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元陸上自衛官 “性被害” 民事裁判始まる 横浜地裁

  • 2023年06月16日

陸上自衛隊の部隊で複数の隊員から性被害を受けたとして、実名で被害を訴えた元自衛官の五ノ井里奈さん。
国と元隊員5人に対して賠償を求めている裁判が6月14日、横浜地方裁判所で始まりました。一部の隊員は「性暴力にあたる行為はなかった」などとして争う姿勢を示しました。
一方、国は、性暴力の事実について認めた上で、法的責任の有無などについて追って主張したいとして「留保」しました。

性被害「配属後まもなく始まった」

五ノ井さんは、2020年に福島県郡山市の陸上自衛隊の部隊に配属されました。
訴えによりますと、配属後まもなく、性被害が始まったということです。
当時の上司など複数の隊員から、勤務中に体を触られたり、宴会の場で格闘技の技をかけられて倒されて何度も下半身を押し当てられたりするなど、性的な行為を執ように受けたということです。
 

実名で被害訴え ようやく動いた防衛省

五ノ井さんは退職後、実名で被害を訴えます。
それを受けて、防衛省は2022年9月に本格的な調査に乗り出します。
そして調査の結果、防衛省は性暴力があったと認定。
当時の上司など5人を懲戒免職にしました。
また、このうち一部の隊員は、五ノ井さんに直接謝罪もしました。

国と元隊員5人を提訴

2023年1月、五ノ井さんは自身が受けた性被害について、司法の場で国と元隊員5人の責任を問いたいと横浜地裁に訴えを起こしました。
当事の上司など元隊員5人のほか、被害について自衛隊内の相談窓口などに申告していたにもかかわらず、十分な調査や対応がなかったとして、国に対しても賠償を求めています。

始まった裁判 五ノ井さん本人も出廷

提訴から4か月あまりたった6月14日、横浜地裁で第1回目の裁判が開かれました。
民事裁判では、当事者や代理人の弁護士は必ずしも出廷する必要はありませんが、五ノ井さんは弁護団とともに直接出廷しました。
一方、元隊員5人とそれぞれの弁護士は出廷はせず、書面を提出するかたちで裁判に対する意見を述べました。
国は、法曹資格を持つ代理人など10人あまりが出廷しました。

入庁する五ノ井さんと弁護団

元隊員5人の主張分かれる 

書面を通じて意見を述べた元隊員5人は、主張が分かれました。
このうち、元隊員4人は「五ノ井さんが主張するような性暴力を行った事実はない」と行為を否定。
争う姿勢を示しました。
一方、元隊員1人は、性暴力の行為について認め、争わないとしました。

国の主張は

裁判で国は、性暴力の事実については認めましたが、国が負うべき法的責任については、意見を「留保」しました。
国の意見の概要は次の通りです。

五ノ井さんが主張している性暴力があった事実は認める
当時の上官の対応や、複数の同種事案が起きていることも含め、極めて深刻な事案として遺憾な事態だと受け止めている
国として、事実関係に即した迅速で適正な解決につながるよう、今回の裁判に対応していく。

防衛省の調査によると、五ノ井さんが当時所属していた部隊の上官は、被害の訴えを受けていたのに事実関係の調査を十分に行わなかったことが確認されている。
そのため国は、職場の安全確保にいついて配慮できていなかった法的責任を負う可能性があると認識している。

求められている賠償に対して適切な意見を述べるためにも、今後、五ノ井さん側の具体的な主張を待った上で意見を述べたい。

五ノ井さん会見「悲しく、悔しい」

会見する五ノ井さん

第1回の裁判を終えた五ノ井さんは、記者会見に臨みました。
会見の一問一答です。

記者

Q:元隊員らの意見の書面を見た受け止めは?

五ノ井さん

許しがたい書面がきました。このうち1人は話し合いたいという内容だったので応じようと思っていますが、他の4人は本当にひどい書面を出してきました。以前にあった謝罪は何だったんだろうと思います。
書面を読んだとき、本当に言葉に言い表せないぐらい悲しい気持ちというか、悔しさ、いろいろな気持ちがあったんですけど・・・。
もし彼らの妻や子供たちが同じようなことをされたとして、同じような書面を出せるのか。本当に許せない気持ちになりました。

記者

Q:自衛隊内でハラスメントが横行していることを問う裁判は他にもあるがどう感じている?

五ノ井さん

今も現役の自衛隊員でハラスメント等で苦しんでいる方がたくさんいるので、自衛隊は、組織内を早く、ハラスメントのない環境にして欲しい。

記者

Q:元隊員のうち3人については今後、強制わいせつの罪に問われている刑事裁判もある。今の思いは?

五ノ井さん

私は、やっぱり毎日ストレスを感じているんですけど、しっかり加害者たちが反省をして、罪を認めることが、次の被害者を生み出さないためにも抑止力になるんじゃないかなと思ってます。私の場合はとにかく本当に反省してほしいという気持ちです。反省してほしいです。

記者

Q:今回、国は意見の中で一部の責任を認める可能性について触れているが、納得している?どのような受け止め?

五ノ井さん

国は、裁判の中で事実を認めた上で、本当に職場環境を改善してほしい。私のもとには、声を上げても対応されず、かなり困っているという声が届いている。職場環境に問題があると思うのでハラスメント教育を進めてほしいなと思っています。

記者

Q:今後も裁判が続いていくことについて不安は?

五ノ井さん

私の気持ちがもつのか分からないですけど、あった事実はしっかり証明したいと思いますし、最後まで闘いたいと思っているので、しっかり事実が認められて、法的責任が認められてほしいと思ってます。この行動で前例を作ることができれば、同じように苦しんでいる人に勇気を与えたり、再発防止につながったりして、こういう事は無くなるんじゃないかと思うので、私は逃げずに諦めずに闘うつもりです。

記者

Q:再発を防止するためにどのような仕組みが必要か?

五ノ井さん

ハラスメント窓口などが実際のところ機能していない面があります。仕組みというよりも、ハラスメントに対する向き合い方がどうしても軽く見られてしまっている。ハラスメントに対する考え方を変えて欲しい。上司がしっかりした考え方を持っていれば起きないし、あったとしても、すぐ対応してくれて解決まで導けるはずです。もっと上司がハラスメントの教育を受けて、本当にいけないことなんだという意識を持つことが大事なんじゃないかなと思います。

記者

Q:民事裁判に臨んだ理由を改めて。

五ノ井さん

やっぱりあった事は事実なので、逃げるつもりはないのでこうやって表に出ています。しっかりと闘っている姿っていうのは、自分のためでもあるんですけど、同じように苦しんでる方がたくさんいるので、少しでも何か感じてもらえればと思っています。

記者

Q:自衛隊は近年、希望者が少なかったり途中で辞めたりして人材不足が指摘されている。この点について意見をきかせてほしい。

五ノ井さん

いろいろな理由で入隊されている方がいると思います。どこかの大学に行きたいからお金を貯めるために入るとか、いろいろな理由で入っている方がいます。全てがハラスメントに原因があって辞めているわけではないと思います。しかし、ハラスメントがあるというのは事実で、それが原因で退職されている方も多いので、組織の中に問題があり、働きやすい環境とはいえないところもあります。少しずつ環境を変えてハラスメントを無くしていくしかないと思います。
それから、隠蔽体質が結構あると思っているので、もし相談された上司の方がいたら、しっかりとさらに上の立場の人に報告するなどしてほしいです。
どうしてもハラスメント行為が軽く見られたり、受け止められたり、さらには隠蔽をしたり事実を伏せてしまったりする上司も結構みられます。正義感をもって上に報告してほしいという思いはあります。

裁判 次回手続きは9月6日

横浜地裁で始まった裁判、次回の手続きは9月6日で、非公開で行わる見通しです。
民事裁判では、2回目以降の手続きについて、それぞれの当事者と裁判官が非公開の場で話し合いを進めることが多くあります。
次回の手続きでは、今回明らかになった元隊員や国の意見を踏まえて、五ノ井さん側から、追加の意見をまとめた書面が提出される見通しです。
また、今回の裁判とは別に、元隊員ら3人が五ノ井さんに対する強制わいせつの罪に問われている刑事裁判の初公判が、6月29日に福島地裁で開かれることになっています。

  • 田中 常隆

    横浜放送局 記者

    田中 常隆

    2011年入局。初任地は水戸放送局。 2016年から在籍した社会部では検察・裁判など司法分野を担当。 2022年から横浜放送局で警察、司法分野を中心に取材。

  • 小林 奈央

    横浜放送局 記者

    小林 奈央

    2022年入局。県警や海保などの担当として事件・事故を中心に現場取材に駆け回っています。

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