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能登半島地震1か月 海老名市の医師 心のケアが正念場に

  • 2024年01月29日

能登半島地震の発災から、まもなく1か月を迎えます。
今月20日から能登半島の被災地で心のケアを行ってきた海老名市の心療内科医に、今回の震災における心の問題の特徴と、私たちにできる支援を聞きました。
医師は、「心のケアの正念場」だと指摘しています。

深刻な心の傷

桑山紀彦さん

海老名市の心療内科医、桑山紀彦さんです。
東日本大震災では、当時住んでいた宮城県で被災しながら、避難所で被災者を支援しました。
その後熊本地震でも現地に入っています。
今月20日から石川県輪島市内を訪れ、5つの避難所で心のケアを行いました。

発災からまもなく1か月。
桑山さんが話を聞いた被災者からは、少しずつ自分の体験を言葉にしようとする様子が見られたといいます。桑山さんは、心のケアにおいて重要な段階に入ってきたと捉えています。

桑山さん

心の傷は非常に深刻だと思います。今回は揺れが激しかったり、長かったし、家屋の倒壊や道路の破壊がひどいので、本当に「死ぬかもしれない」と思ったと思います。
これからは被災者が話すべき時期なので、話し相手=傾聴する人が必要です。
発災直後は、まずは心を落ち着けなきゃいけないので、1週間から10日、ながくて2週間ぐらいというのはあんまりさわらないというのは大原則にしています。でもその時期が過ぎると、だんだんしゃべりたくなってくるんです。
心に受けた傷というのは、例えば記憶が乱れていたりとか、ビデオの映像を見るように、本当は伴っていなきゃいけない感情が剥がれ落ちてたまま記憶してしまってる人が多いんです。話すことによって失われた記憶をちゃんと取り戻して、順番に並べて、そこに「怖かったな」とか「つらかったな」とか、「ほっとしたな」とかそういう感情をくっつけて、自分らしい心の傷の物語を作っていくという段階にこれからどんどん入ってくるんです。それがうまくできないと結局心の中で整わない記憶や感情がじくじくと膿んできて、心的外傷後ストレス障害、PTSDという症状になっていくわけです。
親しい人同士で会話することが今一番大事な時期なので、2次避難、やむなしだったとは思うんですけど、それが心に対してはよくない影響を及ぼす可能性があるということですね。だから早期に、仮設住宅を建てて、戻ってきてもらって、早いうちにその地域のつながりを取り戻し、語れる場所をつくっていかなきゃいけないと思います。
この、被災から1か月が過ぎて3か月目ぐらいまでの間に、ちゃんと自分らしく語れるかどうかによって、その後が大きく変わってくるんですよね。だから2月3月というのはこれからとても心のケアにとっては大切な時期が来ます。

多発する孤立

現地での活動を経て、今回の災害はこれまでの震災では見られなかった特徴があると指摘します。
自主避難所や二次避難による「孤立」です。
現地では道路の寸断により、集落が孤立してしまったり、自主避難所が運営されることにより公的な支援とつながりにくくなっていたといいます。
さらに、早期の二次避難により、地域コミュニティが早い段階で分断されてしまっている点でも孤立が見られ、心の状態が悪化しやすい状況だと警鐘を鳴らしています。

桑山さん
今回の能登半島地震は心の問題が問われている災害だと思います。心の問題には孤立が一番よくないのに今回は本当に孤立をいろんな場面で見てきました。道路の寸断による孤立、それから2次避難によって地域の人がいなくなってしまってる孤立。それらを早期に解消しないと、心の問題が頻発する可能性があると思います。
「今回は特殊なのだ」と意識して臨まないといけないなと思います。孤立がかなりいろいろなことは起きてしまってるし、分断も起きてしまっているので、より一層被災者の皆さんが心の問題から身を守っていかないといけないんだよっていう自覚が必要だと感じます。

とにかく耳を傾けて

被災者が話したいタイミングで、自分に起きたことを語るためには、聞き手の確保が重要です。桑山さんは、そうした支援は、専門家だけでなく一般の人たちにも出来るとしています。

聞く力というのはみんな持ってると思うんです。大切なことは相手に対する思いやりと、こうだったのかなああだったのかなという想像力を持ってること。思いやりと想像力があれば、誰でも傾聴ってできると思います。私も東日本大震災では被災者の立場でしたが、かけてはいけない言葉は、特に無いと思ってます。「がんばれ」と言われると少し落ち込んでしまうので「ふんばれ」の方が良いですが、心配しているという気持ちが伝われば、どんな言葉でも嬉しかったです。未経験であって同じ経験をしてなくても、よき聞き手になれるんですよ。

被災者同士で話すには

ボランティアや支援が入るまでは、被災者同士でケアをし合わなければなりません。
話をする際に気をつけることを聞きました。

被災っていうのはやっぱり段階とかレベルに分かれてしまうんですよ。
家を失っている人、失ってない人、肉親を失ってる人、家族が元気な人など分かれるんですよね。だから被災者同士ですごく気を使います。僕らもそうでした。
自分は家も家族も失ってない。でも目の前にいる人は、家族を失ってる、どういうふうに話をしたらいいんだろうやっぱりいつも思ってますよね。
でも、そういう差は気にはなりますけれどでも、でもみんなで死ぬような思いをしたけど生き抜いたということについては全く変わりはないんだってことですよね。
だからそういう被災の違いはあるけれどそれを気にしないでお互い会話することがいかに大事かということだと思います。
今あるのは外から来た力ではなく、今そこにある人々の力なんで、そこであまり、他人の被災のレベルに気を遣うことなくお互いが会話することが今一番求められてると思いますよね。

子どもの心の傷 どう対応

まだうまく言葉にすることができない子どもに対しては、どう接したらいいのかもききました。

子どもってやっぱり言葉には長けていません。そういうときに出るのは体の症状なんです。
言葉には出せないけど心の中が重い、傷ついてると。例えば夜眠れないとか。
下痢が続くとか、頭痛がやまないとか、そういう体の症状で出ることも多いですよね。
それを体の症状と捉えるのではなくて、これひょっとしたら心についた傷がゆえに出てるんじゃないかという視点を持って、子どもと対応していかないと見落としてしまいますよね。
過去の地震でも、やっぱり体の症状と捉えず、その奥にある心の痛みや心の傷なんだなというふうに我々が思いながら、語りを引き出してあげることで、随分と体の症状とよくなりました。
学校の先生や親御さん、あるいは外から来た傾聴ボランティアの方などが子どもと接する時は、まずは言葉でなく一緒に遊ぶこととかスキンシップをすることとかそういうのから入ると良いです。子どもも安心するし、この人は安心できる人だって思ってもらえる。子どもたちといい関係を作ったら、必ず向こうからサインが出るんですよ。ねぇ、聞いてくれる?話してもいい?というサインです。
それをキュッとつかむことで会話って生まれてきます。本当に子どもって素直で聞いてほしいことについては直球で投げてきますんで、それを受け止めるような感じで子どもと関わると、良い形で寄り添えます。

二次避難先でもコミュニティ作りを

地元を離れざるをえなかった人たちの中には、親類を頼るなどして首都圏に移ってきている人もいます。
懸念されるのは、2次避難先での孤立で、コミュニティを意識的に作る必要性があるとしています。

やっぱり首都圏にくると、日々の生活が普通に過ぎているので、自分が経験したこととの差を感じ、そのギャップに苦しむってことは確かにあるんです。
そのギャップを埋めるために何ができるかっていうと、語ることですよね。
自分がどんなつらい思いをしたのか、どうして生き抜けたのか。今ここにいてどんな気持ちなのか。それを語ることにそのギャップが埋まっていきます。
首都圏での暮らしが長くなると、やっぱ自分のトラウマの経験にふたをしてしまって、でも蓋をしきれずに中でやっぱりじくじくとやっぱり膿んできます。
そのためには被災地とのつながりを絶たないでいただきたいなと思いますよね。
つらい思いした人たちに一番大切なことは誰かと一緒にいるってことなんですよ。
一人では、本当に力が出ないし心の傷はどんどん膿んでいきます。
誰と一緒にこれからいわゆる被災した状況の人生をどう生き抜く方が大切で、それは地域の仲間といるべきだし、そして外からいらっしゃったボランティアさんに、その自分の物語を語ることで、いい人間関係を築いていくこと。
これもこころの元気さにはとても大切なことなんですよね。被災したがゆえに、多くの人と、接しながら交わりながら心を癒やしていく。その方向性を意識しててほしいなと思うんです。
多くの人とこれから触れ合うことによって心はいかようにも復活しうるんですよってことをお伝えしたいです。 

桑山さんは2月下旬にも輪島市に入り、本格的な支援活動を始める予定だということです。

  • 佐藤美月

    横浜放送局 記者

    佐藤美月

    2010年入局 川崎市を担当。「すべての子どもが生き生きと暮らせる社会」をテーマに取材を続ける

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