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平塚の養豚業者や横浜のIT企業 デジタル人材の獲得競争激化

  • 2023年12月20日

デジタル化を進める養豚業者。
デジタルの実務経験ゼロでも中途採用するシステム開発会社。
国を挙げて進められるDX(=デジタルトランスフォーメーション)。
激しさを増す人材獲得競争の現場を取材しました。

養豚業もデジタル化を!

あらゆる業界で進むデジタル化。
それに取り組むプログラマーやデータサイエンティストといった「デジタル人材」は引っ張りだこです。
デジタル化の波はこんな業界にも。
神奈川県平塚市に本社がある創業60年余りの養豚業社を訪ねました。
関東や東北に8つの養豚場があり、年間30万頭を出荷しています。
いま、業務のデジタル化を進めています。

センサーで温度を確認する作業員

例えば、暑さに弱い豚が病気にならないために必要な豚舎の温度管理。
これまでは数時間おきに豚舎を見回って温度計をチェックし、数値を1つ1つ記録していましたが、センサーを導入することで計測も記録も自動で行えるようにしました。

餌のタンクを確認する作業員

今後は、豚がどれだけ餌を食べているかや水をどれだけ飲んでいるかなどについても自動で確認できるようにしたいとしています。

養豚が続けられない

デジタル化を進める背景は、深刻な人手不足です。
担当者は若者の農場離れを感じているといます。

「フリーデン」緑川千征 人事部長

緑川さん
養豚の現場に人を募集しても来てくれません。少子化に加えてこれまで新卒で採用できた農学部などの学生も近年は現場を避けるようになってきています。

新型コロナも影響

追い打ちをかけたのが新型コロナウイルスの感染拡大です。
大学での対面の企業説明会が開けなくなり、会社を知ってもらう機会が減ったことで、新入社員が半減したといいます。

緑川さん
このままだと豚の飼育の担い手がいなくなり、養豚場を閉めなくてはいけないおそれがあります。豚の飼育はマニュアルはなく、現場で先輩の背中を見て学ぶところが多いのですが、今の若い子たちは本当に背中を見ているだけという笑い話になってしまう。ノウハウの継承という意味でも業務のデジタル化を進めて、誰にでもわかるようにしたいと思っています。

初のデジタル人材採用

デジタル化で取得できるデータを、養豚業務の効率化にいかしていけるよう、去年からITに詳しいデジタル人材の採用に乗り出しました。
最初の年は確保できませんでしたが、来年の春には初めて1人のデジタル人材が入社予定です。

緑川千征 人事部長
ITも養豚業にいかせると思ってもらえるように、いろんな形で養豚業に興味を持ってもらえるような会社にしていきたいです。

デジタル人材は引っ張りだこ

デジタル人材を求める業界は多様化しています。
卒業生がさまざまな業界に就職する、横浜市内のIT系専門学校を訪ねました。

この学校ではおよそ1200人がプログラミングやAIを使ったシステム開発などを学んでいます。
校内掲示板には社員募集やインターンのちらしがところせましと掲載されていました。
コロナ禍前に比べて求人が格段に増えているそうです。
ことし就職活動を終えた学生からは「希望通りにスムーズに就職活動を進めて、4社から内定をもらえた」とか、「業界の盛り上がりを感じる」といった声が聞かれました。
この学校に寄せられたIT企業以外の業界からの求人は2019年は39件でしたが、ことしは102件と倍以上に増えました。
「岩崎学園」就職支援センターの髙山和也次長は、求人の中身に変化が出てきているといいます。

「岩崎学園」就職支援センター 髙山和也 次長

髙山 次長
コロナ禍前と比べてメーカーや金融機関などIT企業以外からの求人が格段に増えています。業務のデジタル化を進めるにあたって、これまではシステムエンジニアなどの人材を外部に頼るのが当たり前だったと思いますが、いまは社内で直接採用していく企業が増えていると思います。
会社の説明会をしたいとか産学連携の取り組みを行いたいという声があり、早い段階から学生を囲い込むような動きは増えています。

IT企業も試行錯誤

デジタル人材のニーズが高まるなか、IT企業も人材獲得への工夫が求められています。

横浜市にあるシステム開発会社では、プログラマーなどのITエンジニアを確保するため、新卒だけではなく、さまざまな採用を導入してきました。
外国人の採用に注力し、アジアや欧米など幅広い地域から全社員の2割ほどを採用しました。
グローバルな知見をもった、一定レベルの人材を確保できるメリットがあるといいます。

このほか、60歳前後のシニア層の採用も進めています。
商社やメーカーなどで長年ITエンジニアとして働きながらも、年齢を理由に第一線から退いていく人材を積極的に確保しています。

60歳の社員
鉄鋼商社でシステム情報部門にいました。定年を迎えたあとの収入をどうしようかと
考えていて、この会社に入りました。技術が好きな人の中で新しいことも学ぶことができるので楽しいです。

57歳の社員
以前の会社ではメーカーでソフト開発を行っていました。いまはお客さまに近いところで仕事ができるので刺激的です。

未経験者もデジタル人材に!

それでも人材は足りません。
厳しくなる獲得競争のなかでいかに人材を確保していくのか。
この会社では未経験者も採用して育てていくことにしました。
ITスキルや学歴を一切不問とした中途採用を今月から始めました。

未経験者OKの中途採用説明会

応募条件は熱意のみ。契約社員として採用後、半年間はみっちりと研修を行って
未経験者でもデジタル人材にしてしまおうというのです。

説明会参加者
IT業界での勤務経験はありませんが、研修が手厚いと聞いてやる気が出てきました。

3年ほどIT企業に勤務したことがあり、いまは出版関係に勤めています。
プログラマーとして生きていきたいという思いが強くなったので、一から再スタートというかチャレンジができる機会がいいなと思って参加しました。

「システムアイ」の葛川敬祐社長は、人材獲得にむけた新しい挑戦を続けていくことが重要だと話しています。

 

「システムアイ」葛川敬祐 社長

葛川 社長
我々の業界では採用の難易度は上がっていると感じます。日本中の会社がIT人材、DX人材を熱望している状況なので、普通にとりに行くだけでは十分に採用できなくなっています。いろんな仕組みを積極的に試していく必要があると思います。

デジタル人材 230万人不足

国は、デジタル社会の推進には330万人が必要で、いまは230万人が不足しているとしています。
8割の企業でデジタル人材が足りないとする調査結果もあります。
国はデジタル人材育成のため、教育コンテンツの提供や、職業訓練におけるデジタル分野の重点化などを進めていくとしています。

  • 岩本 直樹

    横浜放送局 記者

    岩本 直樹

    経済、防災などを取材

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