと思えなかったんですね。じゃあ自分なりに世界一かっこいい馬頭明王を作ってみようと思って。

大森さんの愛する古い車のデザインを参考に、馬が獅子の肩に常に寄り添い、風を起こしながら疾走するようなイメージを形にしました。
制作は工房のスタッフと共同で行います。彩色を担当する永岡郁美さんは、獅子に巻き付いたコブラの色にこだわったと教えてくれました。

彩色スタッフ 永岡郁美さん
「赤い絵の具を1色ぱっと塗ってしまうと、せっかく大森さんが彫った細かいうろこの模様が全部絵の具で埋まってしまうので、何度も何度も薄い絵の具を塗り重ねて、金泥を混ぜて、は虫類のような光沢や艶感と透明度と、でも赤みを感じるというのをすごく時間をかけてやりました。
“もっとこうしたいんですけどいかがでしょうか”と提案すると、“こだわらなくていい”と言われたことは一度もなくて、こだわりが生まれていれば愛着が湧きますし、楽しくなければこだわれないので。」

彫刻家 大森暁生さん
「とにかく思う存分やってもらう。“君は君らしさを出さなくていいよ”じゃなくて、それぞれの個性をぜひ出してほしい。最後きちんとまとめ上げる力量が棟梁(とうりょう)にあれば、個人の力で絶対できないレベルのものが作れると信じているんです。」
この大日如来像制作のプロジェクトは、コロナ禍で大きな影響を受けました。お遍路で訪れる人たちに寄付を募ってきましたが、人数が激減。2度のクラウドファンディングを実施し、1700万円あまりを集めました。いま、仏像を作ることの意味を大塚住職はこう話します。

讃岐国分寺住職 大塚純司さん
「日々増大するストレスとか不安を和らげて心のよりどころになるような存在がコロナ禍以降より求められているのではないかと感じています。弘法大師が同じように戦争とか疫病を仏教の力で乗り越えようという思いを込めて作った仏像を、いまふたたび再現します。
私自身、どこにもほかにこんなものを見たことがないというようなすばらしいものができまして、日本人、外国人、誰にも区別なく、あらゆる人に見ていただき喜んでいただけたらいいなと考えています。」
取材後記
工房を訪れたとき、その前から立ち去りがたくなるような作品にすでになっていると感じました。蓮華座の蓮弁をガラスで作るなど、仏像づくりとしての新たな挑戦も行われていて、完成した像がお堂に置かれる日が楽しみです。
※なお掲載している情報は放送当時のものです。