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相模原 津久井やまゆり園 支援のあり方模索続けて

  • 2023年07月26日

相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で、元職員が入所者19人を殺害した事件から7年がたちました。
職員たちは元職員が起こした事件を重く受け止め、支援のあり方を模索しています。
現場の取り組みを取材しました。

横浜放送局記者 古賀さくら

19人が殺害された事件から7年

2016年7月26日、相模原市にある県立の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で、元職員の男が入所者ら19人を殺害、26人に重軽傷を負わせた事件が起きました。

事件当時の様子

元職員は裁判で、施設の同僚の職員や入所者の言動などから、「障害者には生きる価値がない」と考えるようになったと、ゆがんだ主張を繰り返しました。

おととし再建 60人が生活

園は事件後取り壊され、おととし再建されました。
重い知的障害があるおよそ60人が暮らしています。
多くは事件前からの入所者です。
入所者の中には、自分で自分を傷つけてしまう人もいて、限られた職員で24時間見守っています。

変わらないといけない

現場責任者の1人芝崎康宏さんは、自分たちが変わらなければならないと、強く感じています。

津久井やまゆり園 芝崎康宏主任
芝崎さん

本人たちに虐待と思われるような支援を行っていたというところでいうと、やっぱり全員が意識を持って改革していかないと、なかなか難しい部分かなと思います。

「虐待の疑い極めて強い」と指摘

理由の1つは事件後に行われた県の検証報告です。
園ではものを壊したり、自分や他人を傷つけてしまう入所者に対して、安全のためとして自室に鍵をかけて一日中閉じ込めるといった身体拘束を行っていました。

検証委員会の報告書

こうした行為が、虐待の疑いが極めて強いと指摘されたのです。
園では再出発にあたり、

▼身体拘束はしないこと、
▼入所者の思いをくみ取り、望む暮らしを実現すること

を目標に定めました。

本人の意思くみ取る支援は

1人1人にあわせた工夫も始めています。

10年以上前から園で暮らしている30代の男性に対しては、予定を分かりやすくする支援を始めました。

予定を示したカード

次の行動を示すカードや模型を施設の中に貼りつけます。
作業を示す模型を持った男性は作業台に向かい、集中して軽作業に取り組みます。

次の予定はおやつの時間。
模型を持って席に向かいました。

部屋の外から鍵をかけていた

実は、園では以前、男性の部屋の外から鍵をかけていました。

突然ものを壊したり、ほかの入所者をたたいたりしてしまうことがあるからでした。
園内には男性が作った穴が多く残っていました。

芝崎さんは、理由があるのではないかと感じています。

芝崎さん

もともと男性には、できることが本当はすごくたくさんあるんです。本人ができることなんだけれども、例えば一緒にやって欲しいとか、手伝って欲しいとか、誰かにみていてほしいとか、そういうような希望強くて、それに応じられないことで生活が崩れるみたいなところがあるので。

男性は、トイレ以外の場所で排せつを繰り返していますが、模型の支援を受けて、廊下などで排泄することは減りました。
予定に沿って行動している間は、落ち着いて過ごせています。

本人の意思に沿っているのか?

しかし本当に本人の意思に沿った支援と言えるのか。
職員たちは迷いを感じています。

本人が好んでもいないものを、無理くりやるように仕向けるという事自体がちょっと抵抗があったんですが、作業自体はものすごく好きでやっているような様子も見える。

ご本人の望む生活というよりは、どちらかというと、こちら側がご本人がより安定して過ごすために進めている部分なので。今後はそこも着目しながら考えていければ。

希望をかなえる支援を

入所者の希望をかなえる支援を目指す中で、難しさにも直面しています。
この日、入所者のせなさん(25)が、1人で外出しようとして、職員にとめられていました。

交通事故にあう恐れがあるため、せなさんの外出には職員の付き添いが必要なのです。

去年、施設に入所したせなさん。
自宅にいた時は、買い物などの外出を楽しみにしていました。

せなさん

せなさん
ここ(津久井やまゆり園)は慣れない。
電車に乗りたい。お出かけは楽しい。

どうしても外出したいせなさん。
職員の数が限られる中で、できるだけ希望を叶えるために話し合い、翌日に出かけることにしました。

翌日、約束通り地域の商店にでかけました。

自分で買いたいものを選び、お金を払い、お礼をいう。
当たり前のような一歩が、社会につながっていると感じています。

芝崎さん

意思のくみ取りで、本人たちがやりたいことを、より提供しやすくなりました。こちらで狭めていた部分が、より広がっているんじゃないかという風には思っています。「こういうふうにしたら、この人たちの生活が良くなるんじゃないか」「こういうときに本人の表情がいいんだから、じゃあそういう機会をもっとどうやったら作れるのか」そういう考え方で支援を行っていけるといいと思います。

施設外部からの支援を

障害者福祉が専門で、神奈川県のアドバイザーとしてやまゆり園に関わった淑徳大学副学長の鈴木敏彦教授に、園の取り組みについて聞きました。

淑徳大学 鈴木敏彦教授
やまゆり園の入所者の意思をくみ取る取り組みは、この数年で格段に進んだが、入所者みなの希望が十分にかなっているかというとまだまだの状態だ。
園の努力も大事だが、外出を助けたり、働く場を提供したりといった外部の支援が不足している。これはやまゆり園だけの問題ではなく、全国どこでも同じ状況だ。

取材を終えて

事件当初から園の取材をする中で、職員の入所者への向き合い方が、大きく変わったと感じています。
職員同士で、「入所している人たちがこんなことをしたら うれしそうだった」とか、「こんなことができるようになった」といった話をしているのをよく見るようになりました。
以前は安全に管理するという意識を強く感じましたが、いまは1人1人に向き合って意思をくみ取りたいという思いを感じるようになりました。
ただ、意識は変わっていますが、支援のあり方はまだ試行錯誤の段階です。鈴木教授が指摘するように、重い障害がある人たちを施設だけで支えるのではなく、一緒に働いたり、ふれあったり、社会で広く受け入れていくことが必要だと感じました。

  • 古賀さくら

    横浜放送局 記者

    古賀さくら

    事件当時は厚木支局に勤務。施設の入居者や家族の取材を継続している。

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