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川崎市全国初の刑事罰付ヘイトスピーチ条例3年 成果と課題は?

  • 2023年06月30日

民族差別的な言動「ヘイトスピーチ」に対して、全国で初めて刑事罰を盛り込んだ条例が、川崎市で施行されてから2023年7月1日で3年になります。
条例の効果と課題を取材しました。

ヘイトに刑事罰 全国初の条例

「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」。
在日コリアンに対する差別的なデモが市内で相次いだことから、2020年7月1日に施行されました。
人種や民族、性的指向などについて、あらゆる差別的な取り扱いを禁ずるとしています。

大きな特徴は、在日コリアンなどに対して民族差別的な言動、「ヘイトスピーチ」を繰り返した場合に、刑事罰を科す内容を盛り込んだことです。
全国で初めてのことでした。

刑事罰の対象となるヘイトスピーチ
▼対象:道路や広場、公園など、市内の公共の場所での言動。
▼内容:「居住する地域からの退去を扇動・告知する」
「生命、身体、自由、名誉、または財産に危害を加えることを扇動・告知する」
「人以外のものに例えるなど、著しく侮辱する」もの。
▼手段:「拡声機の使用」「看板やプラカードなどの掲示」「ビラやパンフレットなどの
配布」
▼違反後の手続き
①市長が同様の行為を6か月行わないよう「勧告」
②期間内に再び違反行為があれば「命令」
③命令から6か月以内に3回目の違反が行われた場合、個人の氏名や団体の名称、住所などを公表。刑事告発を行う。罰則は50万円以下の罰金。

3年間で違反は0件

川崎市人権・男女共同参画室 松本聡担当課長

条例の施行後、市の職員が定期的に街頭に出向き、差別的な発言や横断幕の掲示などがないか、表現の自由に配慮しながら確認しています。
これまでのところ、条例の対象となるような言動は確認されていないということです。
6月下旬のある日、街頭に出かける市の担当者に話を聞きました。

松本聡担当課長
条例にあるような言動やプラカードなどがないか、慎重に確認しています。憲法で保障されている表現の自由だとか、言論の自由がありますので、そこを侵害しないように、言論の萎縮を招かないように、慎重に判断して確認していきたいと思っています。

駅前に行く恐怖が減った

川崎市の在日外国人との交流施設、「川崎市ふれあい館」の館長で、在日コリアン3世の崔江以子さんは条例の効果を感じています。

条例施行前に見られた、あからさまな差別、ヘイトスピーチが街宣活動等で見られなくなりました。これは条例の効果で、駅前に行くことへの恐怖や躊躇がぐっと少なくなりました。まわりの在日コリアンからも、「ヘイトは犯罪だと社会の意識が変わり、自分たちがいることが認められた気がする」という声があがっています。

ネット上の差別は後を絶たず

インターネット上の書き込みを確認

条例には、罰則の対象にはなりませんが、インターネット上のヘイトスピーチの拡散防止も盛り込まれています。
市では条例の施行後、インターネット上の差別的な言動について、SNSの運営業者などに削除を要請する取り組みも行っています。
委託業者が調べたものと、市民から申し出があったものの、あわせて1500件の書き込みについて、内容を精査した上で一部を専門家の審査会にかけます。
▼特定の市民や団体を取り上げているかや、
▼差別的な意図がないかなどを判断した上で、84件の削除要請を出しました。

インターネット上の書き込み

このうち55件が削除されましたが、インターネット上の差別的な投稿は後を絶たないということです。

川崎市人権・男女共同参画室 松本聡担当課長
条例は街頭でのヘイトスピーチに関しては一定の成果をあげたと考えている。一方、インターネット上ではスピーディーに同じような書き込みが反復されたり拡散されたりと、もぐらたたきのような状況だ。
国や法務局とも連携し、少しでも効果的な手法を考えていきたい。

専門家「国レベルの対策を」

ヘイトスピーチの問題に詳しい東京造形大学の前田朗名誉教授に、条例の評価と今後の課題を聞きました。

東京造形大学の前田朗名誉教授
条例が街頭でヘイトスピーチをする人たちの抑止力となったといえる。一方でインターネットは地理的、空間的な境界線がないため、特定の地方自治体で取り組んだとしても効果は限定される。自治体どうしで連携したり、国のレベルで同様のことをきちんと積み重ねたりして、相互に協力しながら対策をすることが必要だ。

取材を終えて

今回の取材を通じて、行政が刑事罰をつけて「差別は絶対に許さない」と強い姿勢を示すことが、実際にヘイトスピーチを減らすことにつながるという有効性を感じました。
ただ、後を絶たないインターネット上の被害に対応することは非常に難しく、市だけでなく国などの機関や、インターネットのプロバイダやSNSの運営会社などの民間企業、そしてそのユーザーである私たち市民が、「差別を許さない」という機運を高めて、対応していく必要があると感じました。

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